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エピソード3~異常な戦闘~


 空気が変わった。ダンジョンの穴から一階層に続く階段。それに脚を踏み出した時、直感的にそれがわかった。ここから先は、全く別の世界だと。

 それを理解した俺は、期待を高くした。恐怖の感情はある。だが、それを高揚が覆い尽くしていた。それでも、頭は常に冷静なままだ。


 真っ暗な中階段を下りきった瞬間、周り景色が、闇一色から洞窟の中へと切り替わった。光源は無いにも関わらず、明るくなっている。

 俺達の目の前には、狭い通路が伸びていた。


 「ヤゲツ君、ダンジョンについて説明します。周りを警戒しながら聞いてください」


 その言葉に刀を抜いて、周りを気にしながらチェリアさんの後をついていく。


 「ダンジョンは、上から下に行くにつれて大きくなっていきます。階層の広さ以外の変化は、モンスターの強さは勿論、通路の広さです」

 「通路の、ですか?」

 「はい。上層は見ての通り道は狭く、迷路になっています。しかし下に進むにつれ、道は広がっていき、下層からは通路そのものがなくなります」


 それを聞いた俺の頭の中には、上も横も岩に覆われた中に、森や川が流れている様子を思い浮かべた。恐らく、このイメージは間違っていないだろう。

 と、そこでチェリアさんが立ち止まった。


 「来ましたよ、ヤゲツ君。貴方の初戦の相手です」

 「あいつですか…………」


 俺達の歩いている通路の先には、一体のモンスターがいた。

 形は蜂。全身が紫色の、50cmくらいの蜂だ。鋭い針を光らせながら、空中を飛んでいる。


 「あれはポイズンビー。あの針には、毒があります。初戦では難しいかもしれませんが、気をつけて戦えば………って、ヤゲツ君!?」


 俺はチェリアさんの言葉を聞かずに駆け出していた。

 俺も、前にあのモンスターの説明を読んだ事がある。確か…………………


 「ふっ!」

 「ギシュァァァ!!?」


 技術もなんもなく、力任せに振られた俺の刀が、ポイズンビーの甲殻の隙間を切り裂いた。 それが致命傷となり、ポイズンビーは地面に落ちた。そして死ぬ直前に……………体から、黄色い粉末を噴出した。

 それは俺の周囲にまで広がって、止まる。そして、壁に、天井に、床に。無数の(・・・・)が空いた。


 モンスターは、迷宮の壁に突然あく穴から出てくるのだ。モンスターを産み落とした穴は凄いスピードで再生する。


 穴が空いた次の瞬間、全ての穴からポイズンビーが顔を出す。

 これが、ポイズンビーの特性。一撃で仕留めないと、死ぬ直前に大量の仲間を産み出す粉末を噴出するのだ。

 ポイズンビーの羽音が音を掻き消すなか、俺は…………笑った。俺は、これを狙ってやったのだ。


 「ヤゲツ君!今助けま「手を出すな!!」………っ!?」


 チェリアさんが俺を助けようとしてくれたが、俺はそれを拒否した。チェリアさんの判断は正しい。祝福を授かったばかりの眷属は、一般人より少し強い程度でしかない。

 だが、俺はこれを望んでいたのだ。この血沸き肉躍る、死の直ぐ傍での、ギリギリの戦いを。


 ポイズンビーが一斉に飛びかかってくる。俺は刀を振った。何体かはそれで傷つき動きを止めるが、そんなものは無意味に等しい。まだ他に、数えきれない程のポイズンビーがいるのだ。

 俺は無我夢中で刀を振った。通路を動き周り、撹乱しながら斬っていく。その内、俺は記憶の中にある親父の姿をなぞっていた。

 見ているだけではわからない程に小さく。されど、確実に身のこなし、斬撃の鋭さが良くなっていく。

 だけど、違う。あの親父の刀は、もっと正確で、速くて、鋭くて。


 (強かった!!!)

 「うらぁぁぁぁぁぁあ!!!!」


 ゼアルはその時、自分と周りしか見えていなかった。極度の集中状態にあった。

 ゼアルの頭は敵を斬ることだけを考えていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 モンスターは死んだら、魔石と稀にドロップアイテムを落として灰となる。


 数十分後。ダンジョン一階層。その一部では、あり得ない光景が広がっていた。

 通路全体に広がる灰。その上に転がる無数の魔石とドロップアイテム。それらを全て赤く染め上げているモンスターの血。

 一体、どれだけのモンスターを殺せばこうなるのだろうか。驚くべきは、これをやったのはLv.0の今日祝福を授かったばかりの冒険者だ、という事だ。

 普通はとっくに死んでいる。だが、ヤゲツ君はその中心に、刀を支えにして立っていた。

 その体は傷だらけで、あり得ない程の血が流れだし、真っ赤になっている。

 おかしい。彼は、戦闘経験などない筈だ。だが、彼の剣技は途中から明らかに変化していた。力任せの子供のような剣から、まだ未熟ながら確立した剣へと。


 フラッ、と。ヤゲツ君の体が傾く。私は咄嗟に駆け寄り、彼の体を抱き止めた。

 私は、近くにある彼の顔に問いかけの視線を向ける。彼は、既に意識を失っていた。


 (ヤゲツ君、貴方は、一体…………)


 ヤゲツ君は、あの死に囲まれた中で笑っていた。だが、私はそんな彼の姿を見て、悲しそうだと感じていた。寂しそうだと。

 あんな事、あんな顔、こんな子供に出来る事ではない。


 (君に、一体何が……………?)


 私は、気を失ってもなお笑っている彼を見て、知りたいと、歩み寄りたいと、そう思った。



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