第5話、一緒に入ってみん?
「はははっ、もう高校生になるとか。
道理で、こぎゃん大きか訳たい」
伯父さんが、ビールのジョッキを片手に。
ジョッキにビールを注ぎながら、そう言って笑っていた。
・・・
夕方も過ぎ、伯父さんも急な仕事から帰ると。
すぐに、夕食になった。
僕も、伯父さん家族と共に食卓の付く。
伯父さんは、食卓の上座に座り。
伯母さんは、まだオカズを食卓に運んでいて。
姉さんは僕の正面、伯父さんの左手に座っていた。
そして伯父さんは、食卓に付くと、早々にビールをジョッキに注いだ。
伯父さんが、自分のジョッキにビールを注いで一口飲んだ後。
「ほら、男やろ、飲まんね」
僕にコップとビールを突き出し、飲むように言うが。
「「未成年に何ば言いよるとね!」」
そう言うと同時に、頭上から伯母さんのお盆。
頬に、姉さんのパンチが、伯父さんに突き刺ささっていた。
*********
「ふう〜、美味しかったな〜」
客間に戻った僕は。
満腹になったお腹を擦りながら、独り言を言う。
伯母さん達の制裁?により。
それから後、伯父さんが僕にビールを勧めることは無かった。
そして、食事をしながら色々な話をした。
・・・
伯父さんの仕事は、大津の方で。
精密機械の工場の課長をしているそうだ。
(※大津:大津町、阿蘇山の外輪山の麓にある町で。
熊本市から大津町付近に掛けて、半導体や精密機械の工場が集中している)
今、工場の方は盆休みを利用して、設備を新しくする工事をしていたけど。
思い掛けないトラブルが起こって、急遽、出なければならなくなったそうだ。
だから、本来なら伯父さんが車で迎えに来る所を。
朝、突然、連絡があり、姉さんが市電で迎えに来たのである。
姉さんの方は、市内でも有名な女子校の生徒で。
本来なら受験生で、受験勉強で必死になっている時期であるが。
学校では成績優秀で、常に学年ベスト5に入る程の才女であり。
既に、推薦入学の見込みが立っているそうなので。
この時期でも、こんなにのんびりしているのだとか。
伯母さんはと言うと、相変わらず主婦業をしているが。
時々、知り合いの店を手伝って、小金を稼いでいるらしい。
・・・
そうやって、夕食時の会話を思い出していると。
「ま〜くん、良かね?」
障子の向こうから姉さんの気配と、声が聞こえた。
「ま〜くん、お風呂が沸いたけん、入るとよかよ」
「分かったよ」
僕が許可すると、姉さんが入るなり、そう言う。
僕が、それに返事をしていると。
「雅人くん、もう、お風呂が沸いたけん、先に入らんね」
「あれ、伯母さん?」
「もお〜、お母さん、私が言いに来たとん」
「ごめん、ごめん」
急に、その横から伯母さんが現れ、同じような事を言ったので。
姉さんが文句を言う。
「でも、雅人くんが居る[居る]と、思い出すとたいね〜」
「うん?」
「何ね、お母さん?」
「二人が、一緒に、お風呂さん入っとった時の事ば」
「ぶっ!」
「お母さん!」
突然、伯母さんがトンデモナイ事を言い出したので。
僕は噴き、姉さんは声を上げた。
「お、伯母さん・・・」
「お母さん! それは、私が小学校の高学年になるまでん話やろ!」
「そぎゃんやったっけ?」
姉さんが、声を荒げて抗議するが。
伯母さんは、シレッとした顔で受け流す。
「何なら、一緒に入ってみん?
こん娘、昔より成長しとるけんね、特に胸が」
「伯母さん!」
「お母さん!」
更にもっとトンデモナイ事を言い出したので。
僕と姉さんが同時に、声を上げた。
「もお〜、お母さん好かん!」
(ドタドタドタ……)
「あ〜あ、ちょっと、からかい過ぎたかね?」
とうとう怒った姉さんが。
そう言い残して、廊下を走り去って行った。
それを見ていた伯母さんが、バツが悪そうな顔をする。
「雅人くん、何ば黙っとっとね?
あ〜、さては、あん娘の胸ば想像しとったとやろ〜」
「ちちち、違いますよ!」
呆気に取られていた僕に。
伯母さんが、ニヤニヤしながら、そう言ったので。
僕は、全力で否定した。
参考までに上げておきます。
Wikipedia大津町の項
https://ja.wikipedia.org/wiki/大津町