74-7 お兄ちゃんに告白されたんだがお兄ちゃんと付き合ってどうするんだ?
のんびりと過ごす栞との公園デート。
この幸せを掴むきっかけは、やはり去年の栞の告白のおかげだろう。
あれから1年、栞は俺に尽くしてくれた。
俺はそれを練習として受け取ってしまった。
どうせ俺に幻滅するだろう、どうせ一時の気の迷いだろう。
でも栞は徹頭徹尾俺に尽くしてくれた。
どんな時もずっと好きでいてくれた。
貰ってばかりの1年だ……いや、これまでずっとそうだった。
やはりここは、お礼として何か栞の夢を叶えたい。
そうしないと兄としての威厳が、今は彼氏としてのプライドがそれを許さない。
「なあ栞、付き合ってくれたお礼に、何か願いを叶えたいんだけど」
「勿論、お兄ちゃんとせっ」
栞は間髪を入れずに何かを言おうとした。
「エッチなの以外でお願いします!」
特に直接的な言葉は止めて。
「ぶうううううう」
「さっきも言ったよね、そう言うのはもう少し先で」
「えーー、まあ、しないって言わないだけ進歩したかも、うーーーん、じゃあねえ」
「うん」
「お兄ちゃんに蔑ろにされたい」
栞の口からとんでもない発言が飛び出した。
「……は?」
いつも斜め上の行動や発言をして俺を驚かすが、今回はさすがにぶっ飛び過ぎて言葉を疑った。
「えっとね、お兄ちゃんに虐められたり、蔑ろにされたり、ぶたれたり、蹴られたり、なじられたり、暴言を吐かれたりしたい」
「えっと……ちょ、ちょっと待って、え? いや、つまり……栞ってどエムって事?」
あまりの言葉に俺は若干、いや大いに引きながらそう聞いた。
「否定はしないけど、それよりもお兄ちゃんって優しすぎる所あるでしょ? それは大いに魅力的で満足してるんだけど、でも、たまには怒られたり、喧嘩したりしたいなって昔から思ってて」
「そ、そうなのか?」
喧嘩ってしようと思ってするものではないが。
「あえて怒らせるなんて事はしたく無かったし、もしもそれで嫌われたら嫌だったし、でも今みたいに彼女っていう安心出来る立場になったからこそ、痴話喧嘩みたいな事もしたくて、私的にはオラついてるあり得ないお兄ちゃんってのも見たいなって」
栞は目をキラキラと輝かせ、俺をじっと見つめる。
「いやいやいやいや、えーー?」
「エッチな事以外なら良いって言ったよね?」
「いや、言ったけども」
ある意味エッチな事以上の様な気がしないでもないが。
「さあ、お兄ちゃん! 今日1日栞を蔑ろにして!」
「えーー……」
マジかよ……。
兄妹喧嘩なんてした事が無い。
どんなに出来が良くても栞は常に俺を立ててくれる。
そんな妹に嫉妬も憎悪も抱いた事なんて無い。
でもまあ、過ぎたるは猶及ばざるが如しなんてことわざもある。
そんな妹に今まで言いたい事が全く無かったかと言えば、そんな事は無い。
俺だって人間だ、文句の一つ二つは……。
「わかった……じゃあ」
「うん!」
俺は繋いでいた手を無理やり振りほどいた。
「何、手なんて繋いでいるんだよ」
「ふ、ふえええええええ」
「え? あ、ご、ごめん」
言い過ぎた?
「ううん、良いよ良いとお兄ちゃん! 最高だよ!」
栞は満面の笑みで俺にそう言った。
「良いのか」
「うん、全然だよ! もっと言って」
「そうか……」
栞があまりにも楽しそうなので俺はそのまま続けた。
「じゃあ、……何横に座ってんだよ、図々しいなあ」
「は、はい! お兄ちゃん」
「お兄ちゃんだあ? お兄様だろ!」
「お、お兄様!」
栞は俺の前に立つと、まるで命令を待つ子犬の様に俺をじっと見つめる。
もしも尻尾があったら千切れんばかりに振っているだろう。
「……の、喉渇いたなあ」
「ジュース買って来ます!」
俺が全部言い終わる前に栞はスカートを翻し自販機に向かって走っていく。
「……はあ」
あまりにも慣れないせいでボキャブラリーが貧困過ぎる。
これじゃただ文句を言ってるだけだ。
かといって手を上げるのは言語道断だし。
言葉だけで精一杯。
それでも……楽しそうにしている栞を見ると、俺も嬉しくなってしまう。
ある意味俺が望んでいたバカっぷるのプレイなんだけど……。
こんな事をしながら家に帰ったら美月がびっくりするよな?
いや、あの子の事だから直ぐに把握してしまうかも知れないけど。
栞は持てるだけジュースを買い込み嬉しそうに走ってくる。
「お、おせえよ」
「ご、ごめんなさいお兄様! えっと持てるだけ買って来ました!」
「じゃあ、とりあえず隣に座って良いから俺に飲ませろ」
「はい! 畏まりました!」
栞は俺の隣に座りペットボトルの蓋を開け、ジュースを口に含むと、俺に向かって口を突き出した。
「……は?」
「くひうふひでおのみくだひゃい」
「口移しで、いやいやそのままってか、もう良い」
俺はそう言うと栞の持っていたペットボトルを奪い取ると乱暴に飲み干す。
「……」
栞は頬を膨らませた状態で俺をじっと見つめている。
「の、飲んで良いぞ」
おあずけを言われた犬の様に命令を待っている栞に俺はそう言った。
「ん……」
栞は恥ずかしそうにジュースを飲むと、あーーんと俺に向かって口を開く。
「えっと……何にそれは?」
「お兄様が良く見ていたDVDの真似を」
「うぎゃあああああああ、言うなああああ」
マジで勘弁してくれえ……。