第9話、手の温度
それから夕方になった頃に、僕は目を覚ました。
「ふあ〜っ」
目を覚ました所で体を起したら、自然にアクビが出てしまう。
「雅人くん、ご飯が出来たけん、来んね〜[来なさい〜]」
「は〜い〜、分かりました〜」
アクビをしたら。
ちょうど、伯母さんが僕を呼ぶ声が聞こえたので、返事をする。
そして、その場で大きく伸びをすると。
僕は、そのまま立ち上がり、食堂の方へ向かった。
・・・
みんなが集まった所で、夕食が始まる。
食卓でみんなが箸を進めていた。
そんな中、僕は、みんなが箸を進めるオカズの中に。
車輪型の、中と外が黄色い物体があるのに気付いた。
「ああ、辛子蓮根か。
ウチん手作りやけん、食べてみんね」
僕が、その物体を見ているのに気付いた伯父さんが。
そう言って、勧めてきた。
「(辛子蓮根か。
昔、来たときは、食べさせて貰えなかったな。)」
昔は、”子供だから、食べたらダメ”って。
母さんから言われて、食べさせて貰えなかった。
辛いからダメなのかとは思ったけど。
どの位、辛いのか分からない。
ちょうど良い機会だから、食べてみるかと考え。
箸で取ってみた。
「あ……、 ま〜くん、止めとった方が良かよ?」
姉さんが言った時には既に、口の中に入れていた。
口の中に入った、辛子蓮根を咀嚼すると。
「!#”#$%’’)==%=〜)(」
余りの辛さに、悶絶してしまった。
「(な、何なんだ、この辛さは!)」
僕は、そう思いながら、伯母さんから差し出された麦茶を奪って。
口に残る辛子蓮根を、慌てて流し込んだ。
「ははは、我が家特製の辛子蓮根たい。
粉末の和カラシば、お茶の出がらしで溶くと、鼻が曲がるくらい辛くなるとたい」
「あ〜あ、ま〜くん、ほんなこつ大丈夫ね?」
鼻を摘んで悶絶している僕に、伯父さんと姉さんがそう言った。
「(なるほど、だから母さんが僕の食べさせなかったのか……)」
昔、母さんが僕に、食べさせなかった理由を、身を持って体験する事となった。
(※粉末の和カラシをお茶の出がらしで溶いて、物凄く辛くする方法は本当です。
バツゲームに使える位、ホントに辛いですから(笑))
*********
食事が済すませた後、姉さんと居間でTVを見ていた。
伯父さんは、まだ食堂で一杯やっていて。
伯母さんは、後片付けをしている所だ。
「"いつまでも、いつまで〜も、セ○タープラーザ〜♪"」
TVからは、ローカルCMが流れている。
そうやって、二人きりでソファーに座り、TVを見ていると。
僕の隣に、座っていた姉さんが。
「ねえ、ま〜くん……」
「なに〜?」
「また、手え握っても良か……?」
そう言って、横を向き。
僕の顔を、甘える様な瞳で見ていた。
「う、うん、良いよ……」
僕は、その姉さんの瞳に負けて。
握っても良いと言ったのである。
(ぎゅっ)
僕がそう言ったと、姉さんがおずおずと手を伸ばし。
そして僕の手を握る。
「ねえ、ま〜くん」
「うん?」
「昼、握った時もそぎゃんやったけど。
ま〜くんの手って、ほんなこて大きいかね……。
それん、暖かかし[暖かいし]」
姉さんは、僕の手を握りながら、そう言う。
「違うよ、姉さん。
姉さんの手の方が小さいんだよ」
僕は、そう言いつつ、姉さんの手を握り返しながら。
チョットだけ力を入れた。
「……あっ」
そうすると、姉さんが小さく声を上げる。
「姉さんの手って、本当に、ヒンヤリしているね」
「うん、冷え性やけんね……」
「でも、ヒンヤリしていて気持ちが良いよ」
「ま〜くん……」
僕は、もう片方の手も出し、更に姉さんの手を包み込む。
姉さんの手を包み込むと。
姉さんが、僕を穴が開くほど、ジッと見詰めてきた。
「ねえ、ま〜くん、暖こうて気持ち良かけん。
こんまま、手ば握っとって……」
姉さんも、僕の手の上に、もう一方の手を重ねる。
僕は、姉さんのご要望の通りに。
姉さんの、体温の低い手を握り続けた。
こうして僕は。
しばらくの間、居間で、姉さんの手を握っていたのであった。
他の都道府県の方へ。
たまたま、ウチ(作者の家)が辛子蓮根を自作する家であり。
熊本だからと言って、必ずしも、辛子蓮根を自家製で作るとは限りませんので。
誤解が無いよう、お願いします。
しかし、センタープ○ザのCMとか。
歳が分かりますね(笑)