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起きて!

『おっはよっ、朝だよーー。ほら起きて起きて!!』


『おっはよっ、朝だよーー。ほら起きて起きて!!』


『おっはよっ、朝だよーー。ほら起きて起きて!!』


『ねぇ、朝だよ?ほら起きて起きて!!』


『朝だってばぁー。早く起きないと学校に遅刻しちゃうよ?起きて起きて!!』


『もう、いつまでもお寝坊さんじゃいけないんだからね?起きて起きて!!』


『……ねぇ、どうして起きてくれないの?本当に遅刻しちゃうよ。起きて起きて!!』


『なんで?どうして返事してくれないの?起きて起きて!』


『なんとか言ったらどうなの?私の声ちゃんと聞こえてるよね?起きて起きて!!』


『……きて。起きて起きて!!』


『………起きてよ……。起きて起きて!!』


『起きろって言ってんでしょうが』


『なんで!?どうして起きてくれないの!?なんであなたはいつもいつも私の言うことを聞いてくれないの!?』


『起きてよ……ねぇお願いだから起きてよぉ』


『なんで、なんでなんでなんでなんで。起きて起きて起きて起きて起きて』


『起きろぉぉぉぉおおおおお!!!なんでっ!!あなたはいつもそうやって私を困らせるの!?』


『起きろおきろオキロっ!!!あなたはいつもそうやって無視するよねっっっ!?私はこんなにあなたのことを思ってるのにっ!!』


『どうしてどうしてどうしてどうして、私の何がいけないの!?お願い、教えてよぉ……』


『…………』


『…………』


『…………』


『ご、ごめん。私ったらつい熱くなっちゃって』


『そうだよね。あなたにだってそっとしておいて欲しい時間だってあるよね?』


『あは、あははは。もう私ったらバカみたい。自分のことばっかり考えてさ』


『あの……怒ってない?』


『………あ、あのごめんね?本当に本当にごめんなさい』


『ウザったいよね?こんな女』


『で、でも私ちゃんとあなたに気に入ってもらえるような女の子になるから!』


『ホントだよ?本当。私、絶対頑張るから!』


『だから起きて?お願い』


『………ねぇ』


『………ねぇってば』


『……もしかして……わたし…本当にあなたにきらわれちゃったの……?』


『………ゃ』


『………いや…』


『嫌嫌嫌嫌いやいやいやいやぁぁあああああぁあああぁあぁぁぁ!!!!』


『どうしてよどうしてどうして。私はこんなにもあなたに尽くしてるのに!!』


『こんなにもあなたを愛してるのに。なんでなんでなんでっっっっ!!!!』


『お願い捨てないで。なんでもするから、言われたこと何でもやるからお願いだから私を一人にしないでよぉおぉぉおお』


『……………』


『………てやる』


『………ころしてやる』


『私を愛してくれないあなたなんて、あなたじゃない』


『私をこんなに悲しませるあなたなんて絶対認めない』


『私を愛してくれないのなら、誰かに取られちゃうくらいなら、殺して私のものにしてやる』


『ゆるさないゆるさない、ぜったいにその存在を認めない。認めてなんかやるもんか』


『待っててね?普段はこんなだけども、私だってちゃんと実体を持てるんだから』


『ふふふ、絶対に逃がさない。あなたは私と離れちゃダメなの』


『もうすぐ私、そっちに行くから』


『あと10秒だよ?もう私我慢できない。はやくはやくあなたに会いたい』


『7……6……5……』


『4……3……2………』


『……………1』


 バシリと叩いて目覚まし時計を止める。寝起きなので思考がはっきりしないのか、薄ぼんやりした瞳をこすり、カーテンから差し込んでくる光に目を細めた。かぁっと大きなあくびをして伸びをしている。首と肩を回すとゴキゴキと関節がなった。


 黒髪で長身の男だ。顔はまだ少年らしいあどけなさを残しながらも、何かスポーツでもやっているのか、体はがっしりとしている。


「…あー、もう朝か。時間はっと………おお遅刻寸前のレッドゾーンだったな。セーフ」


 つぶやきながら、掛け布団を払い除け、どっこいせと体を起こす。目覚まし時計を見るとぎりぎりの時間だった。遅刻せずに済みそうなのが救いか。


 それにしてもこの時計、使い始めてからもう随分と経つな、と男は思う。見た目はなんの変哲もないただの目覚ましなのだが、こうしていつも彼をちゃんと起こしてくれる。ある日突然部屋にあったという、なかなか謎の代物なのだが、長く使ってればそれなりに愛着もわくらしかった。


「そういえば、この時計のアラームってどんな音出してんだろ?」


 毎朝起こしてもらっているのだが、イマイチ思い出せないらしい。目覚ましらしくなかなかの音量でなにやら喚きたてている、ということはわかるのだが。


「んー………、駄目だ、どんな音だっけか」


 ちょっと気になったので実際に聞いてみるとしよう、と目覚まし時計に手を伸ばす。裏返せば試聴ボタンなり、時間合わせのダイヤルなりがあるはずだ。と思って見てみるのだが。


「……ない。ボタンどころか電池が入ってるフタすら見当たらない」


 隈なく見てみたのだが、どこにもそんなものはなかった。


「あれ?最後に電池交換したのいつだっけ……というか時間設定も出来ないのになんでちょうどいい時間に起こしてくれるんだ?」


 彼がこの時計を使い始めてからそれなりの年数が経っているのだが、今更ながら、電池の交換も起床時間の設定もしたことがないということに気がつく。誰かが代わりにやってくれたのか、とも考えられるのだが、この家にいるのは彼一人だけだ。誰かがこの部屋に入ったことなどないに等しく、そんなことは考えられない。


 ではどうして。男は少しの間うーんと考えてみる。通常の人間なら、まるで心霊現象めいたこの現実に薄ら寒い恐怖など覚えても無理はないと思うのだが。


「すごく高性能なのか?いやー年代物だと思っていたんだがなかなかどうして侮れないなお前」


 あはは、と笑い。いつもの定位置に目覚まし時計を戻す。なぜか深く考えるのをやめたようだ。


「さて準備して学校行くか」


 支度をするべく自身の部屋のドアをあけ、階段へと行こうとしたのだが。


『いってらっしゃい』


「ん?」


 部屋の中から何か聞こえた。女の声だったのだが。


「……気のせいか」


 ドアをパタンと閉めて下へ降りていく。彼は、気がつかない。

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