表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/24

第15話、繁華街に行く

 翌日の朝。

目が覚めると、姉さんの姿が無かった。


 最初、夢でも見ていたのかと思ったが。

しかし、僕の横に人一人のスペースが開いていたので。

昨夜の事が、夢では無かったのは間違いない。


 そんな事を考えつつ、布団から起き。

それから顔を洗い、食堂の方に向かう。


 食堂に行くと、姉さんが既に、食卓に着いていた。


 台所の方では、伯母さんが、ちょうど何かを作っていた所だ。




「ま〜くん、今日はパンやけん(だから)食べんね(よう)




 姉さんが手招きしながら、ウインクして合図する。


 どうやら、納豆が苦手な僕の事を気遣(きづか)ってくれたみたいだ。




「母さんには、私が食べたかって(食べたいって)言うたけん(言ったから)

あの事は、何も言っとらんよ(言ってないよ)




 席に着くと、小声で僕にそう言った。

 納豆の事は、伯母さんには黙っているみたいだ。




「ほら、出来たけん(から)食べんね(なさい)〜」




 その直後、伯母さんが、目玉焼きにサラダを持ってきた。


 伯母さんも席に着くと、僕達は朝食を食べ始めた。


 ちなみに、伯父さんの姿が見えないのは。

工場のトラブルがまだ続いていたので、朝早くから休日出勤しているからである。





 「何で、休みやとん(なのに)朝早(あさは)よ〜[朝早く]出らん(出ない)いかんとかね(いけないんだよ)




 伯父さんは昨日、居間で、その事で愚痴っていたのだった。




 *********




「ねえ、ま〜くん。

今日は、市内の方さん()行こうか」


「市内?」


「うん、下通(しもとおり)上通(かみとおり)とか、新市街(しんしがい)の方にね」


「要するに、繁華街に行くんだね」




 朝食を終えた所で、姉さんが急に言った。




「うん、今日も父さんが仕事があるけん(から)

ま〜くん|ば、どこさんでん(どこにも)連れて行かれんけん(行かれないから)

また私と、外さん行かん(外へ行かない)?」



「姉さん、良いの?

どこかに遊びに行く予定とか無いの?」



「別に良か(良い)よ。

盆の間は、ま〜くんと一緒に()る予定やから(だから)




 と、姉さんが、にこやかに言う。


 それで、今日も二人で外に行く事になった。


 その間じゅう、近くで伯母さんが。

妙にニコニコしながら、僕たちを見ていたのだった。




 *********




(カタンカタン)


「もう着くけん(から)、降りよう()


「うん」




 二人で、市電に乗り移動していた。


 あれから準備をして、伯父さん家を出たのだが。

姉さんが準備に手間取り、大分(だいぶん)遅くなったのである。


 今日の姉さんの姿は、ゆったりとした、大きめの白いプリントTシャツに。

白地に細く黒い線だけど、目が細かいので黒っぽく見える。

チェック柄キュロットと。

足元は、素足にグレーぽいベルトで、底が高めのサンダルだった。


 目的の、通町筋の電停に着き、まず僕が先の降りた。


 先に降りて、一応、姉さんをエスコートしないと。

乗ってきたのが古い型の電車なので、車両の床が高く。

降りるとき、車両のステップを踏み外さない様にである。




「きゃっ!」


「危ない!」




 そう思った途端、姉さんがステップを踏み外した。


 僕は咄嗟(とっさ)に姉さんを受け止める。




(とん!)


「(か、軽い……)」




 姉さんを胸に受け止めたが、その予想以上の軽さに、少しだけ驚く。


 姉さんの軽さは、もう分かっているつもりだったが。

それでも、改めて認識してしまう。




「ねえ、ま〜くん……、(はよ)う[早く]降ろして欲しか(欲しいな)……」


「あっ、ごめん、ごめん」




 僕が、姉さんの軽さを、噛み締めていたら。

気付かないまま、姉さんを持ち上げて、抱えた状態になっていた。


 それに対し、姉さんが頬を赤くさせながら。

恥ずかしそうに、降ろしてと言ってきたのである。


 僕は姉さんの声に気付き、慌てて姉さんを降ろした。




 *********




挿絵(By みてみん)


 道の真ん中にある電停なので、電停の左右に横断歩道があり

まだ信号が赤なので、横断歩道の前で立ち止まっていた。


 道に沿った向う側には、熊本城が綺麗に見えていた。


 ここは、熊本城の近くにあるだけで無く。

道が、熊本城に向かって伸びているため、城が綺麗に見えるのである。


 僕は、向こうに見える城を見ながら。

少しでも、心を落ち着かせていた。


 姉さんも、先ほどの事があるのか。

頬を赤らめた状態で俯いて、立ち止まっていたのである。



 ・・・



 そして、”とおりやんせ”の音楽に合わせ信号が青になる。




「……ゆ〜くん、手()繋ごう……」


「えっ?」




 姉さんが、青になったのと同時に。

手をおずおずとしながらも、差し出してきた。


 姉さんが遠慮がちにこちらを向きながら、誘ってきたので。

僕は最初、理解出来なかったが。

すぐに、姉さんのご要望が分かったので、その手を握る。


 姉さんの手は、何回か握っているが。

柔らかく感触の良い手は、いくら握ってもまるで飽きない。


 僕が手を握ったら、姉さんが俯いていた顔を上げ。

安心したように、微笑んだ。


 こうして僕達は、手を繋ぎながら。

横断歩道を、渡って行ったのである。



(※通町の写真は、Wikipediaからの転載です)


Wikipedia通町筋の項。

https://ja.wikipedia.org/wiki/通町筋


Wikipedia通町筋停留所の項

https://ja.wikipedia.org/wiki/通町筋停留場


通町筋電停からの熊本城の風景は。

TVとかのカットで、熊本の代表みたいに出るので。

写真を見たら、”ああ!”と思うかもしれませんね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これらの作品も、熊本を舞台にした作品です。
・思い出の海と山と彼女
・変わらない仲と変わった思い

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ