エピソード1~冒険者~
「うむ、宜しくな、ヤゲツ」
そう言って笑うアマテラス様。俺は決めていた。眷属になるなら、アマテラス様の眷属だと。
「悪いが、次の者が待っているのでな。詳しい説明は、次の部屋で待っている教育係に聞いてくれ」
「わかりました」
申し訳なさそうにそう言うアマテラス様に、俺は当然のように頷いた。
奥の扉を開けて、隣の部屋に移動する。その部屋では、数人の先輩冒険者達が待っていた。その中の一人、周りよりかなり若い女性が立ち上がり、俺に近づいてくる。
「君がヤゲツ君?」
「はい、そうです。貴方が俺の教育係、ですか?」
「はい、私がヤゲツ君の教育係、チェリア・プラニアスです。冒険者について説明するので、私についてきて下さい」
そう言って入ったきた扉とは別の扉から出ていくチェリアさんのあとを俺は追いかける。
チェリアさんの後ろを歩く俺は、内心驚いていた。俺は彼女の名前を知っていた。
最近期待の星と呼ばれている、17歳の若き冒険者。アマテラス様の眷属の中でも、新しい幹部候補だった筈。
そんな風に色々考えながら歩いていたら、いつの間にか目的地に着いたようだった。チェリアさんに促されて部屋に入ると、まず目に入ったのは本だった。壁にある本棚にズラリと本が並んでいる。
他にも、部屋にはベッドや机など、色々な家具が置かれていた。
「あの、ここは?」
「私の部屋です。どうぞ、座って下さい」
チェリアさんがソファに座ってそう言うので、お言葉に甘えてソファに腰を下ろす。
俺が座るのを確認したチェリアさんは、手元の書類を見ながら言う。
「名前はヤゲツ・サキラギ。出身はクノホ村。戦闘経験はなく、知識も一般人並み。合っていますか?」
そう言って、チェリアさんは一番上の神をこちらに見せてくる。そこには、俺に関する簡単な情報と、似顔絵が載っていた。
髪は長めで、片側のもみ上げを三編みにしている。
顔は元の顔立ちは良いが、前髪に隠れていて一見平凡にしか見えない。
かなり絵が上手い人に書いてもらったのか、かなり似た似顔絵だった。
「はい、間違いありません」
「そうですか。では、冒険者についての説明に移りますが、どこまで知っていますか?」
「一般人と同じくらいです」
「そうですか。なら、最初から説明した方が良さそうですね」
そう言って書類をテーブルの上に置いたチェリアさんは、冒険者についての説明を始めた。
「冒険者とは、ダンジョンに入り、モンスターと戦う職業です。戦闘の他にも、依頼を受ける事もあります。その内容は、モンスターの指定討伐から素材の採取まで様々です。ここまではわかりますね?」
「はい、大丈夫です」
「また、神の眷属には冒険者の他にも、鍛冶師や薬師など、様々な職業があります。貴方も冒険者になる以上、色々と関わる事があるでしょう」
チェリアさんはそこで一度区切って、また話し始める。
「次は、祝福についてです。貴方は、祝福がどういうものか知っていますか?」
「いえ、詳しくは………」
「祝福とは、神から与えられる可能性です。冒険者ならモンスターとの戦闘などの経験を積み重ねる事によって、ステータスが強化されます。現在のステータスは、[門よ開け(ゲートオープン)]と言えば、確認出来ますよ。試してみて下さい」
チェリアの言葉に従い[門よ開け]と言うと、胸から光が出てきて、空中にステータスを映し出した。
ヤゲツ・サキラギ Lv.0
筋力:I 耐久:I 敏捷:I 器用:I 魔力:I
魔法
スキル
【?魔戦?】
『???』
さっき祝福を受けたばかりだから、当然Lvは0。能力値も最低のIだ。だが、何故かスキル欄が埋まっていた。
「おや、珍しいですね。スキルが目覚めかけている」
「あの、これってやっぱり珍しいんですか?」
「はい、かなり。スキルは経験を積み上げていく中で、想いが形になったものです。最初からそれがあるという事は、強い想いを抱く程の余程の事があったか………」
「……………」
チェリアさんが窺うように見てくるが、それに答えるつもりはない。
これは、この想いは俺の中にしまっておくべきものだ。つい先程会ったばかりのチェリアさんに、話す必要はない。
「まあ、それはいいでしょう。説明はこれで終わりです。この後は中央管理施設に行って、貴方の登録をします。行きますよ」
「はい、了解です」
チェリアさんに続いて部屋を出て、玄関に向かう。このアマテラス様のホームは、東洋式の城になっている。
真ん中の一番大きな建物にアマテラス様と幹部、幹部候補の部屋や重要な部屋があり、他に4つある建物に他の者達の部屋があるらしい。
食事は城壁の中の庭に集まり、出来る限り全員で食べるそうだ。
決まりを教えてもらいながら移動して、門から出て中央管理施設に向かう。セントラルはダンジョンの直ぐ近くにある。
十数分程歩くと、やっと着いた。緑と白を基調とした建物で、正に管理施設、という雰囲気をかもし出している。
中に入ると中は結構広く、それなりの人数が居た。職員らしき人、冒険者らしき人から生産者らしき人まで様々だ。
チェリアさんは、真っ直ぐに受付まで進んでいく。受付にいる職員は全員女性で、全員が美人だった。受付は美人じゃなきゃいけない決まりでもあるのだろうか?
チェリアさんは、慣れた様子で猫人の受付嬢に話しかける。
「すみません、この子の冒険者登録をお願いしたいのですが」
「はい、冒険者登録ですね。では、こちらの書類に記載をお願いします」
そう言って受付嬢が差し出してきた書類に、渡されたペンで書いていく。簡単な事だけだったので、直ぐに書き終わった。
「終わりました」
「はい、名前はヤゲツ・サキラギ氏。15歳。種族はヒューマン。出身地はクノホ村。戦闘職で登録ですね。了解しました。初心者用の装備は必要でしょうか?」
「受け取っておいた方が良いですよ。お金はかかりませんから」
「じゃあ、お願いします」
「では、あちらの通路を進んで、突き当たりに立っている職員に話しかけて下さい」
「わかりました。チェリアさん、少し行ってきます」
俺はそう言ってその場を離れた。俺は、初めての装備という事で、楽しみにしながら通路を進んでいった。
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「ねぇ、あの子、本当に子供なの?」
先程まで新人の前だから猫を被っていた受付嬢のニムが、そう聞いてきた。
「どういう意味ですか?」
「色んな人を見てきたからわかるのよ。あの子、表面上は落ち着いた子供みたいだけど、強い覚悟を秘めた目をしてた」
「それは……………」
自分も感じていた事を言われ、思わず言葉を詰まらせる。
そう、彼は強い覚悟を秘めた目をしていた。危うい、危険な目を。
それこそ、スキルが目覚めかけるくらいの覚悟を持っているのだ。まだ15歳という若さなのに。
「チェリア、あんたが連れてきたって事は、あんたがあの子の教育係なんでしょ。ちゃんと見ていてあげなさい」
「わかってますよ。家族を見殺しになんて出来ませんから」