第3話、電車の中で
「(コトン……、コトン……)」
荷物を持った僕は、姉さんと共に市電に乗った。
僕達が乗り込んだ車両は、古めかしい風情のある車両だが。
窓を見ると対向側から、真新しい白い車両が2両で通過するのが見える。
車内は、冷房がそれなりに効いていて。
暑い外気に晒されていた肌には、とても気持ち良い。
「えっと、確か、四泊五日って言〜た[言った]よね」
「うん、五日目で帰るんだよ」
電車に乗ると、二人でそんな事を話した。
「別に、僕のの分まで良いのに」
「良かよ、それに150円位やけん、そんくらい大丈夫たい」
市電は後払いなので、降りる時の為に準備をしていたら。
姉さんは、僕の分まで電車賃を出してくれた。
ちなみに、市電は料金一律、大人150円である。
(※その当時であり、まだNimocoは導入される前である)
・・・
車内は駅から続く、帰省客で一杯だった。
なので今、僕達は二人とも電車の中で立っていた。
荷物は網棚の上に乗せてる。
結構混んでいるのに加え。
乗り込むの時間が掛かり、良い場所を取れなかったので。
僕と姉さんは、接近している状態である。
僕はつり革に、何とか捕まる事が出来たが。
姉さんの方は、何も捕まる事が出来なかった上。
ただでさえ、踵が高い靴である。
そうなると当然。
(キーッ)
「きゃっ」
(ぽすん)
ブレーキ音と共に、姉さんが僕に倒れ込む。
ブレーキやカーブに差し掛かる度に。
小さな悲鳴と共に、僕に倒れ込でいた。
「(これで、三回めか……)」
他の方向に、倒れる訳にはいかないので。
僕の方に倒れ込むのだ。
また接近している為。
姉さんから甘くて良い匂いが漂っていた。
ここに来るまで、車内に居たのを考えたとしても。
姉さんからは、予想以上に汗の匂いがしなかった。
それに倒れこむ度。
胸に、姉さんの柔らかさと、予想以上に軽い衝撃を感じるのだ。
学校でクラスメートとジャレるとき、体当たりなどされるが。
やはり男同士とは違う、軽く柔らかい女の子の体に驚いたしまう。
そして、それらを感じている内に。
僕の鼓動は、次第に落ち着きを失くしていた。
「ごめんね、履き慣れんのば履いとるけん、すぐ倒おるると」
僕に寄り掛かりながら、姉さんが、そう言った。
「ねえ、ま〜くん。 私、汗臭そうなか[汗臭くない]?」
「ううん、全然。 僕の方こそ臭くない?」
「ううん、ま〜くんは男の子やけど、意外と臭そうなかね」
「まあ〜、いつも清潔にしてるからね」
姉さんが、ナカナカ体勢を戻せないらしく。
僕に寄り掛かったまま、そんな事を言ってきた。
ちなみに僕は、余り汗を掻かない体質で。
僕同様、父親も余り汗を掻かない。
それは、父方もそうらしく、姉さんも多分そうだろうと思う。
だから、姉さんは汗臭くなかったのかもしれない。
しかし小さな頃は、結構外で遊んでたし、新陳代謝も盛んだったから。
二人とも汗を掻きまくっていたんだけどなあ。
・・・
「えっ!」
僕に寄り掛かった状態で、上手く立ち直れない姉さんを、見かねた僕が。
姉さんの肩に腕を廻し、姉さんを支えた。
姉さんの細い肩が、僕の腕の中に収まる。
「……ま〜くん」
「姉さん、このままだと、また立ってもドコに倒れるか分からないから。
僕が支えてあげるよ」
「……ありがとう」
姉さんは、お礼を言うが。
その顔は頬が、ホンノリと赤くなっていた。
どうやら姉さんは、恥ずかしそうであるが。
やっている僕も恥ずかしい。
しかし、姉さんを放っておく事が出来ないので、しているのだ。
・・・
「きゃっ」
(ぽすん)
カーブになり、また姉さんが倒れ込む。
肩を支えていたから、大した事は無いが。
それでも、姉さんの当たる度に、柔らかい体の感触を感じてしまう。
「ご、ごめんね……」
「姉さん、どうせ倒れるのなら、このままでも良いよ」
「えっ!」
「その方が、危なくないからね」
「……うん」
頻繁に、倒れる姉さんが危ないので。
僕は、自分に寄り掛かったままで良いと、言った。
最初は、照れくさそうにしていた姉さんも、ナカナカ立ち直れない為。
仕方なく、僕の言う通りにした。
結局、僕が姉さんの肩に腕を廻した状態で。
姉さんが、僕に寄り掛かっている図が、出来たのである。
姉さんも恥ずかしいが、僕もこんな恥ずかしい事はしたくない。
姉さんが、こんな状況だからしているのだ。
・・・
「……」
僕に寄り掛かっていた姉さんも、最初緊張していたようだが。
次第に、力が抜け、僕に安心して身を任せている。
(ドク、ドク、ドク)
しかし、僕の方は、心臓が高鳴って落ち着かない。
鼓動を、姉さんに聞かれていないだろうか・・・?
だが、姉さんの方は、目を閉じながら。
僕の胸に、手と頬を当てていて、感触を確かめているようだった。
「(さわっ……)」
そして時々、手で僕の胸を撫でる。
その行為も恥ずかしいが。
その手の感触も、くすぐったくて堪らなかった。
・・・
僕の腕の中には、細い姉さんの体があった。
その姉さんは、僕の胸に頬を寄せ、身を任せている。
だが、僕は、恥ずかしさとくすぐったさに耐えていた。
僕と姉さんは、そんなの状態ままで、電車に揺られていたのであった。
市電について、馴染みの無い方の為に。
Wikipediaの、市電の項を上げておきます。
https://ja.wikipedia.org/wiki/熊本市交通局