第13話、熊本城で遊ぶ(後)
展望台で、姉さんのくだらない事に脱力した僕は。
その後、姉さんと一緒に天守閣を出た。
天守閣を出て、ふと石垣を見ると。
「そう言えば、ここは武者返しの石垣だったね」
僕は石垣を指で指しながら、そう言った。
熊本城の石垣は、始め緩やかで、上に行くに従い急になる。
俗に言う、武者返しの石垣である。
「うん、良く、石垣から登れんごつ。
そぎゃんか形の石垣になってとるとか、言いよるけど。
実際は、上からの荷重で崩れんごつ。
そぎゃんか形になっとるとか言う説があると」
「へえ〜」
「そやけど、昔、花見ん時。
酔っ払いが武者返しの石垣に登って、降りれんごつなってしもうて。
消防のハシゴ車が、来た事があったとたいね〜」
「はははっ、何なのそれ」
「それん、西南戦争の時、熊本城が落城せんかったのも。
それが有ったからとか言う話もあるけん。
そぎゃんが、役割もあったとかもしれんね」
「なるほど〜」
僕達は、そんな事を話しながら歩いた。
その後、本丸にある本丸御殿や宇土櫓など。
本丸中を見て廻ったのである。
*********
本丸中を見た後。
大きな角材を四角に組んだ門を出て、少し先で左に曲がり、しばらく歩く。
それから右に曲がり、そのまま奥へと進むと大きな駐車場がある。
何台ものバスが止まる、その大きな駐車場を突っ切って行くと。
「はあ〜、広いな」
大きな広場に出た。
「ああ、二の丸広場やね。
ここで、よ〜色んなイベントがあるけんね」
目の前にある広場は。
野球やサッカーとかが軽く出来そうな位に、広い広場である。
「ねえ〜、暑かけん、早う[早く]日陰ん方さん行こ〜」
姉さんがそう言って、僕の手を引いた。
姉さんの、柔らかくてヒンヤリとした手は。
夏の炎天下では、とても気持ちが良い。
そんな姉さんの、気持ちの良い手に引かれながら。
僕達は、広場の芝生の上を歩いて行った。
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「結構涼しいね」
「うん、良か[良い]具合に、風も吹いとるけんね」
(うん、具合に、風も吹いてるね)
二人で、広場の端にある。
並木の下にレジャーシートを広げ、その上に座っていた。
並木の下の木陰に入ってみたら、適度な風もあるせいか、思ったより涼しい。
そして、姉さんが持ってきたサンドイッチを食べている。
レジャーシートも、サンドイッチも。
姉さんが、トートバックに入れて持ってきた物である。
「姉さん、サンドイッチ、美味しいよ」
「ま〜くん、ありがとう♡」
僕が、姉さんから受け取った麦茶を片手に。
サンドイッチを美味しいと言うと。
姉さんが、とても嬉しそうに微笑みながら、そう言った。
・・・
熊本城内では、一応店もあるが。
観光客相手の土産屋関係なので、値段が高い。
かと言って、食べ物を買おうとすれば城の外に出て。
しばらく歩かないとならない。
そんな訳で、姉さんが食べ物を持ってきたのである。
「ホント、気持ち良いね・・・」
二人で、サンドイッチを食べ終わった後。
僕は足を伸ばし、腕で後ろを支えつつ上体を後ろに傾ける。
そうやって、木の間を吹いてくる風に身を晒していた。
*********
(カクン)
僕がそうやって、風に身を晒していたら。
余りの気持ちよさに、意識が薄くなり。
思わず寝落ちそうになった。
つまり、船を漕いでいて、首がカックンとなったのだ。
「ま〜くん、眠たかとね?」
「ごめん、満腹になって、眠気がしたみたい」
姉さんがそんな僕を見て、そう言ってきたので。
ぼくも、姉さんにそう返事をする。
姉さんは僕を見ながら、しばらくして。
自分の膝を叩いて。
「ねえ、ま〜くん、そぎゃん寝たかとなら。
私ん膝で、寝らんね」
「えっ!」
突然、姉さんが、そんな事を言ったのである。
「ほら、昔は時々、私ん膝で寝とったやんね」
「それは、小さい頃でしょう……」
確かに昔は、眠たくなった時に。
姉さんの膝で寝ていた事もあったけど。
それは僕が、小学校の低学年くらいの頃までだったはず。
「もお〜、ぐずぐずせんと、早う[早く]頭ば乗せんね〜」
ナカナカ寝ない、僕に業を煮やし。
僕の頭を両手で掴み、無理やり膝に乗せたのである。
「ね、姉さん……」
「うふふふ〜」
無理やり乗せられた膝の上から、姉さんを仰ぎ見れば。
姉さんは、満足そうに笑っていた。
姉さんの背後から、木漏れ日が漏れ。
姉さんを美しく見せていた。
「ま〜くんの髪は、男の子にしておくとが勿体なか位、綺麗かもんね」
僕の頭を撫でながら、姉さんがそう呟く。
(すーっ、すーっ)
僕の頭を滑る、姉さんの滑らかな手。
その気持ちの良い感触を感じていたら。
「気持ち良いよ……、お姉ちゃん……」
「くすくすくす」
余りの気持ち良さに、つい昔の呼び方で姉さんを呼ぶと。
姉さんが、面白そうに笑った。
「ゆっくり、寝とって良かよ……」
姉さんが、僕の頭を撫でながらそう言うので。
僕は、姉さんの言葉に甘える。
「(気持ち良いよお……)」
僕は、その気持ちの良い感触を感じつつ。
いつしか、眠り込んでしまったのであった。
(※今回の写真は、個人で撮影した物です)
主人公たちが移動したコースは。
このマップの、頬当御門を出て。
大きく廻り込み、二の丸駐車場を経て、二の丸公園に通りました。
https://kojodan.jp/castle/17/#section-access-map
本当は本丸御殿とかも入れたかったんですが。
内容が長くなるのと、本丸御殿に入った事が無いので書けませんでした・・・。
真夏の二の丸公園で、弁当を食べることが出来るのか疑問ですが。
そこは、創作ですので、どうかご勘弁してください。