エピソード6~勉強~
中央管理施設に着いた。中は昨日とあまり変わった様子はない。
とりあえず、依頼を見てみようと思い依頼掲示板に歩いていくと、途中で後ろから声がかかった。
「あれ、ヤゲツ様」
「え?ああ、貴方は………」
話しかけてきたのは、昨日登録をやってくれた受付嬢だった。チェリアさんと話す時は砕けた口調だったが、今はちゃんとした口調になっている。
「確か、ニムさんでしたっけ?」
「はい、中央職員のニムです」
「あの、そんな風に喋らなくても大丈夫ですよ。チェリアさんの時と同じように話してくれれば」
「そう、悪いわね。あの喋り方苦手なのよ」
口調が変わり、纏う雰囲気もサバサバしたものに変わる。こちらが、彼女の本来の雰囲気なんだろう。
「それで、何か用ですか?」
「うん、貴方の指導職員が決まったのよ。丁度貴方が来てたから、伝えちゃおうと思って」
「指導職員?」
「あれ、チェリアに聞いてない?指導職員は、冒険者にダンジョンの知識を教える職員のこと。冒険者には、Lv.1までは指導職員がつくのよ」
ああ、成る程。冒険者の中には、俺みたいな無知な奴が沢山いるんだろう。
ダンジョンの探索で、情報は重要だ。それはダンジョンだけでなく、日常においても当てはまる。
「あ、あの子よ。サヨー!ちょっと来てー!」
ニムさんが呼ばれて、女性職員が走ってくる。黒髪と顔立ちからして、彼女も東洋の出だろう。
受付嬢の例に漏れず、やはり美人だ。歳は、俺より上だろうか。
「ニムさん、どうしたんですか?」
「貴方、指導職員に選ばれたでしょ?貴方の担当がいたから、紹介しておこうと思って」
「じゃあ、この人が………初めまして。私はサヨ・サカマチっていいます。宜しくお願いします!」
「ヤゲツ・サキラギです。宜しくお願いします」
「それで、今から指導を始める?これから、私は時間があるけど」
「じゃあ、お願いします」
良かった。これで時間も潰せるし、知識も蓄えられる。
「じゃあ、一般書庫に案内するね。ついてきてぇっ!?」
「さ、サヨさん!?」
一般書庫に向かおうと歩き出したサヨさんが、何もないところで足を滑らせて、盛大にこける。これには、俺も驚いてしまった。
「だ、大丈夫ですか?」
「う、うん、大丈夫。慣れてるから」
慣れてるって………そういえば。あんなに派手に転んだのに、誰も騒いでいなかった。
この人はそんなによく転ぶのか。かなりぬけている人らしい。よく中央管理施設の職員になったな。
一般書庫についた。俺は椅子に座らされ、サヨさんは本棚から何冊も本を取って、机の上に置いた。サヨさんが、向かいの椅子に座り言った。
「じゃあ、始めるよ。頑張ろうね」
「はい!」
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サヨさんの指導は、意外とスパルタだった。だがとてもわかりやすく、今日だけで上層に産み出されるモンスターの名前は全て覚えてしまった。
サヨさんが、紅茶を淹れてくれた。
「ありがとうございます、サヨさん」
「いやいや、ヤゲツ君が頑張ったからだよ。ヤゲツ君は飲み込みが早いね。教育機関に通えば、結構上にいけたんじゃない?」
紅茶を飲みながらサヨさんがそう言ってくれた。お世辞でも嬉しい。そう言ってくれると、頑張ったかいがあったものだ。
紅茶も飲み終わり、もう夜になっているので、席を立つ。
「じゃあ、今日はこれで失礼します。また、次も宜しくお願いします」
「うん、じゃあね」
中央管理施設を出て、昨日と同じ宿屋に向かう。まだホームでは俺を含む新人ようの部屋の整理が終わっていないらしく、ホームに移動するのは明日になっているのだ。
明日は、引っ越しが終わり次第中央管理施設行く。
まずは、上層の知識を身に付ける。それを目標にしよう。
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「えーっと、同室の相手は…………」
翌日、早朝。ホームの庭には、新しく入団した者が集まっていた。その数は、十人。
先程渡された同室相手の名前が書かれた紙をもって、それぞれ集まっていた。
周りを見ると、男の冒険者は既に全員が同室相手と合流している。残っているのは、周りを見回しているエルフの男だけだ。
「なあ、お前がヴァレッジ・グロンナか?」
「ああ、そうだ。じゃあ、君がヤゲツ・サキラギか。宜しく頼む」
「こちらこそ、宜しくな」
全員が同室相手と合流したところで、男女で左右別々の入り口に移動する。ホームの建物は、全て通路で繋がれている。
周りの四つの建物、通称『四柱』の一つに入った俺達は、それぞれの部屋に案内された。俺とヴァレッジは二階だ。
部屋に入った俺達は、荷物を部屋に置いて腰を下ろす。
「うん?ヤゲツ、君の荷物はその箱だけなのか。ずいぶん少ないんだな」
「………ああ、必要なものだけを持ってきたからな。それより、この後はどうする?」
部屋に案内された時、先輩団員にこの後はもう自由にして良いと言われたのだ。
「そうだな、私は工房に行こうと思う」
「工房?ヴァレッジは生産職なのか?」
「ああ、防具を主に作っていこうと思っている。そういうヤゲツは、この後はどうするのだ?」
「俺は見ての通り戦闘職だからな。ダンジョンに………と言いたいけど、中央管理施設に行って、指導を受けようと思ってる」
独学で学ぶよりも、わかっている人から学んだ方が良いに決まっている。それなら、指導職員の制度を利用してやる。
「そうだ、これを忘れずに着けていけ、ヤゲツ」
「わかってるよ、ちゃんと着ける」
俺達が持っているのは、太陽を模したピアスだ。さっき渡されたこれは、アマテラス様の神団である証。一目でそうと判断するためにつけるものだ。
俺はピアスを左耳に着けて、ふと気になった事をヴァレッジに聞いた。
「ヴァレッジ、お前は話しやすいな。エルフは高慢だと聞いてたけど」
「ああ、それは余程酷い奴等が一部にいるだけだ。昔、ダンジョンが現れる前はそうだったようだが、今はこのダンジョンがあるからな。相手の事はちゃんと対等に考える」
「へー、そうなんだ」
「ああ、そうだ。さて、そろそろ私は工房に行かせてもらう。お前も頑張れ、ヤゲツ」
「ああ、お前もな」
ヴァレッジが部屋を出ていった。俺もここでやる事はもうないので、直ぐに部屋を出た。
ホームから出て、中央管理施設に向かう。中に入って見渡すと、受付にサヨさんがいるのが見えた。
「サヨさん」
「あ、ヤゲツ君。今日は何の用で来たの?」
「指導をしてほしいんですけど、今大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。指導職員は、担当冒険者の指導を一番優先する事になってるから。ごめん、受付変わってくれる?」
後半は、後ろにいた女性職員にかけられた言葉だ。女性職員は好意的に頷いてくれて、サヨさんと一般書庫に移動した。
「さて、始めようか。昨日の続き。今日はモンスターの詳細まで覚えてもらうよ」
今日もまた、スパルタ指導が始まった。