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その双子、笑わぬ光と笑う闇  作者: 桜香&水月
3/6

「登校」

「「ごちそうさま!」」

しばらくして、全員が食べ終わって手を合わせた。

あれからずっと互いの主張を交わし合っていたしていた朱蓮と璃玖斗は、まだ口の中に朝食をつめたままだ。

「「行ってきます!!」」

間髪いれずに全員が立ち上がり、それぞれが自分のランドセルやリュックを取りに、主に小学生が先を争って走り出す。だいだいみんな玄関に置いてから食堂に来るので、朝食が終わって一番うるさくなるのは玄関だ。

「あっ、それここなのカバンだよ心ちゃん!」

「あれ、あ、ごめん間違えた」

こんなことは日常茶飯事。みんな放り投げていくからな。自分のカバンの位置なんて覚えてないんだよな、うん。

私はちゃんといつもの決まったところに置いたし、すぐわかるけどね……ん?

「おい、それ私の」

「え?あ、ホントだ」

しれっとした顔で私のカバンを背負う朱蓮に言うと、本気で間違えていたらしく、カバンを渡してくる。

「間違えた。許せ、大食い女」

「シメられたいか」

「嫌だね。お前の拳男より重いし。鳩尾めちゃ正確に狙ってくるし」

「おう。次は関節技マスターするから実験台よろしく」

「やめ……ぐふっ」

とりあえずサブバックで一発腹にお見舞いしていたら、廊下の一番奥の部屋から顔を出す奴がいた。朝の桜香のように、前髪で目が見えない。男子なのに。

「……いってらっしゃい」

「まだ寝てたのかよ亜紀!んで?また休むの?」

カバンを背負いながら聞くと、亜紀はこくんと頷いた。

「頭痛いし……眠いし、ルーいるし」

ね、と亜紀が、手に抱えた白いネズミを撫でる。そのネズミも応えるように、顔を亜紀の指にこすりつけた。

経緯は聞いたことはないが、初めて会ったときから、亜紀はルーと呼んでいるそのネズミを飼っていた。もちろん強制的に飼っているわけでないらしく、不思議とルーは逃げ出そうとしたことはなかった。

盗み食いはしないし、食事中にちょろちょろ動くこともない。つまり、実にお行儀がよい。ネズミのような動物を嫌う者も咎める者もここにはいないので、亜紀はルーを飼い続け、それを理由に学校に行こうとしない。少なくとも、この施設に送られた中学一年生のころから現在高校一年生まで、義務教育を無視、そして自立を完全否定した行動をとってきてくれちゃっていたらしい。

クラスメイトと馬が合わないというのも、学校に行きたがらない要因らしいが。あいにく、亜紀と同じ高校に通っている高校生もおらず、事情があり他とは別の中学に通っていた亜紀の状態を知っている者もここにいないので、現状がわからず、亜紀も話してくれないので、私達子供でどうにかできる問題ではなかった。頭痛が本当かどうかはあえて追求しないでおこう。そして眠いのは小学生を除く全員が同じだこの野郎。

私は本日初のため息をつく。しかしすぐに気を取り直し、外へ歩み始めながら、玄関まで見送りに来た亜紀に言ってやる。

「ったく、可愛いルーちゃんに免じて許してやんよ。じゃ、行ってくる」

「お土産期待……」

「はいはい!……てか、図書館ぐらい自分で行けよな」

思わず愚痴をこぼす。亜紀は動物や本に出てくる空想上の生き物が大好きで、毎日のように、中学校の本を私に借りさせては読み漁っている。私は私で本をよく読むほうではあるのだが、亜紀のように一日中読んでいられるわけではないので、数では負ける。桜香もよく読むが、もの凄いスピードでページをめくって読んでいくので、昼休み中に借りた本をその日のうちにまた返し、借りなおす、なんてこともたまにある。

外に出ると、中、高校生組はすぐに学校に向かうため駐輪場に寄るが、それらよりも時間に余裕のある小学生組は、ランドセルをまた放り投げて、目の前のグラウンドで走り回ったりボールを投げあったりして遊んでいた。

「いい加減部活まともに出ろよなー!」

門を出たあたりで、思い切りペダルを踏み込み、相変わらずすごいスピードで走る璃玖斗が、通り過ぎざまに言った。

「ほっとけー」

私はそう気に留めず、上の空で答えた。桜香が大きな欠伸をする。私もそれにつられるように欠伸をした。“剣”から学校に行くには、ひとつ森を越える必要があった。その道は二つある。一つはきちっと道路が舗装されていて、自転車での登校に向いている。もう一つは土や石ででこぼこした、獣道がちょっと広くなったような道。二つとも結局は同じ道に出るのだが、私達が今通っているでこぼこ道のほうが距離が短いので、歩くときは基本みんなこちらからだ。

あー、部活めんどくせー。

登校には、最低でも一時間はかかる。めちゃめちゃ疲れる。しかもこの地域は中途半端な田舎で、坂道がとにかく多かった。本っ当、いやになる。そんな低テンションで学校に着く頃には、部活に行く元気も一切消えうせている。というかそんな元気残せない。

「なあ、そういやこの前さ……」

黙って歩くのも飽きたので、近くの葉っぱを千切って手を動かしながら、桜香に話しかけた。

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