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72-4 シスコンの兄


 今、お兄ちゃん私の事をちゃん付けで呼んだ?

 

 一瞬違和感を覚えるも、お兄ちゃんとキス出来るチャンスに私は考えるのを止めた。


 昨日も……おっとこれは言えない言えない。


 

 今の状態のお兄ちゃんがキスしてくれるかはわからない、でもお兄ちゃんからキスしてくれそうな、そんな雰囲気に、そんな状況で、そんな些細な事で、こんな機会を逃すなんてあり得ないのだ。


 お兄ちゃんの顔が少しずつ近付く。


 もう少し近付いてくれば、少々強引でもキスしてしまえと、私は目を瞑る。


 目を瞑れば当然お兄ちゃんが見えない。


 どれくらい近付いているか? 射程距離がわからない。


 でも大丈夫、私の身体に備わっているレーダーをフルに使えば問題無い。


 薄目を開けるなんて無粋な事はしない。


 そんな事をしなくても私の身体にはお兄ちゃんレーダーが配備されているのだ。


 そう、お兄ちゃんレーダー、それは犬がご主人様の帰宅を察知して玄関で待ち構えているあれと同じ原理だ。


 お兄ちゃんとキス、別に初めてでは無い。



 でもでもこんな姿でお兄ちゃんとキスするなんて、今まで無かった。


 それはまさに夢のようだ。


 そして……このままお風呂で初体験って事に……お風呂でなんて……お風呂でなんて、結構ありかも?


 だって直ぐに身体を洗い流せるし、あ、でもそれだとお兄ちゃんの香りとか諸々も一緒に流れちゃう。


 もっとじっくりっと堪能したいなあ……。


 なんて、そんな事を考えていたら、お兄ちゃんレーダーがヴィンヴィンと反応する。



 きたあああああああああ!


 もう直ぐ目の前にお兄ちゃんの唇が、これは……と、私も少し唇を尖らせ顔をやや傾け絶好の態勢で期待をして待っているとお兄ちゃんの顔が私の顔の横を通りすぎていく。


「え?」


 キスしてくれるってそう思っていたが、お兄ちゃんは私の耳元で「栞ちゃん」と囁く。



「ええええ」

 期待を裏切られたと思ったがお兄ちゃんはまた私の事をちゃん付けで呼び、ギュっと抱き締める。


「あひゃへひゃふゅほへゃ」

 強く強く抱き締められる。


 これは……ある意味キスされるよりも衝撃的だった。



 ああ、久しぶりのお兄ちゃんの肌の感触ががが。


 裸で抱き合う……密着する。


 まるでお兄ちゃんと一つになってしまったかのように……。


 ダメ、ダメダメ、あまりの幸福感に意識が遠のく……でも、気絶してなるものか! と、私は気合いを入れる。


 もっとじっくりと堪能しなければ!

 お兄ちゃんから抱き締めてくれる事なんて早々無い、しかも一糸纏わぬ姿でなんて。


 あああああ、でももうダメ……もう……理性が……。


 私はお兄ちゃんの背中に手を回す、もっとくっつきたい、もっと一つに……。


 そして……私の手が……お兄ちゃんの背中から、お腹の方にスッと伸びていく。


 もう、もう……。



「お姉ちゃま! た……たいへ……」

 その時浴室の扉がガラガラと大きな音を立て開くと、美月ちゃんが現れた。



「ひゃ、ひゃうううう!」

 私は慌てふためく


「……お姉ちゃま……の変態! エッチな事はダメって」


「し、してない! まだしてない!」


「……まだ?」


「そそそ、それより大変って?」

 私は誤魔化すように美月ちゃんに聞く。

 変態をいい間違えたわけではないだろう。


「…………」

 しかし、美月ちゃんはナニかを監視するように一点を見つめている。

 その視線を追うと……。


「おおおお、お兄ちゃん、ちょっと湯船に浸かってて、美月ちゃん!!」

 私はお兄ちゃんの両肩を持つと上から強く押し、お兄ちゃんを湯船に沈める。


「あーーーーお姉ちゃまばっかりズルい!」


「ダメ、小学生にはまだ早い!」


「ぶうううううううう!」


「えっとえっと、とーーーにーーーかーーーくーーー、何が大変なの?! 原因がわかったの?!」


「……えっとね、そこはまだわからないけど……」


「けど?」

 美月ちゃんは真剣な顔で私を見た後、再びお兄ちゃんに目を移す。

 またお兄ちゃんを見て、と思った私もお兄ちゃんを見る。


 そしてそのお兄ちゃんの姿を見て私は驚いてしまった。


「え? こ、これって」

 その姿に驚きお兄ちゃんから美月ちゃんに視線を戻す。


「うん……お兄ちゃま幼児退行してる」


「幼児……退行……」


 そう、お兄ちゃんは、そんな私達に構う事なく、まるで子供のようにお風呂でタオルを沈めブクブク遊びを始めていたのだ。

 しかも子供のような屈託の無い笑顔で。


 きゃ……きゃわいいいいいいいいぃぃぃぃぃ……。


 ああん、そうそう、小学生のお兄ちゃんってこんな感じだったあああん。

 かわいい、かわいい、かわゆすぎる。


「お姉ちゃま? よだれ」


「おっと……」


「全く……」

 呆れ顔の美月ちゃんに私は口を拭きつつ真面目に聞いた。


「幼児退行って……」


「そのままの意味だよ、見ての通りお兄ちゃまは今どんどん子供に戻ってる」


「子供に……」


「今にお兄ちゃまは、迷子の小学生のような状態だって事」


 

「それって……それって……お兄ちゃんの可愛さが一万倍になるって事? ひゃううううう」

 そんな、ただでさえ可愛いのに、これ以上可愛くなったら私、どうなっちゃうんだろう?

 お兄ちゃんのあまりの可愛さに怯える私を呆れが顔で見ている美月ちゃん。


「そんな場合じゃない! このまま赤ちゃんまで退行しちゃったら」


「しちゃったら?」


「戻るのに十数年掛かっちゃうかも知れないんだよ?」


「ええええええええ!」


「さすがにお姉ちゃまも」


「それって……私がお兄ちゃんを育てられるって事?! きゃあああああああ!」

 そんな素敵な事がががが!!!


「お、お姉ちゃま!! 美月は真剣に話してるの!」



「……はい」

 遂に美月ちゃんが切れてしまった。


 でも、本心なんだけどなあ……。



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    こちら作品の完全改稿版を書きました         
  超絶コミュ力の妹と陰キャの俺、そんな妹に突然告白され、俺の高校生活がとんでもない事になった。           
  もしよろしかったら読み直してくださいませ(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾
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