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礼人と人見

 いつも文芸部の誰かしら……主にまことや咲人と一緒なので、文芸部以外の人物が隣にいるというのは礼人にはそこそこ違和感があった。ちらと隣を見る。

 訂正、かなり違和感があった。

 眼帯少女というのはどうしても目立つ。しかも彼女──人見瞳は物もらいをしたとかそういう突発的な原因ではなく、常に眼帯をしているのだ。まあ、眼帯をしていなかったらいなかったで、目立つことにはちがいない。人見の右目はとても人間のものと呼べる代物でないことを礼人は知っている。

 故に、人見が眼帯をしているのは仕方ないことなのだ。そうは思えど、周囲から向けられ、突き刺さる視線が気にならないと言ったら嘘になる。

 美術部は部員が人見一人だけあって、一般的な部活だが、ここ、聖浄学園では目立たない部活である。そもそも、美術部の適正タイプ技能である点描タイプというのは、まだまだ謎が多い。数も稀少で、比較的新しいタイプ技能の記号タイプより解明されていない部分が多い。礼人も妖魔探知能力に優れている技能、ということしか知らない。

 目的地も何もなく出てきてしまった二人は校舎内を適当にぶらつくことにした。文芸部と美術部が出店しているのは三階の図書室。三階で色々やっているのは、新聞部に行かなかった想像タイプの技能者が集う書道部とコンピュータ室にコンピュータ研究部がある。もっとも、コンピュータ研究部は、来年度以降の入部生の獲得に主に部長の永瀬雫が意気込んでいるため、外で記号タイプの技能の実践をやっており、コンピュータ室ではパソコンゲームをやっていて静かだ。書道部も、号外出しまくりの新聞部のような俗っぽさがないため、静かだ。図書室を貸してもらった文芸部だが、その隣の図書準備室というところでは、図書委員会が細やかながらに何か展示をやっているらしい。ただ、文芸部のように呼び込みをするわけではないので、やはり静かだ。

 だが、人通りがそこそこにある。人見の眼帯が目立つと感じられるほどには。不思議に思ってパンフレットを確認すると、空き教室に休憩所が設けられている。聖浄学園はそこそこに大きな学園だが、学内にエレベーターがあるということはないため、三階まで上がってくる手段は階段となる。その客のための憩の場として休憩所が設けられているようだ。確か、二階にも休憩所はあったように思うが、コンピュータ研究部の催しであるコンピュータゲームを目当てに来る客や、書道部の趣ある毛筆を見てあはれを感じ、落ち着きたいという客も少なからずいるようだ。もちろん、文芸部に興味を示している人物もいる。

「わりと人が多いな」

 礼人はそこそこの賑わいの中で黙々と歩くだけというのもどうかと思い、話題を振ってみる。人見は小さく頷く。

「一階では、調理部や運動部なんかが出店をやっていたはず。そっちに客が行くと思っていた」

 それもそうだろう。学園祭は祭りだ。祭りで出店を回らないやつはどうかしている。

 廊下の窓から階下のグラウンドを臨む。運動部も数が多いので、様々な出店が立ち並んでいた。様子を見ると、入口だからだろうか、客は三階より多く見える。学園は生徒数も多いが、学園祭が大規模で、学園そのものが大きいため、人はやっぱり集まるらしい。

 そういえば、先程グラウンドで妖魔が出たという話があったはずだが、何事もなかったように出店が出ている。運動部だけで対処したのだろうか。

 そんな礼人の疑問を、人見はあっさり解決する。

「チアリーディング部がある。さっきの妖魔はチアリーディング部が対処した。チアリーディング部はバトンという媒体がある分、多種多様な纏を顕現しやすいし、あれで運動部の中では体捌き、統率力に優れている」

 なるほど。チアリーディング部は運動部ではあるが、時に普通の運動部以上に一致団結が求められる部活だ。妖魔討伐に関して、団体の力で言ったら、もしかしたらトップクラスかもしれない。

 それに、チアリーディング部のパフォーマンス会場は簡易設計だったらしく、背後の壁が妖魔に薙ぎ払われたのであろうが、よりのびのびと演技しているように見える。

 とりあえず、三階から見下ろしただけでも、階下は活気に満ちていることがわかった。

 礼人は元々、妖魔討伐には積極的だが、物静かを好む。放課後、一人で絵を描くような人見も、階下の喧騒よりは、まだ静かな三階の方が心地よいだろう。

「……休憩所にでも行くか」

「コンピュータ室は見て行かなくていいの?」

 人見の指摘はもっともだ。礼人は本来、コンピュータ研究部が取り扱う記号タイプの技能者なのだ。機械弄りは嫌いじゃない。ゲームというなら好きな方だ。

 コンピュータ研究部、というと、礼人にはどうしても嫌なやつの顔しか思い浮かばないが、まあ、同じタイプ技能のよしみだ。寄っていくのもありだろう。

 コンピュータ室の扉を開ける。そこには部員が数人。

 その中に件な嫌なやつの顔を見つけ、うげ、と思わず呻く。

 その人物は礼人と同じく一年生で記号タイプのルームメイト、岸和田一弥であった。

 夏に、こいつが最近の妖魔の手引きをしていると知って以降、礼人はあまり岸和田を好いていない。海の日の一件に限らず、人見と出会った図書室での出来事も自分が手引きしたようなことを仄めかすような発言があった。まだ、発言だけで物的証拠がないため、告発できないでいる、厄介な相手だ。

 その割、妖魔討伐に積極的な面もあるというから、つかみどころがない。

 そんな岸和田を一目見た人見が、さっと礼人の後ろに隠れ、耳打ちする。

「あの生徒、ただのタイプ技能者じゃない」

 どうやら点描タイプの探知能力というのは妖魔だけではなく、人間にもはたらくようで、人見は一目で岸和田のことを看破した。

 だが、そこに続く言葉があった。

「だけど、悲しい人」

「悲しい?」

 人見の一言を意外に感じ、問いを連ねようとするが。

「対戦ゲーム希望者ですか? ゲームは五種類あります」

 岸和田が割って説明を始めた。まるで、人見にその先を言わせないように遮ったようにも見えた。

 気のせいかもしれないが、岸和田が絡むとどうも胡散臭く感じられる。わざとらしいというか。

 話題の矛先は完全に逸れてしまったので、礼人は一旦ゲームをすることになった。


 一通りゲームをやって、完勝を修めた礼人はそこそこな量の景品をもらってコンピュータ室を後にした。

 人見は見学だけで、礼人の圧倒的強さに感嘆していた。

「凄かった」

 人見の純粋な感嘆の一言に礼人は簡潔に答える。

「大したことないさ。一般客用に作られているはずだ。記号タイプならできて当然だろう」

 あっさり言うが、そう簡単なことではない。

「そういえば、あなたは純粋な記号タイプだと聞いた」

 礼人の母は歌唱タイプ、父は記号タイプだ。タイプ技能は遺伝と関係がないが父の影響は大きいだろう。

 ただ、「純粋な」となると、かなり持つ意味が変わる。礼人は記号タイプ以外を扱えない人間なのだ。

 純粋なタイプ技能者は少ない。複数掛け持ちの方が多いのだ。例えば、咲人が創作タイプ以外に記号タイプが使えるように。

「かくいう人見も、純粋な点描タイプだろう?」

 休憩所で席に落ち着くと、問いかける。まあ、と曖昧な返事が返ってきた。

 サービスで出てきたコーヒーを飲みながら、人見は語る。

「禍ツ眸は代々純粋な点描タイプが引き継ぐ者……とも言えるけれど、これは生まれつき。生まれる前に禍ツ眸が取り憑いて、強制的に点描タイプにする、みたいな。前の保持者が言ってた」

「不思議な継承もあったもんだな」

「そういえば、あなた」

 人見が何か言いかけたが、途端にぱしゃーん、と窓ガラスが弾ける。礼人と人見は感知していた。

 現れたのは無数の蝙蝠型妖魔。場に混乱が走る。礼人は舌打ちをした。礼人の得意とする電装剣は対一ならば強いが、対複数となると弱い。一匹ずつ蹴散らせばいいのだが、時間がかかる。

 まあ、電子結界を張ればいいのだが。まずは一般人の避難が先だ。それは人見が誘導してくれた。

 礼人は誰もいなくなった部屋に電子結界を展開する。何匹かがきいきい声を上げて消えたが何分、数が多い。縫合タイプの結界や歌唱タイプの結界に比べると、威力に劣る。

 じり貧だな、と思いながらも、結界は消さない。時間をかければ、全部消せるはずだ。

 決定打に欠ける中、一人の声が響く。

「エキゾチックイメージ!」

 それは創作タイプの称号の一つ。その唱えに応じて、礼人が展開した結界が風船のように膨らんで、爆発し、妖魔を滅した。爆発というよりは、破裂といった方が正しいか。

 それを成した人物は、入口で仁王立ちし、どや顔をきめていた。

「どうだれーじん。少しは私を見直したか」

「あ、なべせん」

「なべせんやめい」

 コントのようなやりとりをしながら、妖魔の後始末をする。

「そんなことより、店番はどうしたんすか」

「いや、たまたま通りかかっただけだ」

「変にかっこつけるな」

 どうやら、まことが妖魔を探知して、それを聞いたなごみが近いから、と救援に眞鍋を寄越したらしい。

 はあ、と溜め息を吐くが、まあ助けられたので、礼を言っておこう。

「ありがとうございました。眞鍋先輩」

「れーじんがちゃんと眞鍋先輩って言った、天変地異の予兆だ!!」

「いちいち失礼ですね」

 再び溜め息を吐いて、礼人は眞鍋を見るのだった。



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