第一章:勇者たちの初陣1話失敗勇者
異世界はとても冷たく厳しい世界だ。
元の世界のほうがよっぽとましだったのかもしれない。
その日俺はその現実を知ることになる。
「これは神獣召喚石、この国でも限りある貴重な石です」
聖国ローゼングルドの一隅に大きな城があった。
聖王が納めるローゼングルド城である。
城を中心として都市が作られ四方には巨大な外壁が佇んでいる。
その城の中核、庭園のように整えられた庭に数十人もの人々が集まり
息を飲んでその様子を伺っていた。様々な人の目が浴びせられる一団の中に
俺、石田春文の姿があった。
「貴方方にはこの石を一人ずつ握ってもらい魔力を込めて頂きます」
ドレスに身を包んだ紫色の髪をした女。この国の王妃だという彼女は
彼らに説明を始める。そんな彼女に質問を浴びせる者が現れる。
「質問なんですが~いいですか」
気の強そうな黒髪の女性だ。その背後にはもう一人気の弱そうな少女が
半身を隠し、彼女の手に捕まって隠れていた。
春文はそれを横目にしながら彼女の言葉を耳に入れる。
「なんですか?」
「魔力ってどうやれば込めれるんですか?」
「簡単です、握っていただければ自動的に魔力は供給され召喚石に流れ込みます」
「なるほど」
握ればいいわけか、何か心理的力が必要なのかと思った。
「魔力を込めていただくと召喚石が輝き出しますので輝き出した方々から順番に
『我、汝を開放する。目覚めよ古の王たちよ』と詠唱してください」
「それだけ?」
「えぇ、それだけです」
彼女は一人一人丁寧に石を手渡していく。
「へぇーこんな石ころで俺たちの魔力がわかるのか」
一緒にこの異世界に召喚された竜堂寺・信が半ば半信半疑な口調でそう言った。俺を含めるここにいる4人はこの国の人間によって勇者候補として召喚された。召喚された時春文と信は一緒に図書館で課題を終わらせるべく勉強にいそしんでいたのだが、突然目の前に黒い渦が生まれ、それにのまれたと思ったらこの城の立ち入り禁止区間に立っていた。この国の騎士団に捕らえられ数時間前には牢獄に投獄されていた。どうにか王妃様のおかげで誤解は溶けたのだが、次は勇者としての素質を試されることになった。そして現在いたる。
「百合子姐さん。見てこれ」
「本当に光ってる……わね」
先に声を上げた高校生くらいの幼い少女は手のひらに黄色い光を溢れさせていた。
百合子姐さんと呼ばれている彼女は灰色の光を石に灯してる。
なんと、信でさえも白色の光を手に宿している。
俺はそんななか未だに光を灯せていない。
「皆さん灯ましたね~では次は召喚を行って見ましょう」
ちょ、ちょっとまって王妃様~俺まだ出来てませんよ~
「あ、あの俺まだ……」
しかし俺の言葉は無視されて、
「ではまず黒崎・雫様から」
おどおどとしながら百合子姐さんの手を引く。
「大丈夫だからーやってみなさい」
「わ、わかりました。や、やってみます」
「うん」
見るからに気の弱そうな少女はそう言って石を握りしめる。
「我、汝を開放する------目覚めよ古の王たちよ」
瞬間、光が手の平から空中のある一点めがけて集まり始める。
そして次の瞬間、それは弾け飛んだ。
すると天空のどこからか声が降ってくる。
「------我は生命の大地、第二一層を統べる者白天竜フォールナーゼ
我が半身を呼びせし者は何者か」
その声と同時に天空に巨大な白い竜が現れる。
同時に歓声に似た声が会場を包み込んだ。
「まじかよ……」
俺は思わず息を飲んだ。
城が竜の巨大な影によって夜が訪れたように暗く覆い隠されていく。
こんな化物をあの気の弱そうな少女が召喚してしまった。
本当に現実離れしている光景で、俺の胸は高鳴りを隠し切れずにいる。
流石にあんなでかいやつじゃ無いかもしれないが、おれもあんな感じの
派手でカッコイイ召喚獣を手にできるかもしれない。
俺は手に握るまだ光らぬ石を見据えた。
きっと俺の石は俺の持つ魔力が高すぎて判定出来ずにいるのだ。
そんなことを考えている春文をよそに少女は声を上げた。
「わ、私です……」
怯えながら彼女は竜を見据えていた。
「小さき少女よ---我は汝の召喚に答え汝に力を与えよう。
我は汝と共にある」
そう言った瞬間、巨大な竜は大きな光となって少女の元へゆっくりと
降ってきた。
「手を」
竜の声に少女は手を伸ばす。
「え?」
光は輝きを増し、少女の手の平で弾け飛んだ。
すると、少女の手のひらに二本の巫女さんが使っていそうな鈴が現れる。
「我は癒しの竜、万物の再生を司る者。汝の声に答え、すべてを癒やし
支えるとしよう」
「えぇぇ……竜さん鈴になっちゃったよ」
「私の妹ながらすごいのを召喚しちゃったみたいね」
「これは……驚きましたあの神獣フォールナーゼを召喚するなんて
とんでもないお方が現れましたね。我が国はこれでさらに飛躍するでしょう。
これでS級勇者は五人目となられました。これは本当に喜ばしいことです」
その言葉に信が質問する。
「S級勇者?ってなんなんですか?」
確かに気になることだ。RPGゲームには度々ランク制度が導入されている。
EからS級またはSS級なんてものもあり、Lランクっていうランクもある。
勇者にも能力値でランク付けがされているならそれはおそらく評価の対象に
なるに違いなのだ。
「もちろんございます。ランクの評価値はFランクからLランクまで存在します。
Fランクはこの国の下級魔道士以下という扱いですでに勇者ですらありません。
簡単に説明させていただくとこうなります」
Fランク :失敗勇者 下級魔道士以下で戦闘能力も乏しく使えない勇者
Eランク :駄目勇者 下級魔道士以上中級魔道士未満の少しだけ魔力がある雑兵的勇者。Dランク: なりそこない勇者 中級魔道士以上で上級魔道士以下。
Cランク:上級魔道士以上で最上級魔道士より下。
Bランク:最上級魔道士より上で聖騎士中隊長より下。
Aランク:伝説の魔道士より下で聖騎士大隊長に匹敵。
Sランク:伝説の魔道士より上で純血の魔族と等しい力を持つ。
SSランク:不明
Lランク :不明
説明を終えると疲れたと言わんばかりに王妃は息を吸い込んだ。
豊満な胸元に手のひらを乗せながら小刻みに深呼吸している。
おれもそんな彼女に質問することにした。
「僕も質問していいですか?」
どうぞっと言わんばかりに手のひらを前に差し出した。
了承したと認識して言葉を続ける。
「えっと、そのランクに関してなんですけど……やっぱランクが高いほうが
優遇されたりしますか」
おそらくランクが違うだけでこの世界で暮らしていくための難易度が変わってくる。
勝ち組か、負け組か分けられるわけだ。無論俺はS級だろうから勝ち組確定なのだが
なにせまだ俺の石は輝いていない。
「後々説明しようと思っていましたが質問されたのでここでお教えします」
彼女はそう言って後ろに控えていた女騎士風の女性に手招きをし耳打ちをする。
すると女騎士は背後に待機していた侍女たちから数枚の紙を受け取り王妃に手渡した。それはすぐに俺たちに配られる。
「そちらの文章をお読みください。召喚時に付与した言語変化魔法によって読むことが
可能になっていると思います」
「言語変換魔法?」
その言葉に姉妹が反応する。
「えぇ、私共と異世界人である勇者様が普通に会話できるのはその魔法のおかげです」
なるほど、確かに疑問には思ってたんだ。
何故日本語が通じるのか、何故言葉に不自由しないのか、これで謎が一つ溶けた。
「なるほど~これは便利ですね~」
「我が国に魔法を持たらした大魔導師エルティア様によって作られた
古代魔法の一つです。本当に素晴らしい魔法ですよね」
二人の会話をよそに俺は黙々と文章を読み進めていた。
要約するとこうだ。
Fランクの勇者には生きるために必要な金貨50枚を与え、王城から城下街に移すこととする。なお職業は自力で探す事とする。
やけにFランクには冷たいな。
Eランクの勇者には金貨100枚を与え、城下街に移すこととする。尚職業は自由に選択することができ、兵士として国に雇われる事も可能である。
Cランクの勇者には金貨150枚を与え、城下街に移すこととする。尚職業は自由に選択することができ、兵士として国に仕える場合は小隊長の位与えることとする。
Bランクの勇者には金貨200枚を与え、城下街に移すこととするなお
街に勇者専用の家を与えることとする。
家までくれるのかよ。Bランク以上ならかなりいい生活ができそうだ。
Aランクの勇者には金貨500枚を与え、貴族街の豪邸を一軒与え、
爵位を与えることとする。尚、職業は選べるが、国の呼び出しがあれば
すぐに応答し、国のためにその力を振るわなければならない。
Aランクぐらいになればすでに国の武力として数えられるわけか。
Sランクの勇者には金貨1000枚を与え、王城で暮らす権利を与えられる。
貴族街にも豪邸を三つ与え、最高位の爵位を与えることとする。
そこで内容は終わっていた。
「あのーSSランクとかの条件が書いてないんだけどこれはどういうことですか?」
「申し訳ありません---現在SSランクLランクの勇者様は聖国の歴史上一度も現れていないのです。しかしエルティア様の作られた召喚の判断基準にSSランクLランクが存在したため我々は一応それらを記しているのですよ」
「なるほど」
おれは納得するようにうなずいた。
「皆様お読みになられたでしょうか」
「「「「はい」」」」
「では続きを始めましょう」
「次は私だな」
そう言って姉の方が言葉を発した。
同時に光が石から離れ、天高く舞い上がると地面へと向かって加速し地面に
分散して消えた。砂煙が湧き上がったと思うとまるで灰が雪のよう
パラパラと空から降ってくる。そのなんとも神秘的な光景の中で鉄の擦れるような音が空間に鳴り響くと、吐息が白く変わった。
「さむ……」
信の声に、俺も。
「なんだよこれ冬みたいに寒くなったぞ」
冬用の服を着てはいるが、それでも身震いを感じてしまう。
「我は放浪騎士グラン。31層を漂いし騎士の王なり---我が名を呼びし
宿主は誰ぞ」
白い吐息混じりにショートヘアーの美人系女子が名乗りをあげる。
「私だ」
「そうか貴殿か、ならば貴殿に力を与えよう。竜の牙にも耐えうる銀竜石より作られし
我が鎧、その鎧と我が魔力を貴殿に与えよう」
そう言って妹の時と同じように光となって姉のほうに向かっていく。
瞬間、光は言葉を発した。
「わが鎧、そして我が武器を受け取るがよい」
光は彼女の体を包み込み、そして消えた。
「鎧?それにこれは槍かな?にしてもすごく軽いぞこの装備」
あんな重そうな鎧なのに軽いのか、女の子が装備できるような代物には見えないけどなぁーやっぱ召喚された特殊な装備だからか。
「放浪の騎士グラン。かつて人間の大陸から生命の大地にたどり着いたという
古来の騎士ですね。本当に実在したとは驚きです。百合子様はA級勇者として認定します」
「A級か……少し残念ではあるが仕方ない」
「我々とってB級以上の方は大歓迎です」
「そ、そうか?」
「はい、B級以上の勇者様はかなり貴重ですから」
つまりB級以下の連中は全然いらないとおっしゃってるわけだ。
これは気を引きしめてかからないと俺の人生やばいかも。
しかしまだ、石には光が宿らない。
「じゃー次は俺か」
同じように信が言葉を紬いだ。
光は天高く上り、地面に落ちる。
瞬間、空間をすさまじい重圧が襲いかかる。
「な、何だよこれ」
今まで感じた事も無いような恐ろしい気配。
霊感のある俺でも味わったことのないようなすさまじい負のオーラだ。
気配は庭園のすぐ中央にその存在間を漂わせ放たれている。
同時に、空間を先ほどとは比べ物にならないほどの冷気が襲った。
まるで真冬の大地に全裸で立たされているような絶対的な冷気。
本物の雪が空からパラパラと吹き荒れ、吹雪のように荒々しく
暴れ回り始めた。そんな中、声が響く。
「ほぉーこれは久しいのぉー人の子の匂いがする。もしやこれは古の盟約により
召喚されたということかのぉー」
吹雪の中でギラリと光る白銀の瞳。それは巨大で、何者も寄せ付けないような
存在感を放っている。
「呼び出したのは……そうかお前か」
巨大な目が吹雪の中信を覗き込んだ。
俺はその光景に息を飲む。
しかし当の本人は顔色一つ変えずに笑みを浮かべていた。
あのやろー楽しんでやがる。アニメオタクが異世界に召喚されたらまぁーそうなるよな。
「俺だ! で、お前は俺に何をくれる?」
少し上から目線で信がそう言うと召喚された獣は一歩足を進めた。
巨大な白い足。それによって獣の全身が顕になる。
「そうかお前か---そうかそうかこれは面白いぞなかなかの素質だ。
ふむ……しかし我が力に耐えうることができるかのぉー」
それは巨大な白狼。白銀の瞳と口元からは白色の炎が吐き出され呼吸と共に
周囲の雪を溶かしていた。
「問題ないからその力俺にくれよ」
「フッフッフフ---生意気な人の子よ---良いだろう我が力を与えよう。
我は狼炎王ウルグ・ヘルム第45層を束ねし四狼王の一角。我が力、
生意気な人の子のために与えよう」
瞬間冷気が空間から消え去り、光が空中に浮き上がる。
それは信の手めがけて落下した。
「ほほぉー貴様は弓が使えるのか……ならば我は弓となろう」
光は言葉通り弓となった。狼の文様が描かれたカッコイイ弓だ。
「へぇーこれは好都合だ。弓なら扱い慣れてる。
で、俺の召喚した奴はランクどのくらい何だ?A?S」
AとSだと……それ以下だとは考えないのかお前は。
だが、実際のところさっきの感じたままをいえばそのくらいあってもおかしくないだろう。くそ……なんか先を越された感じがする。おれは敗北感味わいながら手に握る
石を見た。
「あ、光ってる」
ついにキター、俺の石に光が、光様が点ってるぅーー
嬉しさのあまり片腕でガッツポーズを決めてしまう。
すぐに正気に戻ったが、幸い誰も俺なんかを見ていなかった。
何故か周囲の人間が唖然としていたからだ。
一体どうしたんだ。
「ねぇー俺のランクはどのくらいなのさ?」
改めて信の声が聞こえた。
どうやら王妃様も同じように言葉を失っていたようだ。
信の二度目の声にようやく我に返る王妃さま。
王妃の額には僅かに冷や汗のようなものが見えた。
「え、えと……信様のランクは……」
「ランクは?」
「S……」
「お、Sかぁーやっぱおれの召喚した奴はすごかったんだな~」
信が嬉しそうに手に入れた弓を眺めニヤニヤとにやついている。
見てろー俺もすぐにS級の魔力を証明して同列になってやるからなー。
そんな風に心で思いながら王妃様に視線を戻すと、王妃様震える声で続けた。
「Sランクではありません。信様はSSランク私達の魔法の真理を超えた
とてつもない魔力をお持ちです。この国始めてのSSランク保持者となられたのです
信様は……」
「へ……」
なんですかSSランクって、俺の友達はそんな超がつくほどの化物なんですか?
って、まってくれよ……顔もよし頭もいいそれに異世界に来たら最強でスタートとか
なんなの君は……どこの世界でも勝ち組じゃねぇーか! だ、だがしかしまだ俺も
残っている。俺はまだ召喚すらしていなんだ。そうだ。もしかしたら
Lランクとかいう化け物が出てくるかもしれない。あれだけ時間がかかったんだ。
多分、いや全体出るわ~この感じ、俺絶対に神になれるわ。
「すごいじゃない貴方、この国でたった一人のSS級勇者なのよ?
本当にすごいことじゃない~多分金貨だって2000枚くらいもらえるわよ~
王族とも結婚できるかも。とにかくすごいことよ」
姉のほうがトントンと信の肩を叩き馴れ馴れしく擦り寄っていく。
しかし信は冷めた表情でそれを払う。
「幼女以外が俺に触れるな」
「え……」
一瞬その場が凍りつく、しかしすぐに貴族や魔術師たちから声が上がった。
「この先この国はすごいことになるぞ~あの憎き帝国にも早期勝利もあり得るな」
「あの者、婚約者はおるのだろうか……是非我が娘を紹介したい」
「何を申されます我が娘こそがふさわしい」
何やら信目的で貴族たちが盛り上がっているようだ。
あのうちどれほどの貴族が信に踏みつけにされるのだろうか。
まぁーそんなことはどうでもいい。次は俺の番だ。
「みんさん静粛に、次は春文様の番です」
その声に会場が静まり返る。
その中で声が聞こえてきた。
「今回の召喚された勇者様は皆優秀ですなぁーあのハルフミでしたっけ?
彼もかなりの魔力を持っていそうだ」
期待されてる。
俺はゴクリと息を飲んだ。
これほど緊張するのは大学生の入試以来だ。
俺は例の言葉を発した。
すると石から黒色の光が溢れ出る。
光は俺のすぐ前で止まり、ポンっと小さく弾けた。
「あれ……」
三人の勇者たちと比べると明らかに演出も光の量も少ない。
小さな砂煙が上がると、声が響き渡る。
「我は死と生を司る深遠の王。我を呼び出す不届きな者は何者か?」
死と生を司る深遠の王……かなり強そうな設定じゃん。
これあたりかもしれない。
「俺だ、俺が召喚した」
即答すると、声の主は突然声を荒げた。
「我は偉大なる深遠の王ぞ? なにゆえ貴様のようなゴミ虫に力を与えねば
ならんのだ」
「え……これは古の成約で……決まり事で……設定なんですが」
「黙れ糞虫が、このような軟弱な体で我を召喚しやがって……
潰すぞゴラァ-」
なんて口の悪い王だ。もっと王様なら高貴な振る舞いをしろよなぁー。
「口の悪い王だと-? ふざけおって貴様のような軟弱な毛虫ごときに
高貴なる我が言葉を与えるはずが無いだろう。この草履虫が」
顕微鏡で見ないと判断出来ないくらい小さな虫呼ばわりされた。
なんて野郎だ。でも、こんなに偉そうなんだから多分最高にランクは
高いはずだよな。うんそうに違いない。
「えっと……口の悪い王なんて俺は一言も言ってませんよ?」
「人の心など簡単に読みむことができるのだ。特に我への悪口は
決して聞き漏らさないようにしている」
「そ、そうなんですか……あの質問なんですが俺の力にはなってくれないんですか?」
「誰が貴様なんぞに」
「いいじゃないですか~俺に力を貸してくださいよ~ところでどこにいるんですか?
見る限り全然見えないんですが~」
「下だ、下。砂煙の下をよ~く見てみるがよい」
俺は目を細めながら足元を見据えた。
するとそこには小さな小動物が可愛らしい顔つきこちらを見ていた。
それはまるでイタチのような生き物で、白く可愛らしい毛並みをしている。
まさか……な
「流石にこれじゃないでしょう……」
「これとはなんだ! 貴様が未熟ゆえにこんな姿になったのだぞ!」
「え……マジで貴方が深遠の王?」
「いかにも本来もっと高貴な姿をしているが、もっと魔力ある者が
我を召喚していれば……いや、そもそもお前が何故我を召喚できたのか
それが謎だ。お前どうやった?」
「いや……普通に魔力こめて召喚しただけなんですが……」
「まったくわけがわからんな」
「こっちもわけわかんねぇーよ。つうかお前、他の勇者連中の召喚獣みたく
どこかのなんちゃら層から来てるんだろう? 第何層から来たんだよ」
「ん? 我か? 我は……アレ……我はどこの階層からやってきたのだ……
我はそもそもどこを守って……ぬぅー思い出せぬ」
「何だよそれ……」
アレ待てよ……なんか俺だけやけに印象が薄くないか。
他の三人はでかい竜だの古の騎士だの、でっかい狼だのといった
実に派手な召喚獣ばかりだった。それに比べ俺のはなんだ。
白イタチ一匹で何層から来たのかもわからない。
これってつまり……失敗
「あはは---そんな馬鹿な~俺は大丈夫だって、きっと武器にすれば
深遠の王力が開放されてすごい魔力があふれるんだよきっと……
なぁーイタチ君俺に武器を……」
「無理だな。今のお前では魔力が極限に足りん。せめて人並みに魔力がなければ
召喚武器の具現化は厳しいだろう」
「え……それって……」
周囲を見渡すと冷めた視線が一斉に送られはじめたのがわかった。
「そんな目で見るなよ……これはアレだって……調子が、調子が悪いんだ。
きっとそうだ。一日寝たら魔力だって湯水のようにあふれるに違いないんだ」
その声に王妃が左右に首を降った。
「この世界で魔力の無いお方は何千何万人もいます。貴方はその一人だっただけ。
残念ですが……貴方はFランク失敗勇者です」
そんな……そんなはず……異世界に召喚されたのに
魔力ゼロでポイ捨てとか……ひどすぎる。
なんで俺が、なんで---
両膝を地面につけながら両拳を握りしめた。
「春文様これを……50枚金貨です。街は城を織りてすぐのところにありますので
そこで服を買うなり宿を探すなり自由にしてください」
王妃はそう言って俺の前に50枚の金貨が入った布袋を頬降り投げた。
「春文~泊まるところ決まったら連絡しろよな~時々遊びにいくからさぁ~」
なんて冷たいやつなんだ。
そこは俺も一緒に城下で暮らすよ~みたいな友情の言葉をだな……
くそ……あいつにそんなことを言っても無駄か、そいう感情はあいつには無い。
俺は50枚金貨だけを渡されて兵士たちに連行される形で城下街に捨て犬のように
捨てられた。
「くそぉーこれからどうすんだ俺……」