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伝説になったゴミ山の子

作者: さゆ

この世界には伝説がある。

この世界を作りし神はこの世界に世界を総べるための宝玉を残した。その宝玉を神はこの世界で最も偉大な5人の王に与えた。その5人はそれぞれ国を作りその宝玉で国を治めたという。その5人に与えられた宝玉を全て手にしたものがこの世界の全てを目にし、手にすることが出来るという伝説だった。


この王国にはゴミ山と呼ばれるゴミ処理場がある。王国全土のゴミがこのゴミ山に集められ放置される。奏多(かなた)はその王国全土から運ばれてくるゴミに混ざってこの地にたどり着いた。それ以前の記憶は一切ない。

奏多の最初の記憶はゴミの山から這い出し、灰色の汚らしい空を眺めている記憶だった。

ここゴミ山にはたくさんの人が住みついていた。彼らは皆、ゴミの中から金目になりそうな物を拾い売人にそれを売ることで一日の賃金を得ていた。

来た当初はゴミの中から腐った食べ物を探し出し、それを食べ生き延びていたが、そのうち奏多もゴミの中から金目の物を見つけるということを覚えた。

その方が食べられる物を探すよりも手っ取り早く食べ物が手にいられるうえに腐った物を食べてお腹を壊すこともない。それにおいしいパンが食べられる。

これは奏多にとって喜ばしいことだった。

奏多は朝日と共に起き、金目の物を探していた。もう二日も何も食べていない。

ここゴミ山にはそれぞれテリトリーが存在する。ゴミが毎日運ばれてくる地域の方が金目の物はすぐに見つけることが出来るのだが…そこは大人達がすぐに占領してしまう。

奏多のように力のない者は古いゴミ山を探すしかない…。

それでも積もりに積もったゴミ山は掘れば高価な品が出てきたりする可能性を秘めていた。

奏多は四つん這いになってゴミ山のゴミを掻き分けていた。

缶が一つでも見つけられればパンが食べられる。

日はもう落ちかけていた。太陽が沈めばゴミ山は真っ暗になり探すことはできなくなる。日が沈む前に何か見つけたい…。奏多は必至にゴミ山を掻き分けた。

ゴミ山を夜が支配しようとしたその時、キラリと何かが光った。

奏多は這いつくばってそこへと急ぎ、ゴミを掻き分けた。

腐り悪臭を放つ生ごみを掻き分けると金色に輝く何かが出現した。

それは金色に輝くブレスレットだった。奏多は辺りを見渡し、ブレスレットをボロボロの自分の服にしまい込んだ。

ここからは慎重に売人の元にこれを運ばなければならない。途中で誰か大人に見つかれば取り上げかねない…。

このブレスレットが高価な物と誰が見たって分かる。奪われるわけには行かない。

奏多は辺りを見渡した。幸運なことに周りにいる少年たちはゴミを探すことに夢中だ。

胸が高鳴る。これを売人に渡したらいくらくれるのだろう…。


銀嶺(ぎんれい)は王国の市場を見回っていた。

王国の市場はいつもと変わらず活気に満ちていた。

明朝に狩りに出発し、その帰りに王国の市場によるのは彼の日課であった。

彼はこの王国の王の嫡子、王位継承第一位の王子であり、国民の人気はとても高かった。

銀嶺は愛馬を連れ、市場を見ていた。

市場の外れで見るからに胡散臭そうな男が御座を引き、物を売っていた。

「おい。そこの者」と銀嶺は声をかけた。

男は笑顔で銀嶺を見上げた。

「これは、これは銀嶺王子。何かお探しで?」

「お前は何屋なのだ?」と銀嶺は尋ねた。

「私はゴミ山で見つけてきた品々を売っている者です」と男は顔をひきつらせながら言った。

「ここにあるのはゴミ山の物か?」

「はい」

「ふーん」銀嶺は御座に置かれた品物を見つめた。

そこには見たことのない物がたくさん置かれていた。

「とても珍しい物ばかりだな…」

「ええ。お安くしておきますよ」

ふと、その中で目を引くものがあった。それは小さなブレスレットだった。

「これは…」銀嶺は眉を潜めブレスレットを持ち上げた。

金色に輝くそのブレスレットには不思議な紋章が彫られていた。

台形の中にライオンと龍が戦っている姿。その下では鹿のような生き物と虎が背を向けている。

「これは…!」

「お目が高い!!王子様!!それは古いゴミ山から出てきたものです。1800ギルでどうでしょうか?」

「これはお前が見つけたのか??」

「え…?」

「お前が見つけたのかと聞いている!!」と銀嶺は声をあげた。

「あ、はい。古いゴミ山で見つけました」と男は笑った。

「それは本当だな??私に嘘をつくと偽証罪で罪に問うぞ?」

「ま、まさか…王子様に嘘なんてつきません」と男はうろたえながら言った。

「それは嘘だな…このブレスレットは見つけた者の腕の大きさになる不思議な物だ。これはどう見てもお前には小さすぎる」

「…」男は何も言えずに銀嶺を見つめた。

銀嶺は口の端を上げて楽しそうに言った。

「嘘をついたな?お前を偽証罪で幽閉しようか??」

「お、お待ちください…お許しください」と男は頭を下げた。「それは差し上げます。ですから…お許しを」

「ならばこれを見つけた者の元へ連れていけ」

「かしこまりまして」と男は目にも止まらない速さで店を片付けると頷いた。


奏多はちょうどブレスレットを売ったお金でパンを2つも食べ、大満足でゴミ山に作った自分の家に帰るところだった。

突然、目の前に黒い何かが立ちふさがった。

「この少年か?」

「はい」という声が聞こえて奏多は顔をあげた。

そこには黒い馬に乗った売人と銀色の鎧を着た兵士がいた。

それは王国で城を護っている銀色の鎧を着たあのかっこいい兵士だった。

「お前が奏多か?」と後ろから声がして奏多は振り向いた。

白い馬の上に青い瞳を持つ青年がいた。

彼は馬を降りると奏多を見つめた。その男の手にはあの金色のブレスレットがあった。

奏多はその青年が誰なのか知っていた。この国の王子であり、次期王だと言われている銀嶺王子だった。

「このブレスレットを見つけたのはお前か?」

彼はそう尋ねた。

「は…い…」奏多は頷いて続けた。

「あの…僕それが王国の物なんて知らなくて…その…ゴミ山に落ちていたから売っただけです」王子がわざわざこんなゴミ山に来るということはきっとあのブレスレットが盗まれた物だったのだろうと奏多は思った。

「腕を出しなさい」と銀嶺は奏多に言った。

「え…?」

「腕を…」と銀嶺は手を伸ばす。

僕を捕まえる気なのだろうか??と思いながら奏多は怯えながら腕を王子の前に出した。

しかし、王子はブレスレットを奏多の腕にはめただけだった。

「ぴったりだな。お前で間違いないようだ」と銀嶺は頷くと金色のブレスレットが光輝き、奏多の腕に収まる。

「なにこれ…」

「お前には王宮に来てもらう必要がある」と銀嶺は言って兵士達に合図を送った。

こうして奏多は王宮へと連れて行かれることとなった。


奏多は白い馬に乗っていた。王子の馬に乗せられゴミ山を抜け出した。

ゴミ山から出ると世界は違って見えた。夜空には見たことのないほどの光が煌めいている。緑広がる草原を突き抜ける夜風は言葉では言い表せないほど心地よい。

「奏多!あれがお城だ」と王子が言った。

「お城?」

「そうだ。王宮だ。俺の住む所だ」王子が指す方向には夜空を突き刺すのではないかと言うほど大きな白い建物が見たことのないほど光り輝く星空の下でキラキラと輝いていた。

「あれがお城…」と零す奏多に銀嶺は笑った。

「お前、あそこに行くんだぞ?」

「僕があそこに…」と奏多は目を煌めかせて銀嶺を見上げた。

「そうだ」と王子は深く頷いた。

城は白い門をくぐればもうすぐそこだった。

国の市場を通り城内へ馬は一目散に駆け抜けていった。日が落ちた市場はしーんと静まり返っていた。その中を馬の走る音だけが響く。

「寒くないか?」と王子が尋ねた。

「大丈夫」

「そうか。さすがゴミ山の子だな」と王子は笑った。

城内に入るとたくさんの白い服の男達が立っていた。

王子は馬から奏多を降ろした。

「銀嶺王子。お帰りなさいませ」とすかさず白い服の男が一人近づいてくる。

「冬至。彼を湯へ。俺の客だ。丁重に頼む。」

「かしこまりまして」と白い服の男は王子に礼をした。

「奏多。冬至と湯に入って来い。寒かっただろ?」

「寒くない」と奏多は否定した。王子と一緒にいたかったからだ。

王子は困った顔をして奏多の頭を撫でて諭すように言う。

「奏多。お前が寒くないといっても俺が心配なんだ。湯へ入れてもらえ。後でまた会おう」

奏多は頷いた。

「絶対、あとでまた会えるよね?」

「ああ。俺はこの国の銀嶺王子だぞ。嘘はつかない」

「わかった」としぶしぶ奏多は頷いた。

「では、参りましょう。奏多様」と冬至に促され奏多はとぼとぼと歩き出した。

湯に入ったのは何年ぶりだったのだろうか…。

たまにゴミ山にくるボランティア団体の人達がくれるお湯を被ったことはあるが温かい湯に入るのは初めてだった。

「冬至。これにはいるのか??」と奏多は尋ねた。

「はい。大丈夫です。私が手を繋いでおりますので」と冬至が奏多の手を繋ぎお湯の張られた湯船でそう言った。

「放さないでよ…」

「分かっております」と冬至はそう言って奏多の手を繋いでいてくれた。

白い服を着た女性達が次々と奏多の体を洗っていく。その間も冬至は手を繋いでいてくれた。豪華な服に着替えさせられ長く伸びた髪を切られて奏多は風呂から上がった。その服はさらさらした手触りでなんか落ち着かなかった。

「よくお似合いですよ」と冬至が手を引きながら言った。

「冬至。僕の服は?」という問いに冬至は何も答えることなく、大きな扉の前で立ち止まり深々と誰かに向かって礼をした。

金色の髪に青い瞳の青年が白い服に金色の刺繍が入った豪華な服を身に包んで立っていた。

「見違えたな?奏多」と男はそう笑った。

奏多は走り出して銀嶺王子の手を掴んだ。

「冬至。ご苦労」

「いえ」と冬至は銀嶺王子にそう言って一歩下がった。

王子は奏多の服を正すと真剣そうな趣でぎゅっと奏多の手を握った。

大きな赤い扉が開かれた。

扉の向こうには豪華な赤い絨毯が引かれその向こうには金色の椅子が輝いていた。

そこに一人の男がどーんと座っていた。頭には王冠が光っている。

奏多はその男が誰かすぐに分かった。この国の王様であり王子の父だ。

「銀嶺よ。その子供は何者だ?」

「選ばれし者です。父上」と王子は言った。

玉座に座った王はゆっくり立ち上がると奏多を舐めるように見た。「そいつが選ばれし者だと??」王は笑った。

「銀嶺。伝説を信じるのはいい加減にしろ。その者が選ばれし者であるなら証拠をみせなさい。」

「証拠はこのブレスレットです」と銀嶺は奏多の腕のブレスレットをかざす。

「それが伝説のブレスレットだとお前は言うのか?」と王は声を張り上げた。

「その通りだ」

「それはただのブレスレットだろう!!」

「父上は何故伝説を信じようとなさらないのですか!?」と銀嶺は声をあげた。

「それは私がこの国の王だからだ」と王は両手を広げた。

「愚かな…そんなんだから民が苦しむのです。この世界は伝説通り神々の者であるべき物のはずだ!!」

「神は人間に勝てなかったのだ!!」

銀嶺は溜息をついた

「いいです。私は勝手にやらせていただきます」と銀嶺は奏多を連れて部屋を出た。

「その様なことは許さないぞ!!銀嶺!!聞いておるのか?」王は声を張り上げた。

銀嶺は振り向かなかった。


「冬至。旅の用意をしろ」と奏多を自分の連れ込み銀嶺は冬至にそう命令をした。

「ねぇ…王子さま…僕何か悪いことしたのかな?」不安になりながら奏多は尋ねた。

「奏多は何も悪くないよ。それに俺の事は銀嶺でいい」と銀嶺は奏多の頭に手を当てながらそう言った。

「奏多は伝説を知っているかい?」銀嶺は奏多の隣に座りながら尋ねた。

「伝説??」

「そうこの国の昔話」

「知らない」と奏多は首を振った。

「昔、この世界には神様からこの世界の全てを護るように空から降ろされた5人の王がいた。勇気持ったライオン王、知恵を持った竜王、魔法を持った白虎、慈悲と速さを兼ね備えた双子の麒麟王。この5人の王がこの世界を治めていた。そして5つの勇気、知恵、魔法、優しさ、速さがこの世界の全てであり宝だった。」

「勇気、知恵、魔法、慈悲、速さ?」

「そうだ。5つ揃えばこの世界が手に入ると言われている。だがこの5つを全て持つには強靭な精神力が必要だった。選ばれた者しか持てない力なんだよ。でも人間が欲のためにそれを彼らから奪おうとした。彼らは人間からそれらを必死に守った」

「人間は世界が欲しかったの?」

「うん。世界を手に入れたかったのだろうね…。5人の王はその5つの宝を人間達から隠した。それによって人間はその5つを失ったと言われている」

「でも僕、足速いよ?」

「うん。でも、狼よりは早くないだろう?知恵も勉強しないとならないし、生き物を殺し食べなければならないのは慈悲を失ったからだ。全てを与えられたのに人間は自分たちからそれを手放したんだよ」

「そっか…」

「でも、神は人間を見放したわけではないんだ。人間がそれをいつか手に入れることを願って道しるべになる物と5つの試練を用意したんだ。道しるべは君が嵌めているそのブレスレットだよ。」

「これ??」奏多は手首で光るブレスレットを見つめる。

「そうだよ。それは5人の王から与えられる5つの試練の場所を示すブレスレットだよ。君は選ばれたんだ。王達にね」

「僕が??」

「君は人間に希望を与える存在だ」と王子はそう言って奏多のブレスレットに手を翳して呟いた。「我、王国の者今ここに血の証明を示そう」

ぱぁっとブレスレットから青い光が溢れる。銀嶺はナイフを取り出すと自分の手を切った。

赤い血がブレスレットに吸い込まれていくと青い光が赤く変化して光の中からライオンの顔が浮かびあがった。金色に輝くライオン王の瞳が奏多を見つめる。

「王国の血を引く者と選ばれし者よ。我が名はライオン王。勇気を取り戻したければ赤い砂漠の洞窟で待っている。勇気を探し持ってくることだ。」と言ってその光は消えた。

「赤い砂漠??」

「クルタン地方に赤い砂漠があると聞きますが…」と旅の準備をしながら冬至が言った。

「冬至。場所が分かるか?」

「はい。2日もすれば着くかと…今日はもう遅いので明日、私が案内致します」と冬至は言った。

その日、奏多は城に泊まった。これから始まる旅に胸を躍らせながら眠りについた。


赤い砂漠は世界の南の火山地帯にあった。そこはとても暑く、乾燥しきった大地だった。

赤く煌めく砂はまるでこの地で死んで行っただろう人々の血のようだった。人の物か動物の物か分からない頭蓋骨が赤い砂漠の中に転がっていた。

燦々と降り注ぐ太陽はまるで地獄のように熱く3人の体力を奪っていった。水筒に入った水をいくら飲んでも喉の渇きは潤うことがない。そこはゴミ山よりも過酷だった。

たまに発生する砂嵐は3人の行く手を拒んだ。

「冬至。赤の洞窟まではどのくらいだ?」と銀嶺が尋ねた。

「もうすぐかと思います」

「大丈夫か?奏多?」と銀嶺は奏多に声をかけた。

「うん。大丈夫」と奏多は返しながら砂の中を歩いた。死にそうに熱かったが銀嶺の分も飲み水を貰った以上、我慢するしかない。

「見えました。あれが赤の洞窟です」と冬至がそう言った方向には一つの洞窟があった。

洞窟の中から赤い光が漏れだしている。それはルビーのような輝きだった。

「綺麗…」と呟く奏多に銀嶺が頷いた。

「ああ。この世の物とは思えない」

赤の洞窟は赤い砂の砂漠の中で信じられないほど赤く光輝いていた。それはまるで炎のようでいてとても優しい光だった。

3人は赤の洞窟の中に足を踏み入れた。

そこは不思議な世界が広がっていた。まるで赤い炎とオレンジ色の炎が混ざったような光であふれている。足元からは綺麗な水が湧き出ており、壁からも透明な水が滴り落ちて行く。とても暑い砂漠の中でそこは心地よい風が吹いていた。

3人は必至でその水で喉を潤した。そして、水筒にたっぷり水を入れて一息立ったところには突然それは現れた。

「はっはっは!!!よっぽど喉が渇いていたのだな?」洞窟の中からそう声が聞こえ現れたのは赤い鬣を纏ったライオンだった。

銀嶺王子がとっさに剣を抜いた。

「そんな物で私は切れないぞ?」とライオンは笑って金色の瞳で3人を見つめた。

「ライオンがしゃべっている…」

「喋ってはいけないか??奏多??」ライオンは大声をあげて笑った

「貴方がライオン王ですか?」

銀嶺はライオンに剣を向け警戒したままそう尋ねた。

「いかにも我こそがライオン王。よくここまで来たな?」とライオンはそう言って銀嶺王子の剣を振り払う。銀色の剣が洞窟の中に落ちて大きな音を立てた。

そしてライオン王は突然奏多に襲いかかった。

「奏多!!」と銀嶺が叫ぶ声が洞窟に響いた。

奏多はライオン王に乗りかかられ地面に貼り付けにされた。ライオン王は奏多の体を押さえつけ一度満足そうに吠えると金色に輝く野生の瞳で奏多を見つめた。

そして尋ねた。

「お前に勇気はあるか?この世界を救う勇気は?」奏多は金色の瞳をまっすぐ見て頷いた。

「ある」

ライオン王はそう言った奏多の瞳を長らく見つめて言った。

「ならば、救って見せてくれこの私に!」とそう言って奏多から降りると豪華な鬣を振った。次の瞬間、ライオン王は赤い髪の青年に姿を変えた。姿は違うが金色の野性的な瞳だけはライオンの姿の時と何も変わらなかった。

「やっと見つけたようだ。」と青年はそう言って笑うと腰に身に着けていた剣を外すと奏多の前に出した。

「これをお前にやろう」

それは金色に輝く剣だった。剣には赤いルビーが装飾で取り付けられている。

「これを僕に??」

「そうだ。勇敢なお前にやる。これは勇気がある限りなんでも切れる剣だ。」

「なんでも?」

「ああ。なんでもだ」

「すげぇ」

「だろう」とライオン王は笑い、但し…と続けた。

「お前が勇気を失った瞬間、これは何も切れない刀となる。いいか?本当に守りたい者が出来た時、お前ら人間は弱くなる。いいか!!奏多。いつでも勇気を忘れるな。それはお前の心の中だけに存在する」とライオン王は金色の瞳で奏多を見つめた。

奏多は深くうなづいた。

「勇敢な子だ。次は竜王に会え」とライオン王は奏多のブレスレットに触れてそう言った。

ブレスレットから青い光が溢れだし、どこかを一直線に指し示す。

「竜王は蒼の丘でお前を待っている。この青い光をたどればそこに竜王がいる」

「蒼の丘とは全てが青く光るというあの有名な丘か?」と銀嶺がライオン王に尋ねた。

「ああ。そうだ。お前は場所を知っているようだな??王子よ。ならば奏多の道案内をお願い申し上げよう」

「仰せのままにライオン王」と銀嶺が言うとライオン王は大笑いして立ち上がって両手を広げた

「でわ、行け!!お前達ならすべての試練を突破できるであろう。私は先に約束の地で待っているぞ!!」とライオン王はそう言って赤い炎とオレンジの炎の中に消えた。



蒼の丘は青い光の先にあった。赤の砂漠を出て2日目には青い水の広がる草原にでていた。

それは海だった。太陽の光に輝く海は青い草原の様でとても綺麗だった。足元の下で小さな魚たちが優雅に泳いでいる。気を付けなければならないのはたまに大きな魚が大きな口を開けて青い草原に上ってくることだった。特にクジラは大きな口を開けて草原を飲み込んでいく。それに巻き込まれたら海底に引き込まれてしまうことだった。

「おかしい…」と銀嶺が呟いた。

3人はブレスレットの青い光をたどってここまで来たのだが、ブレスレットから発せられた光はもうすでに無くなっていた。

「銀嶺。ここが蒼の丘なの??」

「うん。そうだよ」と銀嶺は辺りを見渡しながら言った。

奏多も見渡すが青い海がどこまでも続いているだけだった。

「竜王様…寝ているのかな?」と奏多

「そうかもしれないね」と銀嶺は頷いた。

突然、ぽつりと水が顔に当たった気がして奏多は空を見上げた。

「雨??」

青く広がる空から雨粒が落ち、どんどんその粒が大きくなっていく。

「いや、違う」と銀嶺が何かを見つめたまま言った。

銀嶺の目線の先には白く太い柱が立っていた。それは空を突き抜けやがて3人めがけて勢いよく落ちてきた。白い柱には赤い二つの玉がついていた。それは鋭く赤い二つの目玉だった。青く光る尖がった頭に爬虫類のような赤い瞳、そして口元には長いひげがあるのが見えた。白い柱は竜王の体の一部だったことに奏多はやっと気づいた。

竜王はライオン王よりも何倍も大きく、何倍も長かった。大きく青く光る鱗が顔全体に敷き詰められている。竜王は米粒ほどの人間3人を赤い瞳で見下ろし言った。

「俺をお探しか?高貴な者」大きな赤く冷たい瞳が3人を見下ろす。

「貴方が竜王か?」と銀嶺が尋ねた。

「そうだが??私は高貴な者と話すつもりはない」と竜王はそう言って奏多を見つめた。

「大きいんだね…」と奏多が言うと竜王は牙を見せて言った。

「いや、人間であるお前が小さいのだ。でも、たしかにお前の言う通りかもしれない」とそう言うと一瞬にして姿を変え「これでよいか?小さき者よ」と青年の姿になって言った。

「久しぶりに人間の姿になったが私はちゃんと人間だろうか?」と水色の髪に赤い髪をした竜王は自分の姿をみながらそう尋ねた。

「うん。ちゃんと人間の姿だよ」と奏多

「そうか…」と竜王は頷いて奏多を見つめる。

「お前が奏多だな?ライオン王から話を聞いている。とても勇敢だとライオン王の瞳を逸らさずに見つめられる人間はそんなにいない。大抵の者は目を逸らす。金色の瞳は怖かっただろう?奏多」と竜王は赤い鋭い瞳で奏多を見下ろした。

奏多は首を大きく振った。

「ううん。ライオン王の瞳はとても綺麗でお星さまのようだったよ」

「星のよう??」と驚いた顔で竜王は奏多を見つめた。

「うん。」

竜王は困った顔でずり落ちたメガネ直すと咳払いして言った。

「私は知恵の宝玉を守りし竜王。奏多。知恵が欲しいか?」

「欲しい」と奏多は言った。

「なぜ知恵を欲しがるのだ?」と竜王は尋ねた。

「それは僕が選ばれし者だから、それがあれば銀嶺が喜ぶ。」

竜王は奏多の隣にいる金髪の青年、銀嶺を冷たく睨んだ。

「そいつのために知恵が欲しいのか?」

「うん。」

「自分のためでなく??」

「うん。」と奏多は頷いた。

竜王は小さく笑うと言った。

「いいだろう。お前に知恵を授けよう。誰にも負けることのない知恵を」と懐から青い本を取り出した。「これが知恵の宝玉だ。この本にはすべてが詰まっている。お前の知りたいことだけでなくこの世界の全てだ。だが、ライオン王から剣を貰った時に言われたようにこれにも制約がある」

「制約??」

「そうだ。やってはいけないことだ。この本にはこの世界の全てが詰まっている。だが、自分のために使ってはいけない。自分のために使えば二度と戻れない。膨大な知恵の世界に囚われてしまう。」

「膨大な知恵の世界??」

「そうだ。知恵はやがて欲となり自分を潰し狂わせる。絶対に使い方を間違えるなよ。いいな?」と竜王は奏多に本を手渡した。

知恵の宝玉であるその本は奏多が触れると小さくなりやがて青い光となって消えた。

「どこに行ったの?」

「お前の頭の中だ」と竜王はそう言って奏多のこめかみを指さした。

「僕の頭の中?」

「そうだ!!いいか?絶対にそれを自分のために使うんじゃねぇぞ!約束できるな?」

「うん。約束する。」

「じゃあ、俺はもう行く。知恵を手に入れたお前にヒントをやろう。良く聞け!”白虎は紫色の森にいる”お前はこの森の場所がもう分かるはずだ」と竜王はそれだけ言うと海の中へと消えた。

その様子を見届け銀嶺と冬至は奏多に走りよった。

「竜王は白虎の場所を言っていったか?」

「紫色の森にいるって…」

「紫色の森??聞いたことないな…」と銀嶺は考え込み。

「冬至。知っているか?」と冬至に尋ねた。

「いいえ。知りません」と冬至が返す。

「そうか…困ったな…俺も知らない」と銀嶺が困ったような顔で呟いた。

「大丈夫。僕が知っている」竜王から知恵をもらった奏多の目には紫色の森までの道のりがもうすでに見えていた。


紫色の森は紫に彩られた道をたどればすぐに見つけることが出来た。緑色の草原を抜けると突然、森全てが紫色に塗られた森が出現した。紫色の禍々しいその森は青い綺麗な空さえ紫に変えてしまっていた。紫色のとげのある蔦がその森を護るように包み込んでいたが、一か所だけ古ぼけた石の門から中に入ることが出来た。

紫色の森の中は薄暗く気味悪く、じめじめしていた。紫色の霧が3人の行く手を阻んだ。

「奏多。どちらに行けばいいんだ?」と銀嶺は辺りを警戒しながら尋ねた。

「それが…」と奏多は困った顔で銀嶺を見た。

「どうした?」銀嶺は剣を抜いて尋ねた。

「道が消えちゃったんだ…」

「それはどういうこと??」

「僕にも分からないけどこの森に入ったら紫色の道しるべが消えちゃったんだ…」

「ということはここが紫色の森なのでございましょう」と冬至が言う。

「ごめん…なさい。僕…道が分からなくて…」

「謝る必要はないだろ?」と銀嶺は奏多の頭を撫で「奏多のおかげでここにたどり着くことが出来たんだから自信持っていい」と安心させるように笑った。

「うん」と奏多は涙を拭いて頷く

「ここに白虎王がいるんだな…」銀嶺はそう言って立ち上がると叫んだ。

「白虎王よ!!我は高貴な者!選ばれし者を連れて来た!!姿をみせよ!!」

シーンと静まり返った紫色の森の中で銀嶺の声だけが響き渡った。

返事はなかったがその代わりに豪快な笑い声がどこからか流れ、森全体に響きわたる。

「あはははははは」誰かが大声で笑っていた。

3人の周りを覆っていた紫色の霧が晴れた。いままで森の中にいると思っていたが3人は紫色の祭壇に立っていた。目の前に石で出来た玉座があった。そこに誰かが膝を組み、肘置きに肘を置き、3人を見下すように座っていた。それは笑い声の主だった。

「俺様を呼び捨てにするとは良い度胸だな??」

灰色の髪をした青年はそう言って立ち上がった。

「ライオン王と竜王から話は聞いている。お前が奏多で銀嶺だな?そして冬至か…ふーん…」と青年は納得したように頷いて3人を見つめた。

「俺が君達の探している王だ。」と白虎王は紫色の綺麗な瞳でそう言ってまた豪快に笑った。

「呼び捨てしたつもりは…」と銀嶺が言おうとするのを白虎王は笑い飛ばす。「あはは!!気にするな。俺のことはなんと呼んでくれても構わないんだぜ?ただ、ちょっと王らしくしてみたかっただけのことだ。別に俺は王ではない」

「王様じゃないの?」と奏多は聞いた。

「人々が勝手にそう呼んだだけだ。俺はここでのんびり暮らしているだけだ」と手を広げると紫色の不気味な森の木々がいろんな色に煌めいた。

「うわぁ…」奏多はその光景に声をあげた。禍々しい森が一瞬にして色とりどりに輝く森へと変化する。木から光輝く玉が溢れてはじけてキラキラと空で小さな火花を散らしている。

「ここは魔法の森だ。ここには魔法がつまっている」と白虎王はその玉を手に取ると3人に向けて吹き飛ばした。キラキラと輝く粉が3人降りかかる。

一瞬にして3人は王子様の姿に変わった。白い服に赤いマント、頭には王冠が載っている。「やはり良く似合うな」と白虎王は楽しそうに3人の姿を見て笑った。

「すごい!!」奏多は興奮して言った。

「だろ??」と白虎王は輝いた顔で奏多にそう言って指を鳴らした。

一瞬にして王子様の姿から旅をしてきた小汚い恰好に戻る。

「欲しければくれてやるぜ?この力」と白虎王はそう言って笑った。「この力を使えばなんでもできるぜ?どうだ?欲しいか?」

「欲しい!!」と奏多はその言葉に飛びついた。

「魔法が欲しいのか?」と木々から湧き上がる光の玉を突っつき空の色を何回も変えながら白虎王はもう一度聞いた。

「うん」と奏多は深く頷いた。

「いいぜ?奏多お前に魔法をやるよ。だけどその前にお前、魔法で何をするつもりだ?」

「その力があればなんでもできるんだよね?」

「ああ。できるぜ?大抵のことはな。この世界を手に入れることもできるぞ?」と白虎王はそう言ってまた豪快に笑った。

「世界を手に入れたいか?奏多?」

「世界を??」

「そうだ。世界を支配することができる」

「そんなものいらない…ただ、困っている人に使うんだ。魔法で食べ物も作れるかな??」

「奏多がそれを望めば…全てが手に入るが…食べ物??そんなもののために使うのか??」

「うん。全ての人がお腹一杯食べられたらいいなー」

白虎王は大笑いをした。

「人々のために魔法を使うというのか??馬鹿だな…魔法を使えばこの世界の全ては奏多の物だぞ??全てお前の意のままに動かせる。それこそが魔法だ!」

「世界なんていらない。困っている人を助けられたらそれでいい」と奏多は言った。

「ふーん…。つまらないやつだな?魔法は簡単に人を殺せるんだぞ?魔法が欲しい奴は皆、そういう力が欲しいと言うのにな?」と白虎王はニヤリと笑った。白い牙が白虎王の口元からのぞいた。それは明らかに人間の歯ではなかった。ケモノの鋭い歯だ。

「まぁ、そういう奴は俺が殺してきたけどな…」と彼は声を低くしてそう呟くと奏多に向き直った。

「あの慎重なライオン王と頑固な竜王が選んだだけある。奏多。お前に魔法を与えよう」そう言った白虎王の眼差しは先ほどとは違い真剣だった。紫色の綺麗な瞳が奏多を見つめる。その瞳は良く見ると片方だけ青かった。なぜ今まで気づかなかったのか?それとも今までは見えていなかったのか?それとも魔法によるものなのかはわからなかったが白虎王の瞳は確かに左右の瞳の色が違うオッドアイだった。

白虎王は木々から作り出された玉を手に載せるとそれを地面に押し込んだ。紫色の光とともにそれが地面に吸い込まれていく。

「本物は目に見えないものだ。偽物こそ良く目に止まる。本物はいつでもそばにあるというのにな?」と言いながら彼は地面に手を置いて青い玉を引っ張りだして奏多に渡した。

その青い玉は奏多の手の平で青く光ると手の中へと吸い込まれていった。

「消えた…」

「ああ。お前の中に魔法が宿ったんだ。試しに手の中に水を思い浮かべてみな?」

「うん」奏多は手の中に水があふれるのを思い浮かべた。冷たい水が手の平に溜まって溢れて…手に冷たい感触がして奏多は目を開き、声をあげた。

「すごい!!!」

奏多の手から綺麗な水が次々と湧き出ていた。

白虎王は楽しそうに笑うと真剣な顔でこう言った。

「奏多、これが魔法だ。魔法は全てお前の思う通りになる。何もないところに何かを作り出すことも物を動かすことも出来るし、空だって飛べる。失った物を取り戻すことも可能だ。だが、一つだけ不可能なことがある。魔法でも死んでしまった者を生き返らせることは出来ない。それをすれば恐ろしいことが起こる。いいな?」

奏多は深く頷いた。

「俺の話は終わりだ。」と白虎王はそう言って立ち上がると銀嶺と冬至を見る。

「麒麟がお前達3人を金狼の渓谷で待っている。」

「俺達3人を??」と銀嶺は聞き返した。

「そうだ。お前達3人をだ。お前ら3人出会ったことには意味がある。誰一人欠けずしてここまでたどり着くことはできなかっただろう…まぁ、そういうことだ」と白虎王は急いでいるようにそう話を切って続けた。

「奏多。金色の道を進め、そこに最後の王、麒麟がいる」

「わかった。ありがとう」と奏多は礼を言った。

「礼ならこっちが言いたいな。じゃあな」と白虎王は手をヒラヒラさせると紫色の霧の中に消えて言った。3人を紫色の霧が包み込んだ。

霧が晴れると3人は緑色の草原に立っていた。紫色の森はもうどこにもなかった。

だが、金色のタイルが引かれた道が変わりに足元を照らしていた。


金色の道は金狼の谷へと3人をちゃんと案内してくれた。金色のタイルが引かれた道が谷の奥まで続いていた。緑色の草原とは違い、岩と砂だけの金色の大地がそこには永遠と続いていた。

「ここが金狼の谷?」と呟いた声が谷の中で木霊した。

「銀嶺様…」と冬至が遠慮がちに銀嶺に声をかけた。

「どうした?」

「なにか視線を感じませんか??」

「視線??」と銀嶺が谷を作っている岩の方を見上げた瞬間だった。

ワォオ――――ン。

何かの声が静かな谷響いた。

「嘘だろ!!!」と銀嶺がそう言って突然、奏多の腕を掴み走り出した。

冬至もその後ろを走りだす。

「銀嶺様!!奏多を連れてあの洞窟へ!!」と冬至が叫んだ。

冬至の遥か向こうに灰色の集団が見えた。それが狼だと気づくのにそんなに時間はかからなかった。

「銀嶺様。奴らは私がここで俺が押さえます!お逃げください」と冬至が剣を引き抜く。

狼の姿がすぐそこまで近づいていた。腹を空かせた狼達の息遣いが今にもしてきそうなほどだ。「冬至。ダメだ!!」と銀嶺が叫ぶ。

「早く!!」と冬至は声をあげた。

銀嶺は何も言わずに頷いて奏多の手を掴んで冬至の横を走り出した。

2人は谷の横に出来た洞窟になんとか逃げ込んだ。

「ここまで来れば平気だろう」と息を整えながら銀嶺が言った。

「冬至は?」と呟いた奏多に彼は何も言わずに岩影から外の様子を見つめていた。

狼の群れはすぐそこまで来ていた。

「うわぁっ!!」と外で声がして奏多は洞窟の外を見た。

一人の少年が洞窟の入り口で腰を抜かしているのが見えた。彼は持っていた籠の中身をまき散らしながら狼が来る方向を見つめている。少年の目線の先には一匹の狼が牙を向けていた。

「あ…あっ…」少年は恐怖のあまりうごけなかった。

銀色の毛並を持った大きな狼が口をだらしなく開き、涎を垂れ流しながら奏多の方をちらりと見た。奏多は剣を引き抜いた。狼はまるで見下すように奏多を見ると目の前に転がる少年に目を映した。まるで次はお前の番だとでも言うように…。

「うわああああああ!!」奏多は剣を握って洞窟を飛び出した。

「奏多!!!」銀嶺の声が響く。

僕を見くびるな!!!!奏多は少年に今にも襲いかかろうとする狼に向けて剣を振り降ろした。狼は目に止まる速さでそれを避けると奏多に飛びかかって来た。

狼の爪が奏多の頬をすり抜けていく。奏多はがむしゃらに剣を振ったが、狼はそれを綺麗に避け、奏多の振り降ろした剣を牙で打ち砕いた。

剣の欠片は虚しく狼の口の中からぱらぱらと地面に落ちていった。

なんで?この剣はライオン王からもらった勇気の剣なのに…。折れるはずがない。

途方に暮れて視線をあげると狼の赤い大きな口がこちらへ開かれているところだった。

もう無理だ…僕にはこいつを倒すことが出来ない…。

「奏多!!」銀嶺の声がして、目の前に大きな何かが横切った。同時に奏多の体は宙に放り出され、綺麗に洞窟に滑り込む。宙が反転して見えたのは自分を投げ飛ばす銀嶺の姿とせまり来る狼の群れに少年を護る銀嶺の姿…。

そして、勇気の剣が折れた理由にやっと気づいた。奏多が駆け付けたのは勇気があったからではなかった。少年を助けたいから狼に向かって行ったわけではない。ただ自分は強いんだと狼に見せつけたかっただけだ…本当に勇気があるのは銀嶺の方だった。だから剣は狼に当たることなく砕かれたのだ。

洞窟の壁に激しく体が当たった。そして奏多は意識を失った。


奏多が目を覚ました時には全てが静まり返っていた。奏多は折れた勇気の剣を握って外へでた。そこには立ち尽くす少年と地面に倒れたまま動かない銀嶺の姿があった。

銀嶺の周りには赤い液体が広がっている。

「銀嶺様…」と冬至が目を見開いて立っていた。

「銀嶺様!!」冬至は取り乱した様子で銀嶺に駆け寄る。

「銀嶺様!!目を開けてください!!銀嶺様!!冬至でございます」

奏多も銀嶺に駆け寄る。

「銀嶺…。目を開けて…」と銀嶺の体を触ったがその体は銀嶺とは思えないほど冷たかった。

「どうしてこんなことに…」と冬至が叫んだ。

「君が…」と少年が呟いた。

「君が悪いんだ!!」少年は奏多を指差して言った。

「君が勇気を示さないから!!だから彼は死んだんだ!!」

「僕は…」奏多は言い返せなかった。

冬至が銀嶺の体を抱き上げたまま奏多を睨んだ。

「僕のせいじゃ…」

「いや、君のせいだ!!君は魔法が使えるのだろう??ならその魔法で彼を生き返させればいいじゃないか!!これは全て君のせいなんだから!!」と少年は声をあげた。

「違う!違う!!」

「君が最初から勇気を見せていれば勇気の剣は折れることはなかった!!君のせいだ」と少年は折れた剣を指差した。

「それは本当なのですか?」と冬至が尋ねた。

奏多は答えられなかった。

「貴方が勇気を出していたら銀嶺様は死ぬことがなかったのですか??」

「そうだよ。全部、こいつが悪いんだ!!だから責任とって魔法で彼を生き返させてよ!!」

「それは出来ない」

「なんで?君が悪いんだから生き返させてよ」

奏多は首を振った。

「そうですよ。奏多様。銀嶺様を生き返させてください」と冬至までもがそう言った。

「出来ない。白虎王から魔法を貰ったときに約束したんだ」

「ならば、銀嶺様が死んでしまってもいいのですか??今ならまだ銀嶺様の魂はまだこの辺りにございます。魔法で生き返させることも可能です」

奏多も魔法で銀嶺を生き返させることが出来たらいいと思う。でも白虎王との約束は破れない。

「出来ない。」

「魔法はなんでもできるんでしょ?なら生き返させてよ!!」と少年が泣き叫んだ。

「でも、それだけは出来ない…」奏多は溢れる涙を抑えて言った。銀嶺がもうなにもしゃべってくれない…。笑いかけてもくれない…。温もりもない…。

そう思うと涙が止まらなかった。


ぽんっと誰かが優しく奏多の肩を叩いた。

「そんなに悲しまないで顔を上げてください」優しい声がして顔をあげると金髪の長い髪の女性が立っていた。

「はじめまして」と女性はそう言って礼をすると銀嶺を抱きしめていた冬至に言った。

「ありがとうございました。冬至…いえ、銀狼(ぎんろう)

冬至は優しく銀嶺の体を地面に寝かせると涙を拭って立ち上がった。

「いえいえ、楽しかったですよ??」と彼はバサバサと髪を振った。銀色の長い髪が滑り落ちる。ニヤリと白い歯を見せて彼は赤い鋭い眼光で奏多を見つめた。

「銀狼。貴方も合格で良いのでしょう?」

「ええ。」と彼は頷いて言った。

「冬至??」

「奏多。お前合格な!!」と銀狼は楽しそうに頷いた。

「王麒もいいですね?」と女性は奏多の後ろにいる少年に尋ねた。

「うん。」と少年は頷いて、金髪の青年へと変貌した。

「どういうこと…」と呟く奏多に金髪の青年が言った。

「はじめまして奏多。私が王麒です。そして彼女が双子の王麟。私達が貴方がたが探していた麒麟王です。」と青年は金髪の女性の隣に立って礼をした。

「奏多。私達はこの世界の王です。あなたが望むのなら彼を生き返させてあげましょう。ですが条件があります。貴方は今まで他の王からもらった勇気、知恵、魔法の3つを失うことになります。」

「それだけでいいの?」

「それだけとはどういうことですか?」

「勇気の剣は折れてしまっているし、知恵も魔法も使えなかった。僕にはいらない」

「いらないのですか??この世界が手に入れるのに必要な物ですよ??」

「世界なんていらない。銀嶺が喜んでくれればそれで…よかったのに…」と奏多は動かない銀嶺を見つめた。

「そうですか…」と王麟は手を上げた。

折れた勇気の剣が赤い光となり王麟の手に吸い込まれていく、青い光と紫色の光が次々と王麟の手に吸い込まれていった。

「私達、麒麟は神様から慈悲を受け継ぎました。私が神から頂いた力はすべての命を司る力で王麒が頂いたのが…」

「全ての死を司る力です」と王麒はそう言い、王麟と手を繋いだ。

「貴方は魔法で彼を生き返させるのを拒みました。ですから、私達が彼を助けましょう。ですが、忘れないでください。人は一人では生きていけません。そして命というのは尊い物なのです。そしてこれはやってはいけないことです。絶対に…ですが今回だけは特別です。」と麒麟は声を揃えてそういうと繋いだ手を銀嶺の胸に当てた。

金色の力が溢れ、銀嶺の体に光が注ぐ。銀嶺の体に温もりが戻り、やがて銀嶺が目を開けた。

「銀嶺!!」と奏多は銀嶺に抱き着いた。

「なんだ…奏多??」と銀嶺は体を起こしながら奏多の頭を撫で視線を上げた。

「お前ら誰だ??」

「初めまして。高貴な者よ。麒麟でございます。夢の中でお会いいたしましたでしょう?」と麒麟は声を揃える。

「これが現実か?」と銀嶺は眉を潜めた。

「はい。貴方は今生き返りました。このような手段を取ってしまったことを心よりお詫び申し上げます。ですが、この世界を託すものに知ってもらわなければならぬこと。この世界に生きる者すべてに知ってもらわねばならないことでしたのでこのような手段をとりました」と麒麟がそう言った。

「俺が生き返ったということは奏多が王の試練に合格したということか」と銀嶺は言った。

「はい。貴方には申し訳ないことをいたしました」と麒麟が目線を下げ謝った。

「銀嶺どういうこと?」と奏多はそう尋ねた。

「夢の中に彼らが出てきていった。俺は死んだことになっていると…」

「死んでなかったの?」

「いや、死んだのだろう」と銀嶺

「はい。そのとおりです」と麒麟が頷き続けた。

「ですが、私達が生き返させたのです。彼はこの世界に必要な存在でしたので…ですが私達が受け継いだのは禁断の力、全てを変えてしまう力です。貴方に託す力は使い方次第でこの世界を滅亡させることも平和にすることもできます。貴方はどうしたいですか??」

「僕は…銀嶺がいればいい」

二人の麒麟王はその答えに嬉しそうにほほ笑んだ。

「銀嶺はどうおもいますか?」

「俺は奏多のような子供が皆喰うことに困らない世界を作りたい」

麒麟は顔をみあわせてうなづいた。

「ならば私達の力を授けましょう。あなた方ならこの力を何があっても使わないでしょう。使わないという強さも時には必要です」と麒麟王は奏多の目を見てそう言った。

「使わない強さほどかっこいいものはないぞ!奏多」と銀狼も言った。

「でもなー。まさか、冬至が王の仲間だったとはな…騙された」と銀嶺

「王の仲間という言い方はやめろ。俺もれっきとした王だぞ??神から速さを受け継いだ」と不服そうに銀狼は言った。

「速さは麒麟が持っていたのではないのか?」

「私達は命と死です。それを人々は慈悲と言いました」

「じゃあ、王は6人いるのか…」

「はい」と麒麟は頷いた。

「どういうこと?」と奏多は銀嶺に尋ねた。

「俺達は王に試されていたんだよ」と銀嶺は言った。

「私達はずっと貴方たちを見てきました。貴方がこの世界を引き継ぐ者としてふさわしい者かどうかを見ておりました」と麒麟

「事実、ずっと見てきたのは俺なんだけどな…」と銀狼が溜息をつく。

「あの狼の群れはお前の仲間だったのか?というか銀狼王というのは聞いたことないけど?」

「そうだ。あの狼どもは俺の友達だ。聞いたことがないのは表舞台に立つことがないからだな。裏でひっそりとやるのが得意だったんだよ」と銀狼は自慢げに笑った。

「じゃあ、お前は俺が奏多に会うのを知っていたのか??」

銀狼はニヤリと笑って言った。

「俺が神から受け継いだのは速さだ。それは時間のことだぞ??勇気、知恵、魔法、慈悲、速さがこの世界の全てだと言っただろう??」

「勇気とは力だ。全てを壊し全てを作りあげるのが勇気。知恵とは頭だ。全てを知り全てを良い方向へ導く。魔法は愛だ。なんでもできる愛は全ての者を幸せに出来る。慈悲は大切だ。全ての者を生かし、そして安らぎを与える。速さは時間だ。この世界の全てを見通すことが出来る。これがこの世界の全てだ。」と銀狼が説明し終わったところで麒麟の二人が銀狼に声をかけた。

「銀狼。迎えが来たようです」双子はそう言って後ろを向いた。

谷の向こうに3人の青年が立っていた。

「ライオン王と竜王と白虎王です。私達を迎えに来たようですね」

「ちょっとしゃべりすぎちゃったかな??怒ってなければいいんだけど…」

「どこか行くの?」と奏多は尋ねた。

「ええ。この世界の全てを預けられる存在に出会うことが出来たので永遠の眠りにつこうと思います」と麒麟は声をそろえて言った。

「死ぬのか?」と銀嶺が尋ねる。

「いえ、安らぎを得るのです。死ぬのではありません。」

「銀嶺、奏多!この世界を任せるな」と銀狼は背伸びしながら言った。

「無責任だな?」と銀嶺が言う。

「王なんてそんなもんだろう??」と銀狼は欠伸をしながら続けた。

「でも、俺は冬至としてお前らに仕えて、ずっとお前らをそばで見てきた。そしてこの世界を任せてもいいと思った。だから自信を持て。奏多、分かんないことは全部銀嶺に聞け、こいつは俺が認めた王子だ。」

「うん。」と奏多は頷いた。

「銀嶺。奏多はお前に無い者を持っている」

「ああ。知っている」

「銀狼!!」と麒麟が遠くの方で彼を呼んだ。

「ああ!!今行く!!」と彼はそう言って二人を見た。

「いいか!!最後にこれだけは忘れるな。この世界は命で輝いている。命は誰もが1つしか持っていない。奪う権利は誰にもない奪われる権利もな。大切な物だ。その力は使うなよ。使わない方がこの世界は幸せになる。どんなことがあっても」

「冬至。ひとつだけ気になることがある」と奏多は尋ねた。

「なんだ?」

「死んだら皆どこへ行くの??」と奏多は尋ねた。

奏多は驚いたように目を見開くと奏多の頭を撫でて笑った。

「安心しろ。皆俺達の所へ来る。」

「皆?」

「そうだ皆だ」

「じゃあ寂しくないね」

「そうだな。寂しくはない。だが命は大切にしなければならない。なにがあっても絶対にな。お前がこの世界を全うした時、俺らに会いに来い。そしてこの世界で何があったか全てを報告してくれ。その日を俺はとても楽しみにしている」

「うん。わかった」と奏多は言った。

「銀嶺。お前からの報告もまっている」

「ああ」と銀嶺は頷いた。

「じゃあ、またな」と銀狼は楽しそうにそう言ってライオン王と竜王と白虎王と麒麟王の元に行くと手を繋ぐと一度も振り返ることなく金色の風の中に消えた。


金色の風が去り気づくと二人はお城の中で倒れていた。

6つのこの世界の宝玉は奏多と銀嶺の二人の体に宿っていた。

2人は早速、着替えて王の元に拝謁した。

この世界の宝玉を手に入れたと報告するためにこの世界を幸せな世界にするために…。

王は言い合いをした後、お城を出てから行方不明になっていた王子が元気に戻って来たのを見ると心から喜んだ。

「ああ!!銀嶺よ。良かった!!怪我はないか?」

「ありません」

「それはよかった。心配していたのだぞ。あの時は言い過ぎた…私がお前の意見を聞けばよかったのだ。」

「いえ、私も言い過ぎました。心配させて申し訳ありません。伝説の王に会っていたのです」

「会えたのか!?」と王は驚いた顔で二人を見た。

「はい。奏多と共に会ってまいりました」と銀嶺は頷き、今まであったことを全て話した。

「そうか…会えたか…ならば私は引退することにしよう」と王は言った。

「そんな…父上。そんなことをなさらなくても…」

「お前がいなくなってからずっと考えていたことだ。お前がもし元気で帰ってきたらその時はお前にこの国をたくそうとな」

「ですが…父上…」

「銀嶺。私は見てみたいのだ。生きているうちにお前が作るこの世界を見てみたくなったのだ。伝説の王達が我が息子を選んでくれた。なんと喜ばしいことか!!」と声をあげて王は喜び言った。

「奏多君にも部屋を用意しよう。我が息子と共にこの国の者達を幸せにしてほしい。いや、この世界の者全てを幸せにしてほしい」

「僕は銀嶺が喜ぶならなんでもするよ」と奏多は頷いた。

「なんと良い子じゃ!!この国を頼むぞ」と王はそう言って玉座から降りた。


そして、奏多と銀嶺はこの世界の全てを手にして王となった。誰もが彼らを祝福した。この世界に平和に導き、幸せをもたらした王を。

戦争もゴミ山も親のいない子もこの世界から無くなった。人々は飢えることもなく、露頭に迷うこともなくなりとても豊かになった。豊かになると幸せが増え、犯罪もなくなり、皆平等となり、この世界に永遠の幸せと平和をもたらし、いつしか二人は6人の王のように伝説の王となった。

この世界の全てを手に入れ、命を尊び勇気があり、優しく愛に溢れ、全てを知り、全てを見通し人のために全てを捧げることの出来るとてもとても偉大な王に…。

だが奏多も銀嶺も麒麟王と銀狼王にもらった宝玉だけは使わなかった。それは使ってはいけないもので使わないことが人々を幸せにできることを知っていたから。

その様子を空からライオン王と竜王と白虎王と麒麟王と銀狼王はいつも見守っていた。

いつか彼らが役目を終えて楽しそうに世界の事を話してくれることを夢見て…。


二人の心の中には銀狼の言葉がずっと響いていた。

「忘れるな。この世界は命で輝いている」


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