第2話、ひさしぶりだね
(カタン……、カタン……)
微風だが、まるでドライヤーの様な熱風が吹く中で。
ここでの色々な思い出を思い出している内に。
むこうから、電車がやって来るのが見えた。
そして電車が着き。
中から乗車していた人間が、反対側のホームに出てくる。
「(ん?)」
電車が去った人混みの中に、一際目立つ人の影を見つけた。
それは、高校生くらいの女の子である。
背中までの黒髪を、前髪で切り揃た髪型で。
白地に花柄の上品で涼しげなワンピースを着ていて。
それが、全体にスラリとした体型に良く似合っていた。
足元は、素足にグレイの色をした、踵が有るサンダルを履いていて。
太くなく、かと言って細過ぎない足にフィットしている。
顔は垂れた目元が特徴的な、整った顔の清楚な美人である。
そんな娘がワンピースをヒラヒラさせながら、こちらのホームに来たのだ。
そうなると当然、周囲の男達の目が、その娘に集まる。
「(あれ?)」
僕も、その娘に目が向くが。
“しかし、どこかで見た様な顔だな……”と思っていた。
その娘は、こちらのホームに来ると、キョロキョロと周囲を確認し出す。
その娘が電車待ちの人の中を探している内に、自然と僕と目が合った。
僕を見た、その娘が一瞬、嬉しそうな顔になるが。
次の瞬間、自信なさげ顔に変わった。
しかしそれでも、その娘は僕の方に近付いて来る。
そして僕の前に立ち止まると。
「あの……、ひょっとして、古閑 雅人さんですか……」
遠慮がちに尋ねてきた。
「はい、そうですが?」
僕がそう答えると。
「やっぱり、ま〜くんやったんやね。ひさしぶり」
姉さんが、満面の笑みを見せるながら、そう言った。
「やっぱり、姉さんだったの?」
「何ね[何よ]〜、私の事ば忘れたとね〜」
「ち、違うよ、姉さんが、とても綺麗になってたから……」
「そ、そぎゃんか事なかと……」
最初、僕が姉さんを、分からなかった事を責め出したので。
僕が弁解すると。
その言葉を聞いて、姉さんが顔を俯かせた。
「そぎゃんかこと言う、ま〜くんこそ。
しばらく見ん[見ない]内に、良か[良い]男になったけん。
最初、分からんかったとよ……」
俯かせた顔を覗き込むように上げて、姉さんがそう言った。
「しかも、こぎゃん、大きゅう[大きく]なってしもうて……」
次に、少しでも僕の目線に合わせようと、背伸びをしてきた。
そして、僅かに近づいた、姉さんの顔を見る。
目の前に、性格を表すかのように少し目尻が垂れている。
綺麗で整った顔が、接近しようとしていたのである。
「姉さん、近いよ、近い」
「あっ!」
僕は、綺麗な姉さんの顔が接近したので、姉さんにそう言うと。
姉さんがそれに気付き、慌てて一歩下がる。
「どうしたの姉さん?」
「ま〜くんが、良か男になったけん……」
僕以上に、過剰反応している姉さんに尋ねても。
先ほどと、似た答えが返ってきた。
そして、一歩下がったその場所で、姉さんは再び俯いてしまった。
・・・
しばらくの間。
お互い、無言で向かい合っていたら。
(……カタン、カタン)
向こうの方から、電車が来る音が聞こえる。
姉さんが来た、反対側の方から電車が。
丁度、電停に到着しようとした所であった。
周囲で、少しバラけていた乗客達が。
一ヶ所に集まり出していた。
「あっ! 電車が来たごたる。
ま〜くん、早う[早く]、行かんと」
それまで俯き加減だった、姉さんが。
電車が来たのに気付き、顔を上げる。
それと同時に、早く行かないと、余裕のある場所を取れないので。
姉さんが、急ぐように急かし出す。
僕も、荷物を持つと、姉さんと共に列に並ぶ。
電車が到着し、ドアが開くと同時に。
並んだ人の列が、次々と、電車に流れ込んで行く。
僕達も、その列の流れに乗って、電車に乗り込んだのであった。
熊本弁に関しては、参考のため。
Wikipediaの熊本弁の項を上げておきます。
https://ja.wikipedia.org/wiki/熊本弁