エピソード5~買い物~
俺は、ベッドから下りて部屋の中を歩き回る。やはり、完治していた。これなら、戦っても問題ないな。
「あ、そうだ。ヤゲツ君が寝ている間にアマテラス様が来て、ステータスを更新していったよ。確認してみたら?私は、部屋から出てるから」
「ありがとうございます、チェリアさん」
ステータスは、個人と神だけの秘密とすべきものだ。冒険者にとっての生命線となるため、よほどの事がない限り、他者に洩らしてはならない。
一番最初のステータスは、中央管理施設と、アマテラスとその眷属、通称『神団』に記録されるが。
「さて、じゃあ、ステータスを見てみるか」
ヤゲツ・サキラギ Lv.0
筋力:S 耐久:S 敏捷:S 器用:S 魔力:S
魔法
スキル
【纏魔戦血】
『・使うと念じる事で発動する
・スキル使用時、全ステータスの超強化
・スキル行使には、血を代償とする 』
【大器覚醒】
『・常時発動
・自然治癒能力が大幅に上昇する
・成長限界を越える 』
あれ、これは…………。スキルが完全に目覚めて、別のスキルが新しく増えてる。どちらも、かなり有効的な能力だな。
「能力値は、限界のSまでいってるけど、たぶん俺のスキルがあれば」
限界を越えられる筈。そうと決まったら、やる事は簡単だ。ダンジョンに行って戦う。これしかない!
服はボロボロなままだが、致し方ないだろう。お金も持ってないしな。
「チェリアさん、終わりました」
「そう。じゃあ、入るね」
チェリアさんが入ってきた。本来、立場は逆なんじゃないだろうか。
「それで、ヤゲツ君に渡す物があったのを思い出したんだ。はい、これ」
「え、これって?」
「ヤゲツ君が倒したモンスターの魔石とドロップアイテムの換金したお金だよ」
チェリアさんが渡してきたのは、かなり大きな布袋だった。受け取って中を見ると、貨幣がぎっしりと詰まっている。
これが、全部俺のお金?
「こんなになるんですか?」
「普通はこうはならないよ。ヤゲツ君は一階層のモンスターをほぼ一人で倒しちゃったからね。いくら一階層の魔石やドロップアイテムでも、あんなにいっぱいあったらそのくらいにはなるって」
「まあ、結構斬りましたからね」
成る程。じゃあ、本当にこれは俺のお金なんだな。でも、持ち運ぶのが面倒だな。まあ、仕方ないか。
「それでヤゲツ君は、この後どうするの?」
「またダンジョンに行こうかと…………駄目ですか?」
「当然だよ。せめて明日からにして!それに、私はヤゲツ君の教育係だからね。色々とスケジュールも考えてあるんだ」
「スケジュール、ですか?」
一体どんなものを?チェリアさんのことだから、ちゃんとしたものを作ってそうだけど、逆もありそうだ。
「まずは、これの解決からかな」
「それは…………」
チェリアさんが見せてきたのは、刀身が完全になくなった刀だった。性能は最低限のものだったから、あの連戦に耐えなれなかったんだろう。
「でも、どうするんですか?俺はセルアリアに来たばかりだから、刀を売ってる武器屋なんて知りませんよ?」
「私に心当たりがあるから、最初はそこに行こうか。そんなにお金持ってるんだし、大体のものは買えるでしょ」
チェリアさんに連れられてホームを出て、街を歩く。進んでいく内に、周りが武器や防具を売る店ばかりになってきた。
色んな冒険者の人達で賑わっている。チェリアさんは、路地裏に少し入ったところにあるお店に入った。
中は意外と綺麗に片付けられていて、武器や鎧が並べられていた。俺達、正確にはチェリアさんに気づいたカウンターの男性が、カウンターの中から話しかけてきた。
「よう、チェリア。久しぶりだな。今日は何をしに来たんだ?」
「久しぶり、ムルザさん。今日は、この子の刀と軽装を買いに来ました。ヤゲツ君、こちらはムルザさん。昔、私がお世話になった方です」
「宜しくお願いします」
「おう、任せろ。刀と軽装だったな。軽装はそっちに陳列されてるから、そこから選んでくれ。その間に、俺は裏から刀を取ってくるから」
ムルザさんはそう言って、店の奥へと消えていった。どうやら刀を使う人が少ないから、刀は並べられていないみたいだ。
チェリアさんと一緒に、軽装の棚を見ていく。俺は良し悪しがわからなかったので、チェリアさんに選んでもらった。
軽装が入った木箱を持ってカウンターに行くと、丁度ムルザさんが奥から出てきたところだった。
「お、丁度良かったみたいだな。軽装はそれで良いのか?」
「はい、これでお願いします」
「そうか、じゃあ、これがうちに置いてある刀全部だ」
ムルザさんが、手に持っていた三本の刀をカウンターの上に置く。
「この中から選んでくれ」
「えーと、それじゃあ……………これにします」
俺は、普通の長さの黒い鞘の刀を選んだ。他のは、俺には長すぎたり、異様に重かったりで選べない。
「おお、それか。それはその三本の中じゃ一番良いやつだ。他より少し高いぞ」
「これでお願いします。軽装と合わせていくらになりますか?」
「軽装が40000ギノル、刀が2000ギノルで、合計42000ギノルだ」
思っていたよりも安かった。刀は、使い手がいないから安いのだろうか?
代金を支払って、刀と軽装を入れた木箱を持って外に出る。
「チェリアさん、この後はどこに?」
「ヤゲツ君の服を買いに行きます。すぐ近くにありますから、ついてきて下さい」
チェリアさんが言った通り、店にはすぐに着いた。店の中には、様々な服が並べられている。
「ヤゲツ君はここで待っていて下さい。私が選んできますから」
そう言って、チェリアさんは服を探しに行った。チェリアさんは数分程で戻ってきた。持っているのは、黒い着流しと藍色の袴だった。
「はい、ヤゲツ君。私からの入団祝いです。受け取って下さい」
「えっ、良いんですか!?」
「勿論です。更衣室を貸してもらえますから、着替えてきて下さい。いつまでもそのボロボロの服じゃ、動きにくいでしょう?」
チェリアさんの言った通り、更衣室で服を着て、防具をつけた。最後に、刀を腰に差す。二回目だから、前よりも早く終わった。
木箱は店の人が処分してくれるらしいので、預けてから入り口に戻る。
「お待たせしました、チェリアさん」
「ヤゲツ君、似合ってますよ。予想通りです。この後は、自由行動にしようと思いますから、何をしても大丈夫ですよ。ただ、ダンジョンにだけは行かないように!それでは」
チェリアさんはそう言うと、ホームに向かって歩いていった。
残された俺は、これからどうするか考える。ダンジョンに行きたいが、今日は行っては駄目と言われてしまった。
(どこに何があるか全然知らないし……………中央管理施設にでも行ってみるか)
こんな時間から『滅びの屍』に行くつもりもないので、中央管理施設に向かった。