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異説戦記-ヒノワ伝-  作者: ロウシ
第3章:力を求めて
23/27

第23話:ヒノワの語る戦争

本作中でヒノワのいう「騎士」の周りに関する話は

1章第5話:道の違い【https://ncode.syosetu.com/n1070dz/5/】

1章第6話:カルマ【https://ncode.syosetu.com/n1070dz/6/】

でのお話です。

本話を読み終わった後に、是非読み比べをしていただきいです。



0.



 勝負はヒノワの敗北として決着し、ヒノワはパ・ムーナから与えられたウル合金をドワーフに渡した。

 注文するのは太刀と小太刀。ちょうど勝負で根本から折れてしまった柄と鍔も預けた。できればそれも使って欲しい……という感傷ではなく、握りの部分は手に馴染んだものを使ってもらった方がいいというタケゾウの判断だった。


 代わりにタケゾウは剣を一振り借りた。

 ドワーフに刀の事は任せ、4人は宿へと戻り、そしてヒノワは勝負において何をしたのか、何をおこなったのかについて、山で、何があったのかについてを語った。


 パ・ムーナに関してはリザードであり、龍の国の出身であるアトムに尋ねてみたが、アトムは聞いたことがないと、物知りな彼にしては珍しく首をかしげてみせた。


 そして、ヒノワはタケゾウの太刀を躱した理屈を話した。


 まず、認識した空間にあるものを自在に操る能力……それが神通力であり、本来の魔法であると。それをパ・ムーナによって引き出されたことも含めて、全てを話した。今までの旅路の中で、対峙したヤシャの物質の異常な取り込み能力や『全知の魔女』のいた四季折々の不可解な土地が、彼らの魔力と認識が支配する空間由来の能力だと考えれば、全て合点がいった。


 その力の雄大さ、規模スケールを、ヒノワは興奮した口調で捲し立てた。

 先の勝負で曲がりなりに、タケゾウの一刀を躱せたことが嬉しすぎて、その高揚感も相まってか、顔が真っ赤になっていた。


「使い物にならんな、それは」


 だから、タケゾウの放った言葉にヒノワは仰天した。



1.



「なぜじゃあ!?」


 ヒノワはすっかり酔いが醒めて、タケゾウに掴みかかった。それをリクサーが止めた。タケゾウはバツが悪そうにふん、と鼻を鳴らした。


「おめぇ、戦いの中で、『戦う』こと以外に意識を向けられんのか?」

「……!?」


 ヒノワは何を言っているのか、一瞬理解できなかった。

 しかし、


「あ!」


 と気づいた。


 タケゾウが頬を掻きながら、言った。


「その『認識支配』ってヤツぁ、すげぇ能力だと思うよ。けどなァ、逆に言うと、認識できねぇものは支配できねェってことだろ?」


 その通りだった。


 ヒノワが勝負の際に、タケゾウの太刀を躱せたのは、ヒノワの認識能力でタケゾウの距離感を3分の1歩分狂わせたからだった。つまりタケゾウは斬るのに充分踏み込んだと思い込んだが、距離感が狂ったその分だけ剣の射程距離が足りなくなっていたのだ。


 だが、たったそれだけのことをするために、ヒノワは激しい疲労感に襲われていた。たったそれだけの距離感をズラすだけで、実質行動不能で思考不能に陥っていた。

 タケゾウの返しの一振りを防げたのは、実は本当にただの偶然だったのだ。鋭い剣気に反射的に小太刀を立てたら、そこがタケゾウの剣閃にどんぴしゃり! だったのだ。

 だからこそ、それを防げた後の疲労感というか、「あぶなかった」としか考えが至らないほどに判断能力の低下していたし、それに伴う油断から追撃の鞘に全く気づかず、ヒノワは意識外から殴り飛ばされてしまったのだった。


「磨きゃあ、すげぇ力だと思うさ」


 その通りだ。

 事実、ヤシャや魔女。

 そして、パ・ナームはアレだけの認識支配力を持っていた。

 特にパ・ムーナは物質を自在に創造しヒノワを山から転移させるなど、ほとんど全能と呼んでいい振る舞いを見せてくれた。


「だが、お前が今の段階でそれを戦いに組み込むのは賛成しねェよ」


 それも、その通りだ。

 今のヒノワでは相手を認識下に置く前に殺されるだろう。

 もちろん並みの相手や野伏、野盗などには遅れは取らないだろうが、ヒノワの当面の敵はヤシャである。生半可な『それ』では通じない事は火を見るよりも明らかだ。


「確かに、ヒノワさんがタケゾウさんに干渉できたのも、普段からタケゾウの動きを間近で見ていたから、というのも大きいでしょうしね」


 リクサーが正論で追撃した。

 悪気はないが、ヒノワはすん、と大人しくなった。


「……難しいのぅ」


 すっかり消沈したヒノワは顔をうつむかせてごちた。

 しかし、タケゾウは深く笑った。


「要は鍛えりゃいいんだよ」


 あっけらかんとした言葉だった。

 ヒノワの苦悩など、大した事でないと笑うような口調だった。

 タケゾウは饒舌に語り出した。



 ヒノワ、お前は運がいいんだぜ? 剣を握ってまだ半年もたたないのに、この俺と立ち合い、曲がりなりにも俺の剣を躱す術を、身につけてるんだからな。


 アレに理屈があるってこたぁ、つまりまぐれじゃねえって事だ。


 だったら、後はひたすら剣を振るんだ。


 俺が、剣を振るように。


 俺は最強だ。だが、俺は未だ剣を振るう。

 なぜなら、最強に終わりはねェからだ。


 俺が剣を振るって、その分だけ強くなり続けるように、ヒノワ、お前も剣を振り続けるんだ。


 そしたら、ふと、強くなれる。


 だから、いいか、剣を振るうんだ。



 タケゾウの言葉は、沁みるようだった。


 うん。と、ヒノワ頷いた。

 あげた顔は見惚れるほど美しく、可愛らしい笑みが浮かんでいた。




「タケゾウさんて、意外と気遣い上手いですよね」


 リクサーがタケゾウに聞こえないように、アトムに耳打ちした。


「彼は異界では弟子も多かったと話していましたし、育てる力があるのでしょうね」

「ぶっきらぼうでは、ありますけどね」


 リクサーはふふっ、と笑った。



2.



 その後、アトムは時世を話した。

 包み隠さずに。

 つまり、バイルディンとヴァルカンがカプル渓谷で衝突し、交戦に入った事を、

 ヴァルカンはバイルディンを退けはしたものの──いや、だからこそか、ヴァルカンには諸国の難民が押し寄せて国がパンク寸前であるということも、包み隠さずに淡々と語った。


 それを、ヒノワは表情を引き締めて、一つ一つの情報を噛み締めるように聞いていた。


 アトムがヒノワにこれからのことを切り出した。その上で、提案としてオキナの元に──つまり、アースヴァルド大陸最強国家である、龍族の国ケスメートの保護下に入り、戦局が平定するまで待つ選択肢もあると添えた。


「旅は続行する」


 ヒノワは即決した。

 アトムは理由を尋ねた。


「まず、わしらが今引き返したところで何ができる?」


「大陸侵攻に駆り出されるヤシャは、つまりバイルディンの本軍じゃ。わしらが相手にしてきたヤシャとは比べ物にならん質と数じゃろう」


「わしの能力は今話し合った通り、今は戦場では使い物にならん。さしものタケゾウもヤシャの一個師団相手では分が悪かろうて」


 タケゾウは黙って聞いていた。

 表情にはなんら機微もなかった。


「わしがヤシャに突っ捕まれば、そのままヴァルカンの足を引っ張ることにもなろう。じゃから、今のわしらがヴァルカンたちに加勢に行く理由はない」

「では、オキナの元にはなぜ……?」


 オキナの元にヒノワがくれば、それはそのままケスメートがバイルディンに対し、成敗の名目で戦線に介入する口実にもなる。

 神話の時代──つまり勇者と神々の時代から生きる戦士が多い龍族が相手となれば、いかにヤシャが屈強な種族といえど殲滅に時間はかからないだろう。


 しかし、ヒノワはかぶりをふった。


「ダメじゃ! オキナの力を借り、その力で解決を図るという事は、オキナに──ひいてはケスメートに多大な借りを作ることになるじゃろう」


「そうなればヴァルカンの助力の元にエルフリュレを再建するという計画に、どんな口を出されるかわからぬ」

「オキナがそんな真似をすると?」


 アトムの口調に、明確に熱がこもっていた。

 しかし、ヒノワは怯まない。


「わからぬ。わしはオキナさまはその背に抱えたこともあるが……その腹を読み切れておらぬ。ましてや彼の善悪が、誰にとっての善悪なのか、わしごときにはとても断言できぬ」

「無辜の民がヤシャの犠牲になりますよ?」

「…………」


 流石に、ヒノワも黙った。

 リクサーが何か言おうとしたが、それをタケゾウは止めた。


「……わしは、わしの国に仕えておった騎士を、救えなんだ」


 タケゾウとリクサーには、それが誰を指すのかすぐにわかった。


 あの男だ──エルフリュレの近衛騎士だったが、王を守れず国を守れず、ヴァルカンの指導の元、軍の解体によって行き場を失い、幼児ともども野盗に成り下がった、あの騎士のことだ。


「わしらはバイルディンが恐ろしい。ヤシャが怖い。彼らを倒したい」


 じゃが、


「わしらが勝ったとしても、それは結局、あの騎士のような者を、バイルディン側に生むだけであろう……!」


「では、オキナが介入し、それで戦に勝ったならば、どうなるというのじゃ!? アースヴァルドの守護者たる龍族と戦い、彼らに敗北したならば、残されたバイルディンのものたちはアースヴァルドで生きていけるのか!? 生きる場所はあるのか!?」


「…………それは……」


「それとも、オキナは敵対するものを全て、滅ぼすというのか……? 女子供も……わしのために? わしと……わしの国を、守るという理由でか!!?」


 ヒノワの剣幕に押されて、アトムはすぐさま膝と尻尾を折って首を垂れた。


「ヒノワさまの、おっしゃる通りです。軽率な発言でした、申し訳ない……」


 ヒノワは宣言した。

 そう、それは宣言だった。


「わしらの行き先は大陸最南端、『魔王アイガンゼスト・ロックヴェード』の支配する国ケイオース。それに変わりはない!」


 アトムは首を垂れたまま、かしこまりました、と言った。

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