68-1 波乱の幕開け
「しゃああああああああああ!」
妹が格闘技で勝った選手のように、全財産を掛けた馬が一着を取った時のおっさんのように高らかに声を上げた。
「いや、それはさすがに……」
栞ファンが半減しそうなその声に若干引くが、そんな事なんて構わずに妹は俺に抱き付いて来る。
「やったよ、やったよお兄ちゃん! 同じクラスだよ!」
制服姿の妹はキスでもしそうなくらいの勢いで俺の首に飛び付き苦しいくらいに力を込め俺の首を絞めてくる。 ぐ、ぐえ……。
ちなみにここは学校の掲示板の前。
周囲には同級生がひしめきあっているのだが。
「いやいやいやいや」
そんな中、周囲を全く気にする事なく身体を強く押し付け嬉しそうに俺に抱き付く妹。
ただでさえ妹と一緒にいるだけで注目されると言うのにと……俺は慌てて周囲を見回すが、何故か周りにいる殆どの女子は俺達を微笑ましく見つめていた。
まあ、男子は今にも襲いかかって来そうな目で見ているが、それは別にどうでもいい。
「わ、私もぉ一緒でぇ嬉しい」
俺の左隣で麻紗美が俺達兄妹に構う事なくいつものマイペース口調でそう言う。
「き、君たちはこここ、こんな所でななな、何をしている! ま、全く今日は仕方ないとして、同じクラスになったからには今後破廉恥な行いは僕が許さないからな!」
そして俺の右隣では美智瑠が少し羨ましそうな表情でそう言う。
「はあはあ、私もクラスメイトデェーース」
クラスメイトを日本語発音でわざとらしく言うエセ外国人のセシリーは、俺の前でしゃがみこみ、妹のふくらはぎをガン見しながらはあはあしている……いや、さすがにそれは駄目だろ? と思った瞬間妹の踵がセシリーの額に当たりセシリーは派手に転んだが、何故か大変満足そうな顔をって、もうこいつは駄目だな。
「全く婚約者がいると言うのに、こんな所で近親……」
「うわあああああ」
とんでもない事を口走ろうとした自称俺の婚約者で同級生の言葉を大声で遮る。
「よお、また」
「栞……そろそろ」
うーーん、今最後に話しかけて来た男って誰だっけ? うん、思い出せない。
まだ俺の記憶は完全に戻っていないって事かな。
思い出す必要性を感じる事なく、俺は涙を流して喜ぶ妹にそろそろ離れてとそう言ってみる。
「やだ!」
「いやいやいやいや」
いくら妹でも、こんな所で抱き合っていると指導されてしまう。
「嬉しい、嬉しい、嬉しい!」
俺の耳元でそう叫び続ける妹、困惑しつつもそのあまりの喜びになんだか俺も嬉しくなってくる。
それにしても、生徒会の2年生メンバー全員が同じクラスとは……。
偶然ってよりか、何かしらの力を感じてしまう。
しかし、それによって長谷見ハーレムという名前がより浸透してしまう可能性を鑑みると、喜んでもいられない。
もし仮にこれ以上増えたりなんかした日には……。
「おにいいいいいいちゃああああああああああん! 栞さまああああああああああああああ!」
まあ、大体そんなよからぬ事を考えていると、それが本当に現実となる。
俺の人生こんな事ばかり……。
俺と妹はその声の方を見た。 一体誰が? と考える間もなくその人物は俺と妹に抱き付いて来た。
「うわあああああああああああん、嬉しいいいい、やっと、やっと会えたよおおおおお」
周囲のギョっとした表情、そりゃそうだ、新入生と学校一の有名人とその兄の3人が抱き合い、その周囲を我が校が誇る美女達が囲っているのだ。
「…………」
あ、やべえ、また麻紗美の意識が飛んだ。
麻紗美は理解出来ない様n突発的な事が起きるとまるでブレーカーが落ちる様に意識が飛ぶ。いつか帰ってこれなくなりそうで心配なのだが。
「き、飢跪祈姫揆气、君はまた破廉恥なあああああ!」
美智瑠が文字化けしてる様なヒステリーを起こす。
「ふああああああ、かわいす、かわいすなあ」
パシャパシャとスマホでローアングルの写真を撮りまくるセシリー。
とりあえず後でスマホは没収だな。
「えっと……」
この娘って誰だっけと俺は記憶を探る。確か5年くらい前に、いや違った丁度1年前程に会っているよな、えっと……。
「苺ちゃん!」
俺よりも先に妹がそう名前を呼んだ。
その声に反応した苺ちゃんは、俺達から離れると、一歩後ろに下がりスカートを翻しながらクルリと一回りして真新しい制服を見せつけた。
そして満面の笑みで俺達に向かい敬礼する。
「栞先輩! これから宜しくお願いします!」
小さい頃から栞に憧れていた少女、近所に住んでいる苺ちゃん。
少し成長した彼女は栞を見て嬉しそうにそう言った。
とまあ、ここまでは感動の再会って事で良かったのだが……。
「そして祐お兄ちゃん! お噂はかねがね聞いています、私も今日からお兄ちゃんのハーレムの一員ですね!」
はっきりとくっきりと的確に淀みなく苺ちゃんは俺に向かってそう言った。
その瞬間……。
「ひそひそ」
「ひそひそ」
「ひそひそ」
そこは『ざわざわ』じゃねえのかよ! と突っ込みたくなるくらい、わざとらしくひそひそ話をする周囲の人々。
そして男子からは、さっきよりも殺気を感じる
「と、とりあえず……栞さん一度離れようか?」
「やだ」
「いやいやいやいや……」
こんな人形が大昔にあったのを懐かしの映像ってので見たよな? ってくらい離れようとしない妹……。
最悪で、そしてある意味いつも通りの日常。
俺の波乱の高校生活2年目が今日から始まる。
書いてて一番楽しいのはやっぱりこの作品(。-`ω-)ハンノウナイケド……