73-3 お兄ちゃんは変わった?
「セシリーに相談があるんだけど」
メッセージで生徒会室に呼び出したセシリーは壁に寄りかかり俺を待っていた。
「おう、私に相談とは勇気が必要デースねえ」
いつもの喋り方、いつもの笑顔で俺を迎える。
「……ごめん、マジで真剣な話なんだ」
「それでは……キャラはいらないデスか?」
「すまん、今日だけは」
俺はセシリーに対し深く頭を下げた。
その俺の姿を見て彼女はため息のようにふーーっと息を吐く。
「そう、それで相談ってのは……まあ栞の事かな?」
セシリーは真顔になると会長がいつも座る椅子に腰を下ろす。
そして流暢な日本語でそう言った。
そう、俺は知っている。
セシリーはわざとキャラを作り演じている事を。
「……そうだ」
セシリーは学校いがいでは極々まとも、いや、噂によると通訳等の仕事をしているとか。
「ふーーん」
青い瞳でじっと俺を見つめると、持っていたペットボトルの水をグイッと煽った。
「何でわかった?」
「ふふ、ゆうは栞を見て泣いたよね、学園祭の時に」
「……」
「あれでああ、こいつは妹に恋をしてるなって、栞は言わずもがなだ……片思いならまだしも、両思いってなる、といつかこういう事もあるのかなって」
「……それが今来た」
「へえーーまあ、遅いくらいだね」
「ああ、俺はもう……どうしたら良いかわかんないんだよ……」
「まあ私にキャラを捨ててと頼むくらい相談したいだなんて、随分追い込まれているよねえ、あはははは」
「セシリー以外に言えないだろ……自分を隠してるセシリー以外には」
俺は真剣だった。
しかもこんな話が他の生徒や教師に漏れたら、俺も栞もとんでもない事になってしまう。
恐らく生徒会で、いや……この学校で一番口が固いのはセシリー以外にはいない。
「そこまで信頼されているならはっきりと言ってあげよう。そんな事を聞いて私が思うのは、気持ちが悪いってだけだね、兄妹同士とか気持ち悪い以外の何物で無い」
「……そう……か」
「ああ、最近じゃあ同性愛、性同一性障害に関して保護しようって動きもある。同性婚を認めようという動きも、既に認めている国だってある。でも近親婚に関して認めている国は皆無と言って良い、それは何故か考えたらわかるだろ?」
「……ああ」
「インセスト・タブー (Incest Taboo)と言ってな世界では忌避する事なのだよ、その理由はわかるよね?」
「……そうだな」
俺が神妙な面で俯きそう言い返す。
それが精一杯だった。
でも、これではっきりと……栞とは……。
「まあ、間違ってるけどね」
「……え?」
「近親で一番忌避される事は生殖行為によって生まれる子供に障害が発生するという事だ、ただそれによって成され子供に必ず障害が発生すると言うのは間違ってる」
「へ?」
「いや、完全に否定はしない、遺伝という物に私はそれほど詳しくはないが、そう言う研究発表を聞いた事がある。寧ろ栞のような天才なら、近しい者と成した子供の才能が高まる可能性もある。競走馬のインブリードのような効果が起こる可能性もある。勿論そうなる起因は今でも否定出来ないらしいが忌避される事で隠されている為にサンプルが少ない為に研究があまり進んでいないのが現状だ。ただ世間全般に言われているような、あたかも全てそうなると言うのは間違いだ」
「いや、でも……セシリーはさっき気持ち悪いって」
なんか言ってる事が正反対な気がするんだが?
「気持ち悪いさ、私が兄とそういう関係になると考えたらね、ただ愛する者を誰にするかは人の勝手だね、それが異性でも同性でも」
「そう、なのか?」
「はははは、何も知らない君に教えてあげよう。性癖と言うのは多種多様でね、君達兄妹愛はIncestという性癖に該当する。他にも幼女を愛するNepiophilia、老人を愛するGerontophilia、他にMicrophilia、Macrophilia、Hebephilia、Necrophilia、Candaulism等々」
「ちょっ!」
セシリーは美しい発音で恐らくとんでもない発言を繰り出している。
「Zoosexualismは動物への愛、dendrophiliaは樹木への愛、人形への愛はAgalmatophilia、食物に性的感情が湧くSitophiliaなんて者もいるね」
「いやいやいやいや」
「その他信じられない物を愛する人達がこの世に存在する。公言する事なんて絶対に出来ない趣味の者もいる。そのいくつかを言うだけで興味の無い者にとってはおぞましく感じるような趣味趣向だってあるんだ」
「それは……」
「ただ一つ言える事は、想像する事において誰も文句は言えない。人や何かを傷つけなければここ日本においては誰も処罰する事はできない。兄妹愛に関しててもね」
「……傷付けない」
「アダムとイブやイザナギとイザナミ、世界は兄妹から始まっているとされているし、とある宗教で兄妹愛がタブーとされる理由は、愛しすぎるからなんて言われたりもしているね」
「そう、なのか」
「ただね、私は気持ち悪いって思うし、周囲も恐らく嫌悪を感じるだろう。でもそんなものは無視していいくらい些細な事、肝心なのはあなた達の気持ちだ」
「……俺達の気持ち、それはそうかも知れない」
「うん、ただしだ!」
セシリーはビシッと俺を指差す。
「君達の親御さんが悲しむような事は避けるべきだ。最後の味方は肉親だからね。犯罪者を他人が匿うと罪になる。だが肉親が匿うのそれを免除すると法律に書かれているくらい親族と言うのは最後まで味方してくれる存在なのだ」
「そう……だな」
「そもそも……私の栞を泣かすのは許すませーーん、デス」
最後にセシリーは元のキャラに戻り、俺にそう言ってウインクした。
ヤバいなあ……俺の周囲は好い人だらけで。
俺は笑顔でセシリーに応えた。
肝心なのは俺達の気持ち……そして両親に恥じない行動。
そのセシリーの言葉を胸に生徒会室を後にする。
栞とのこれからを考えながら。
【あとがき】
なろうで以前に書いた作品を改稿して投稿中です。
「兄が妹大好き小説を書いているのを知ってしまったら、妹としてどう反応すればいいんですか?」
https://kakuyomu.jp/works/16818093078582795241
宜しくお願いいたします。