第14話、……ねえ、良かね
それから僕は、姉さんに膝枕をして貰っていた。
その間じゅう姉さんが、寝ている僕の頭を撫でていたのである。
姉さんは、ただ撫でるだけで無く。
僕の髪を、梳るようにして撫でたり。
頬に手を当て、輪郭を確かめるかの様にしていた。
僕はその間、姉さんの手の感触を感じながら、眠っていたのである。
・・・
「ん、んんん〜」
そうして、暑い時間帯を過ぎた頃に、僕は目覚めた。
そして、寝ぼけ眼で。
「姉さん、僕が寝ている間退屈じゃなかった?」
「全然、寝ているま〜くんの顔ば、見とると退屈じゃなかけん。
それに、ま〜くんの髪とか、肌が気持ち良かけん。
いつまででん、撫でときたかったとたい」
そう言いながら姉さんが。
何だか、とても満足そうな笑顔を見せていた。
*********
もう時間が夕刻を指す時間になったので。
僕達は、伯父さんの家に帰った。
だが、空は明るい所か、まだ青みが残っている。
どうも体感的に、九州の方は関東に比べ。
少なくとも、30分以上の時差が確実にあるようだ。
「どぎゃんやった、楽しかったね?」
そう言って伯母さんが、帰ってきた僕たちを出迎えた。
しかし、その表情は。
何か、変な想像をしているかの様な笑顔である。
「うん、楽しかったよ」
だが姉さんの方も、意味深な笑顔でそれに返したのであった。
・・・
しばらく経ち、夕食の頃、ようやく伯父さんも帰ってきた。
伯父さんが帰るの見計らい、みんなで夕食を取る。
ちなみに今日の食卓には。
最近、全国的に有名になった、ちくわポテトがあった。
それから夕食を食べると、みんなで居間でくつろぐ。
「(ぎゃん行って、ぎゃん行って、ぎゃん行く!)」
丁度その時TVから、ローカルCMが流れた。
「姉さん、あれ何を言っているの?」
僕は、TVを指差して姉さんに尋ねてみる。
「ああ、あれはね、"あぎゃん行って、こぎゃん行って、そぎゃん行く!"て言うとば、短縮して言いよるとたい」
「へえ〜」
姉さんが、僕にそう答えてくれた。
その後は伯父さんが、突然の起きた仕事の愚痴をこぼしたり。
伯母さんと姉さんが、向こうの様子を聞いていたりして過ごした。
*********
「あれ? 姉さんどうしたの?」
居間でくつろいだ後、風呂に上がったら。
既に、姉さんが客間で座っていた。
姉さんは髪をアップでまとめ、パジャマ姿のまま、ペッタンコ座りで座っている。
「……うん、……ねえ、ま〜くん、お願いがあるとやけど」
「……何?」
「……今日、……一緒に寝て良かね……」
「えっ!」
姉さんの言葉に、僕は驚いた。
・・・
と言う訳で、僕と姉さんは一緒の布団で寝ることになった。
「今日、ま〜くんと一緒ん遊んどったら。
昔の事ば思い出したけん、何だか急に一緒ん寝とうなったとたい」
と言う理由で、一緒に寝ることになってしまったのである。
つまりは、小さい頃、一緒に寝ていた時を思い出したとか。
しかし、高校生男女が、一緒の布団に寝て良いのだろうか?
そんな事を思っていたら。
「うん、夜明け前に一回起きるけん。
そん時に、自分の部屋に戻るけんがら、大丈夫たい」
姉さんは冷え性のせいか。
必ず夜明け前に、体は冷えて一度目が覚めるそうだ。
その時に、自分の部屋に戻るらしい。
だから、伯父さん達にバレないと言うのである。
「(大丈夫かな?)」
僕は内心、心配でならなかった。
「ま〜くん、何ば考えよっとね……」
「あ、うん、大丈夫かなって」
「何も心配せんで良かよ。
お父さんは、結構鈍かし、お母さんは、別の心配ばせんといかんけど」
「何なの?」
「”どこまでいったとね〜♪”とか、聞かれるかもしれんけど……」
「あははは……」
僕は、乾いた笑いが出てきたのであった。
*********
僕と姉さんと向かい合わせに寝ていた。
そして、右手同士を出して、手を握っていた。
僕は、小さくて、体温が低い、姉さんの手を握っている。
「ねえ、姉さん」
「うん?」
「どうして、手を握っているの?」
「う〜ん、何んでか、恥ずかけんがらね」
姉さんが、クスクス笑いながらそう言った。
「出来たら、ま〜くんばギュっとしたかとばってん。
あ、でも、ま〜くんの方が大きかけん、ま〜くんにギュっとしてもろ〜たら。
気持ち良かろうね〜」
姉さんが、その場面を想像したかの様な表情で、続きを言う。
その間、僕は、姉さんの言う事を黙って聞いていた。
そうやって、ボツリポツリとお互いに言っている内に。
いつの間にか二人とも、眠りに付いたのであった。
「ぎゃん行って、ぎゃん行って、ぎゃん行く!」は人に、道の行き方を教える時に、言う言葉ですね。
これは確か、何年か前の自動車学校?のCMでしたよね?