SF小説【電撃少女】君の瞳は1万ボルト地上に降りた最後の戦士
彼女を初めて見た瞬間、全身に電撃が走った。
恋に落ちた。
そんな比喩ではない。
本当に落ちた。
雷が。
真正面から。
「ぎゃあああああああああっ!!」
バリバリバリバリッ!!
青白い閃光が夜空を切り裂き、俺の身体を貫いた。
黒い羽が逆立ち、触角から煙が上がる。
俺は吹き飛ばされ、屋上を三回転。
ドゴン!
給水タンクに激突した。
「ぐ……ぐふ……」
それでも顔を上げる。
そこに彼女がいた。
白銀の戦闘服。
全身を走る青白い電光。
獲物を見下ろす冷たい瞳。
地上に降りた最後の戦士。
電撃少女。
「……また、あんた?」
その声。
その目。
その心底さげすんだ嫌そうな顔。
最高だった。
「会いたかった……!」
「あんたに会いたくて来たわけじゃないんだけど」
「ありがとうございます!」
「は?」
電撃少女の眉が動いた。
「なんでお礼言ってるの?」
「その冷たい言葉……たまらない!」
「…………」
彼女の顔が引きつった。
「あんた……気持ち悪い」
「おおっ!」
「キモッ」
「もう一回!」
「うわ、本当にキモい」
胸が高鳴る。
これだ。
これを待っていた。
俺の名はザーコイネ。
世界征服を企む悪の組織の幹部。
黒光りする外骨格。
背中には黒い羽。
頭には二本の触角。
組織では、
「漆黒飛翔戦士」
などと呼ばれている。
しかし電撃少女だけは違う。
初対面で俺を見た瞬間、
「ゴキブリ?」
と言った。
あの日から俺の人生は変わった。
「違う! 俺は漆黒飛翔戦士ザーコイネだ!」
「じゃあ飛ぶゴキブリ」
「もっと言ってくれ!」
「その時点でもうキモかったのよね……」
電撃少女はため息をつく。
今日で百回目の戦い。
つまり俺は彼女に九十九回負けている。
だが。
九十九回も相手をしてもらっているとも言える!
「電撃少女!」
「なによ」
「今日こそ俺は――」
「弱い」
「え?」
「雑魚」
「……!」
「しつこい」
「おお……」
「ゴキブリ」
「くぅっ!」
「変態」
「もっと!」
電撃少女が一歩後ろへ下がった。
「本気に気持ち悪い!」
「最高だ!」
「褒めてない!」
バリバリッ!! ドッカーン!
「ぎゃあああああっ!!」
電撃が身体を走る。
俺は床を転がった。
しかし立つ。
「まだ……まだだ!」
「どうして立つのよ!」
「もっと罵ってくれ!」
「戦いなさいよ!」
「俺にとってはご褒美だ!」
「キモッ!」
ズキューン。
心を射抜かれた。
「い、今のいい……!」
「何が!?」
「もっと蔑んだ目で!」
「こんな感じ?」
電撃少女が冷たい目で俺を見る。
「この雑魚」
「はい!」
「弱虫」
「はい!」
「百回挑んでも一度も勝てない役立たず」
「はいぃぃ!」
「ゴキブリ以下のキモさ」
「ありがとうございます!」
「なんで喜んでるのよ!」
電撃少女は頭を抱えた。
だが、やがてその口元がゆっくり持ち上がった。
俺は息を呑む。
出た。
あの笑顔。
悪魔のようで。
天使のように美しい。
獲物をいたぶる瞬間だけ見せる
悪魔のような天使の笑み。
「ねえ、ザーコイネ」
「はい!」
「そんなに私にいじめられたいの?」
「はい!」
即答した。
「迷いなさいよ!」
「君になら何をされても――」
「キモッ」
「うっ!」
「ほんっとキモい」
「もっと!」
「存在がキモい」
「うおおおお!」
「喜ぶな!」
電撃少女は俺の背中を踏みつけた。
「ぐえっ!」
「弱いくせに」
ぐりっ。
「はい!」
「しつこいくせに」
ぐりぐり。
「はい!」
「私に勝てると思ってるの?」
「思ってない!」
「思ってないの!?」
「今日は三分耐えるのが目標だ!」
「目標低っ!」
さらに踏まれる。
「ぐあああっ!」
「痛い?」
「痛い!」
「やめてほしい?」
俺は一瞬考えた。
「……いや、もっとお願いします。」
「キモッ!」
「ありがとうございます!」
「ほんっと救いようがないわね!」
電撃少女が足を退ける。
「ほら、立ちなさいよ」
「はい!」
「この雑魚」
「はい!」
「役立たず」
「はい!」
「弱い男って大っキライ」
俺の動きが止まった。
「……今なんと?」
「弱い男、大っキライ」
胸が高鳴る。
大っキライ。
つまり大嫌い。
その反対は
「大好き!」
「違う!」
「紙一重!」
「違う!」
「俺にも可能性が!」
「ない!」
「もっと強くなれば!」
「無理!」
「いつか認めてもらえる!」
「夢見るな!」
「その冷たさが好きだ!」
「キッモ!」
完璧だった。
俺は震えた。
感動で。
「ありがとう電撃少女……」
「気持ち悪いから泣かないで」
「これは嬉し涙だ!」
「もっと気持ち悪い!」
電撃少女の額に青筋が浮かぶ。
そして。
突然。
ニヤリ。
悪魔のような天使の笑み。
「そんなに嬉しいなら……」
右手を天へ掲げる。
ゴロゴロゴロ……。
雲が集まった。
俺の背筋にゾクッと震えが走る。
「で、電撃少女……?」
「なによ」
「その顔は……」
「ご褒美が欲しいんでしょう?」
「はい!」
空が青白く光る。
「じゃあ特別に――」
瞳が輝く。
一万ボルト。
「たっぷり可愛がってあげる」
「うおおおおおおおおっ!!女王様」
「この……」
電撃少女が最高の笑顔を浮かべた。
「気持ち悪いド変態!」
「ありがとうございます!!」
「雑魚!」
「はい!」
「ゴキブリ!」
「はい!」
「キモ男!」
「もっと!」
「もう黙れ!」
そして。
悪魔のような天使の笑みで。
電撃少女は右手を振り下ろした。
「一万ボルト落ちなさい!」
バリバリッ!!
ズガァァァァァァン!!
「ぎゃあああああああああああああ!!」
閃光。
爆音。
黒煙。
俺は黒焦げになり床に大の字になった。
身体がピクピクしている。
「どう?」
「…………」
「ザーコイネ?」
「……さい……こう……」
「うわ」
電撃少女が本気で引いた。
「まだ喜んでる」
「もう……一発……」
「キモッ!」
「その言い方……好き……」
「気絶しなさい!」
バリッ!
「ぎゃああっ!」
腕を曲がらない方向へ曲げられた。
今度こそ俺の意識は闇へ落ちた。
翌朝。
目を覚ます。
屋上には俺一人。
身体には毛布。
そして胸の上には一枚の紙。
《次はもう少しくらい耐えなさい。この雑魚。キモ男》
手が震えた。
俺は紙を胸に抱いた。
「た……宝物だ……!」
涙が出た。
これはつまり。
次も来ていいということ。
また会える。
また蔑んでもらえる。
また罵られる。
そしてまた
一万ボルトを落としてもらえる!
「待っていろ、電撃少女ぉぉぉぉ!!」
君の瞳は一万ボルト。
君の罵倒は百億ボルト。
何度「キモい」と言われても。
何度「雑魚」と言われても。
俺は立ち上がる。
いつの日か。
「少しは強くなったじゃない」
そう言わせるために。
翌日。
「電撃少女ぉぉぉ! 来たぞ!」
俺は腕にギブスをしながら走ってくる。
「早い!」
「昨日より強くなった!」
「一日で!?」
「さあ! 俺を罵ってくれ!」
「あんた気持ち悪い!ゴキブリ!」
「はい!」
「キモッ!」
「もっと!」
「雑魚!」
「もっと!」
「ゴキブリ!」
「もっとぉぉぉ!」
「うるさい、このド変態!!」
「ありがとうございます!!」
電撃少女は笑った。
悪魔のような天使のような。
最高に美しい笑顔だった。
そして右手を天へ掲げる。
「じゃあ今日も――」
ザーコイネは嬉しそうに両腕を広げた。
「お願いします!」
「一万ボルト」
バリバリッ!!
ズガァァァァァァン!!
「ぎゃああああああああああああ!!」
百一回目。
開始三秒。
漆黒飛翔戦士ザーコイネ、敗北。
だが本人は今日も誰より幸せそうだった。
SF小説【電撃少女】君の瞳は1万ボルト地上に降りた最後の戦士
完結




