表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
319/339

73-1 お兄ちゃんは変わった?


 背筋が凍りつくような感覚が私を襲う。


 もう春だというのに、寒気が止まらない。


 ブルブルと震える身体を抑え私は家を出て学校に向かう。


 最近はずっとお兄ちゃんと一緒の登校だった。

 それが当たり前になっていた。


 これが幸せだった事へのしっぺ返しなのだろうか……。

 無くなって初めてそれが特別な事なのだと理解する。



 人の幸福の量は一定だって誰かが言っていた。


 だとするならば……私のこれからはずっと不幸なのかも知れない。


 この1年夢の中のようだった。

 お兄ちゃんとの1年……楽しかった。


 それまでの自分が嘘のように幸せな日々だった。

 一生分の幸せを私は使い切ってしまったかもしれない。


 ……もしかしたらこれからは、1年前の時よりも不幸になるかも知れない。


 告白前の自分を思い出す。


 悩んで悩んで悩み抜いた数年間。

 こんな悲しい想いは自分だけで良いと、私は積極的に友達を作った。

 皆の相談にも一杯乗った。


 皆は私を誉めてくれたけど、でも違うの……報われない自分の気を紛らわしたかっただけ……。

 全部自分の為にやってただけ。


 勉強だって、おしゃれだって全部そう。


 勿論お兄ちゃんに少しでも気に入られる為でもあった。


 そんなお兄ちゃんにも、悩みはあった。

 思春期、性の始まり。

 妹である私に対して、邪な気持ちが芽生えた……。


 一緒にお風呂に入ったりしていたからだろう。

 私の身体に変化が生じたのに興味を持ってしまった。


 私と違い、妹である私が好きだとか恐らくそんな感情はなかったんだと思う。


 ただ単純に女の子の身体に興味があった。

 そして近くに私がいた。


 それだけ……。


 でも、お兄ちゃんは昨夜みたいな事をしたのか、想像していたのだろう。

 そして、それが悪いことだと気が付き自分を責めた。


 私はそれを知って……辛いって思った。


 お兄ちゃんに何かされた事に……では勿論ない。


 この1年……そんなお兄ちゃんの気も知らないで……ずっとお風呂に乱入したり寝込みを襲ったり……。

 お兄ちゃんはずっとそれに耐えていたのだろう……同じ過ちを犯さないように。


 それなのに私はお兄ちゃんの来も知らないで……。


 お兄ちゃんは心の中でずっと葛藤していたに違いない。

 ずっと心の中でそのしこりのような物を抱えていたに違いない。


 それなのに私は……。


 涙が浮かぶ……今にも泣きそうになる。


「ごめんね……お兄ちゃん」

 私は今までお兄ちゃんが大事、お兄ちゃんが一番ってそう思っていたのに……。


 その全ては全部自分の為、私は自分のエゴで今までお兄ちゃんを傷つけていた。


 お兄ちゃんのトラウマを更に深く傷つけていたそう思ったら……。



「しおりーーん、おっはー」

 涙を堪えて歩いていると、隣のクラスの笹本さんが私に声を掛けてくる。


「あ、ささっちおはよう」

 私は笑顔でそう応える。


「今日も元気だねえ」

 ささっちは私を見て笑顔でそう言った。

 友達には落ち込んだ表情を見せられない……。

 いつもの表情を装い私は笑顔で彼女を見つめる。


 本当に最悪だ……なぜこんな私を皆は慕ってくれるのかわからない。


 私の本当の素顔は……自分勝手なエゴイスト。


 お兄ちゃんにしか興味が無い最悪な人間。


 お兄ちゃんに好かれる為に友達を利用しているに過ぎない。


 こんな私じゃお兄ちゃんに嫌われて当たり前だ。


「おはよう栞~~今日はお兄ちゃんと一緒じゃないんだ」


「あ、うん」

 今度は同じクラスの赤川さんにそう言われ、私は一瞬だけ顔をひきつらせた。

 お兄ちゃんという単語に仮面が剥がれそうになるのを必死に堪えいつものように笑顔を被る。


 最近はお兄ちゃんと二人で登校していたからなのかあまり話し掛けられる事はなかった。


 そしてこうして今、話しかけられているという事でお兄ちゃんに避けられているという事実が追い討ちをかける。


 私が最低な人間なのだと自覚させられる。


 お兄ちゃん……ごめんなさい、皆ごめんね……。


 私は好かれて良い人間じゃないの……。

 私は嫌われて当然な人間なの。

 

 そう何度も自分を責めながら……それでも笑顔の仮面を外す事なく学校に向かって歩いて行った。



 久しぶりに皆とお喋りしながら学校に到着し、クラスメイトと教室に入る。

 私は真っ先にお兄ちゃんを探したが、お兄ちゃんは教室には居なかった。


 これで完全に確信した。

 お兄ちゃんが私を避けているのは確定的に明らかだった。


「栞、おはよう、え? 今日は珍しく一人?」

 席に着くなりわらわらと人が集まってくる。

 そして皆一様に不思議そうな顔で私を見ていた。


「ああ、うん」


「も、もしかして……喧嘩でもしたの?!」


「ううんしてないしてない」


「だよねええ、あはははは」

 私の返事に驚きの表情だった皆は一斉に笑顔になる。


 私とお兄ちゃんが喧嘩なんてするわけ無い。

 ……でも、なんだろうか? 皆のこの反応は?

 お兄ちゃんの事が好きという事は勿論、付き合ってるという事は誰にも言っていないのに。

 まるで皆知っているかのような反応だ。


 そんなわけ無いのに……。

 でも、皆のおかげで少しだけ、ほんの少しだけ気持ちが楽になれた気がした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
    こちら作品の完全改稿版を書きました         
  超絶コミュ力の妹と陰キャの俺、そんな妹に突然告白され、俺の高校生活がとんでもない事になった。           
  もしよろしかったら読み直してくださいませ(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ