66-11 生徒会の旅
私はパジャマに着替えベッド潜り枕を抱き締める。
幸せな筈なのに……昔に比べたら、今の私は圧倒的に幸せな筈なのに……。
「ううう……辛いよ……」
最初は告白するだけで良かった……のに。
この思いをお兄ちゃんに伝えられればって……最初はそれだけで良かった筈なのに。
何度も何度も諦めようって思い続けた。
ずっとずっと……隠してきた。
でも、その思いはどんどん大きくなっていく……諦めようって思えば思う程に大きくそして深く積み重なる様に……。
なんで好きになったのか……いまだにわからない……誠実で、優しくて、格好よくて……そんなありきたりな理由なら、とっくの昔に諦められた。
お兄ちゃんの欠点を探すべく、毎日毎日見続けた、こそこそと後を付けた。
バレない様にそっと……。
でも、それでも諦められなかった。
思いは募っていく……。
だから告白した……振られようって……そうすれば諦められるかもって……。
でもお兄ちゃんは受け入れてくれた……。
「うううう、歯止めが利かない……」
恋は我儘になるって言うけれど……本当にそうだ……。
お兄ちゃんとデートして、手を繋いで、旅行に行って、お風呂に入って、一緒のお布団で寝て……キス……して貰って……。
そんな……夢の様な毎日だった。
1年前の私では考えられないくらいの日々……。
でも……だけど……。
なんでこんなに涙が出るの? お兄ちゃんの事を考えれば考える程に涙が溢れる。
そしてイライラする、ムカムカする……。
折角の旅行なのに、生徒会の皆……大好きなのに。
お兄ちゃんと話さないで、お兄ちゃんに触れないで、私のだから、私だけの物だから……。
「お兄ちゃん……」
「どうしたのお姉ちゃま?」
私ベッドの布団の中に潜り込み、枕に顔を埋め悶々としながら、寝た振りをしていると、美月ちゃんがごそごそとお布団なかに侵入してくるって、えええ!
「ちょ、ちょっ美月ちゃん?」
「お姉ちゃまのお布団暖かい~~」
「えええ!?」
美月ちゃんは今までお兄ちゃんにしてきた様に、私の布団に潜り混むと、私に抱き付いてくる。
「な、何? なんで?」
いつも敵対心向きだしの美月ちゃん、一体これは? 私は美月ちゃんに向かってそう尋ねた。
「今日のお姉ちゃま、なんか変だったからどうしたのかなって」
「ど、どうも……しない、っていうか、美月ちゃん?」
「私、お姉ちゃまも好きだよ」
「ちょ、ちょっと待って、だ、ダメ」
「なーーんてね」
美月ちゃんはそう言って布団を持ち上げ私から剥がす。
「ちょ!」
「お姉ちゃま、良い機会だから一回ちゃんとお話しよっか?」
布団を持ち上げたまま、美月ちゃんは私を見下ろす……良かったtまさかこのまま百合的展開なるかもって……。
兄妹と、従妹の三角関係って……。
「いいわよ」
美月ちゃんの顔が可愛らしい小学生の笑顔から、挑戦的な大人顔付きに変わる。
この美月ちゃんの顔は、多分私とお兄ちゃんだけしか知らないだろう。
この子は天才だ。
いつでも余力を残して生活をしている。どんな時でも本気にならない。
この子が本気を出せば、大抵な人は壊れてしまうだろう。
将棋の棋士の様に常に数手先を読む、そして数年前の一言一句の会話も全て記憶している。
だから嘘は一切通じない。
そして、常に自分を隠している。
月の裏側の様に、常に隠し続けている。
私にさえも、中々本心を明かす事をしない。
美月ちゃんが本当の自分をさらけ出せるのは……お兄ちゃんだけ。
私は起き上がるとベッドに腰掛ける。
美月ちゃんは私のベッドから自分のベッドへジャンプすると、そのまま何度かピョンピョンとベッドの上を飛び、そのままベッドの上にペタンと女の子座りをした。
「お姉ちゃまと、美月は同じ立場なんだよねえ」
美月ちゃんは、私に向かって唐突に喋り始めた。
「同じって?」
「お兄ちゃんが手を出したくても出せない二人って事かな?」
「…………美月ちゃん?」
な、何を唐突に言い出すのこの小学生は?!