*
皆様からご指摘を頂き、改稿いたしました。
口の中が苦い。頬にざらざらした砂が食い込んでいる。
ゆっくりと寄せては返す静かな音が、身体全体を満たすように響く。心地よい安心感に包まれて、暫くそのまま目を開けずにいようと思った。
濡れた身体が潮風に煽られて冷え、再び意識が沈むのを妨げた。つんと鼻を突く潮の匂いが、頭の中にかかっている霧を晴らす。
ふと、五体が揃っているのかどうか心配になった。なだらかな地面に押し付けられるかのように重い身体の感覚も、顔に纏わりつく濡れた髪の感覚もある。しかし、手足の存在をまるで感じられない。
試しに手を小さく動かしてみるが、どうやら冷え切っているらしい。指先が驚いたようにギクシャクと動いたので、手の位置は把握した。投げ出されていた手をずるずると引きずって、まるで慣れない道具でも扱うかのようにぎこちなく、髪を顔から払った。
全てが億劫だったが、このままの状態も酷く居心地が悪かったので、なんとか身体を持ち上げようと試みた。地面に手を付き、腕が折れそうだと思いながらも歯を食いしばる。その時、ジャリッと嫌な音がして、砂を噛んだことに気が付いた。やっとの思いで身体を座らせながら、顔をしかめて目を開けようとすると、瞼が開くのを拒むように重たかった。
視界に湿った灰色の砂と、白い光が映った。そして広がる深い青を、幻を見るような気持ちで眺める。
朝の光に照らされた海岸だ。
右手には沖に向かって尖る崖がそびえ立ち、左手には巨大サンゴの塊のようなものが海を遮っている。色も形も妙だが、消波ブロックが積まれているようだ。
両側を囲まれた海は小さい。昇ろうとする太陽に向かってのみ、どこまでも続いている。凪いだ海は輝いていて、水平線は眩しくて見えなかった。そんな眩しさすら、穏やかだった。
最後に見た砂浜のごみも、きちんと揃えて置いてきたサンダルも、薄暗い中で黒く見えた水平線も、荒々しくて冷たい波も……ここにはない。
記憶が途切れる瞬間に芽生えた罪悪感を、心臓の鼓動が慰める。
薄いジーンズを履いた枝みたいに細い脚を見下ろして、この足はまた歩けるだろうかと考える。地面についた腕が、どうしようもなく震えてしまう。血管が浮き出た手の横を、小さなカニが通り過ぎた。
頬を撫でる潮風はどこまでも穏やかで、やつれた自分の存在が滑稽に思えた。
すっくと立ち上がり、振り返って見れば、雑然とした松林がある。その向こうに、建物らしきものが垣間見えたので、ふらふらと覚束ない脚で歩いた。砂に足を取られて前に進むのが難しく、何度も転びそうになりながらも、歩き続けた。
濡れて砂だらけの心地悪さと、脱力感が全身を覆っていたが、気分は悪くなかった。物心ついてから今までになかった程に、気持ちが晴れている気すらした。
改稿前を読んでくださっていた方、改善されたかどうか、感想や活動報告へのコメントを下さったら嬉しいです。