号外祭り
学園祭が終わった。それはそれで目の回るような学園祭になった。学園祭としても盛り上がったが、多数の妖魔出現で、生徒はもちろん、教師も大わらわだった。
礼人は申し訳なく思いながら、グラウンドで片付けをしていた。
「全部が全部礼人くんのせいじゃないって」
「……まあ、そうだろうが……」
まことが励ましてくれるが、だからといって、体質の影響について、考えないわけにはいかない。まあ、手っ取り早い解決策は、黄泉路、魔泉路を見つけ出し、スサノオの力で封印してしまうことだ。
黄泉路、魔泉路を封印してしまえば、妖魔が人間の世界に出てくることはなくなる。
「でも、スサノオの力でできるってことは、禍ツ姫の力でも封印できるんじゃ……」
「いいや」
礼人は散らばっている新聞部の号外を拾い、首を横に振った。
「禍ツ姫の役目は、黄泉と現世を繋ぐこと、だ。繋ぐ役目があるから閉じてはいけない。もちろん、禍ツ姫は幽霊を強制的に黄泉に送る力はある。でも、黄泉への路を閉ざしてはいけないんだ。そうしたら、死んだ霊魂が未来永劫この世をさまよい続けることになるからな」
「確かに」
「まあ、この世にも穢れはあるから、黄泉路に限らず妖魔になってしまう場合はごく稀だがある。そういうときのために、妖魔に霊を返す存在が必要なんだ」
解説しながら号外を拾っていく。学園祭終了時、礼人とまことはグラウンドにいたため、こうしてグラウンドの片付けを手伝っている。文芸部の手伝いの方がいいのでは、と考えもしたが、学園祭終了間際に散らかされた号外は地面を埋め尽くさんばかりで、しかも才能の無駄遣い甚だしいことに、新聞部の技能、想像タイプによって号外に施された「この号外を踏んではいけません」という表記により、号外を踏んで歩くことができない。故に、露店を構えていた部活が片付けが捗らずに困っていた。ちなみに踏もうとすると弾かれて転ぶ。更に転んだ先にも号外があると更に弾かれて泣きっ面に蜂というなんとも哀れな状態に。見ていられなかったため、こうして手伝い、グラウンドの本来の姿を取り戻すべく奔走しているのだ。
「これが二日間で合計何回行われたのか」
「あはは……一日目は確か、優子先輩が風で号外吹き飛ばしたとかいう逸話がありましたよね」
そう、一日目の一番最初に出た号外は優子がシルフを使って吹き飛ばし、回収したという逸話がある。故にその号外を手にした者は少ない。
シルフで風を操り、号外という号外を全て自分の手元に回収、サラマンドラで焼き尽くしたとか。
「まあ、結局、手にした数人からは奪えず、噂が蔓延したんだが」
文芸部でゲットしたやつが一人いた。眞鍋雪である。
彼女は号外集めに執心しているらしく、号外と聞くと、すぐに飛びつく。八月に出た「優子と代永の恋愛疑惑」や九月に出た「礼人とまこと、恋の予感」といった号外も持っている。
他にも「海の日事件、妖魔軍勢!?」などといった感じの去年の号外も持っている。
「あれだけはなべせんに感心した」
「なべせんじゃなくて眞鍋先輩でしょう」
言いつつも、まことも笑っている。
一日目の最初の号外は「水島優子と代永爽、ついに交際か!?お化け屋敷にてカップル価格利用」というものだった。ちなみにお化け屋敷に二回も入ったのが目撃され、噂に拍車がかかっている。眞鍋は優子に消し飛ばされそうになったのを、そこも才能の無駄遣い、「エキゾチックイメージ、アリス」という技能で死守していた。
そんな眞鍋が集めたのはそれだけではない。
次の号外には「禁断の二股か!?阿蘇礼人、美術部員と二人で回る学園祭」という見出しがあった。人見も礼人もそういうのには動じないタイプであるため、見せた眞鍋はつまらなそうにしていた。それを見て反応していたのは、むしろまことである。
「新聞部って、なんでもかんでもこういう目で見るんですね」
と、蔑んだ目で見ていた気がする。
だが、定期新聞には、部活ごとの出し物や、妖魔が現れたときの対処、各所に配置された教師の情報など、有意義な情報もあった。また、中等部で妖魔が出たことなども記されていた。
他に一日目に出た号外といえば、麻衣と結城が一緒に戦っていたところに一般人が入って助ける、というものだった。その一般人というのが、話に出ていた妖怪というやつだろう。
二日目は、妖魔出没が多発したため、その注意を促すというこれ以上とないほどに有意義な号外であった。余談だが、当然のことながら、眞鍋は全ての号外をゲットしていた。
「事情も知らないのに色々言うのもどうかと思う」
二日目の最後の号外……正に今拾っているこれである。
見ていたなら、麻衣はさぞかししかめっ面になっていることだろう。
見出しには「文芸部員謎の密会!?定禅寺麻衣は結城からショタに鞍替え!?」というようなことが書いてある。
きっと校門でネタ待ちをしていた新聞部の部員が写真を撮ったのだろう。麻衣と麻衣が会ったらしい少年が写っている。二人。
「……片方、岸和田に似てるな」
「というか、幽霊写真に写るんですね、わりとくっきり」
そう、岸和田の兄らしい方はただの幽霊のはずである。幽霊は写真に写らない、写っても心霊写真扱いというのが、妖魔が台頭する今でも変わらない。ちなみに、妖魔は結構はっきり写る。妖魔になると、実体を持つらしい。
礼人はまことの疑問に端的に答える。
「技能だろう。見たものをそのまま写し出す、とか」
「ああ、文字が書いてあればできますね。枠内の映像を切り取るカッティングっていう」
万能タイプのまことは基本技能の話になると強い。
「たぶんそれだ。タイプ技能に適合しない一般人には見えなかっただろうがな。しかし、この記事はどうかと思うがな」
「でも、結城先輩と定禅寺先輩って、恋愛っていう空気より、保護者みたいな感じだよね」
「もう結婚してるのか」
「いや、定禅寺先輩が保護者」
「ああ、物凄くわかった」
結城がこの場にいたなら抜刀していたかもしれない。
「なんていうが、定禅寺先輩はもう、みんなの保護者って感じだよね」
体は小さいが。
「統率力半端ないしな」
「清瀬部長と定禅寺先輩のどっちかを選べって言われたら迷う」
なごみがいたらずっこけたこと請け合いだ。
「俺なら、妖魔討伐のときは部長、こういう学園祭とか、日常の部活なら定禅寺先輩にって振り分ける」
「名案だね」
そうやって笑いながら学園祭の後片付けをする二人の仲睦まじい姿がぱしゃりと撮られ、新たな号外になるまであと数時間である。
その頃、コンピュータ室にて。
午後からは岸和田と代わって売り子に出ていた永瀬雫が戻ってきた。
「うっはー、グラウンドからここに来るまで大変だったー。みんな、捗ってる?」
後片付けに勤しむ部員にグラウンドからようやく帰ってきて、労いの言葉をかける雫。その手には大量の紙の束が抱えられていた。
「部長、それは?」
部員が問いかけると、雫が口を尖らす。
「新聞部の号外よ。これがグラウンド中にのべつまくなしにばらまかれたせいで、ここに帰ってくるのが物理的に難しかったんだから」
「すごい量っすね」
雫が回収しただけでも、一抱えはある。号外とは、一枚の紙なわけだが、それで一抱えの束になるとは。一体どれだけの号外を刷ったのだろうか。
「まあ、新聞部は想像タイプだからね。記事が出来上がれば、数万部コピーを作るって書いただけでコピーが一瞬でできるから。かなりのローコストよ」
そしてそれを人は才能の無駄遣いという。新聞部のタイプ技能である想像タイプは文芸部の創作タイプと似ているところがあるため、部活としてのスタイルも似ているのかもしれない。
無駄に多いその号外に、岸和田がふと目をやった。それから我が目を疑うかのように目を見開き、号外を一部取った。
「どうした? 岸和田」
部員が岸和田の異変に気づくも、岸和田に声は届いていないようだった。
岸和田の言葉は声にならず、岸和田の脳内にだけ、浸透した。
「いつ兄さん……」
やっと学園祭終わり……10話くらいかかってません? え? もっと?
次回から物語佳境です。




