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甘露の革命 ―泥に堕ちた聖パティシエは、光の結晶で世界を溶かす―  作者: 時空院 閃


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15/31

第14話:甘美なる偽装と、米粉のガレット

 いつも本作『甘露の革命』をお読みいただき、本当にありがとうございます!

 皆様の熱い応援やブックマーク、感想のひとつひとつが、作者にとって最高級の砂糖よりも甘美な活力となっております。


 さて、物語はいよいよ緊迫の度を増す第14話へと突入します。


 前話では、銀髪の魔導師ノエの圧倒的な魔力と、バルカスの超絶的な木工技術が融合。泥の村に史上初の「魔法のセラミック石臼」が誕生しました。その成果として、ルカたちの手元には雪のように白い『米粉マイプン』と、真珠のごとき輝きを放つ『白米』という、この世界のパワーバランスを根底から覆しかねない禁断の財宝がもたらされました。


 しかし、喜びも束の間。炊きたての白米が放つ甘美な香りに包まれたルカの家に、最悪のタイミングで「あの男」が姿を現します。

 そう、かつてルカを泥の中に押し付け、不純物まみれの黒糖塊を自慢した、強欲で傲慢な徴税官です。


 抜き打ちの監査。背後には武装した八名の兵士。

 もし、この不自然に清潔な石臼や、農民には許されないはずの白米の存在が露見すれば、ルカの家族だけでなく村全体が「反逆罪」として処刑されかねない絶体絶命のピンチです。


 今回、ルカが直面した最大の障害は、皮肉にも自分たちが作り上げた「美味しすぎる匂い」でした。 魔法の霧で視覚は欺けても、漂う白米の芳醇な香りは隠せない。鼻の利く徴税官に不信感を抱かれたその瞬間、ルカが取った行動は……「さらなる匂いの暴力」で、鼻腔をジャックすることでした!


 第14話の見どころは、何と言っても新素材『米粉』を使った、ルカの即興スイーツによる逆転劇です。

 熱せられた平鍋で弾ける琥珀色のシロップ。焦げる米粉が放つ、抗いがたい香ばしさ。

 そこで生み出されたのは、表面はパリパリと砕け、中は歯を押し返すような「むぎゅっ」とした弾力を持つ、未知の食感――『焦がし琥珀の米粉ガレット』。


 小麦粉の文化しか知らない徴税官にとって、米粉特有の「サク・モチ」食感は、まさに脳を直接殴りつけるような衝撃ショックとなります。

 「不味いものを食べさせれば追い払える」という安易な発想ではなく、「想像を絶する美味を独占させ、欲望の奴隷にする」という、ルカならではの「聖パティシエ」らしい狡猾で甘美な支配戦略。


 はたしてルカは、この鼻持ちならない役人をどのようにして「秘密を守る共犯者」へと変えてしまうのか?

 そして、徴税官の胃袋を掌握した先に待っている、泥の村の**「美食要塞化」**への次なるステップとは――。


 絶望を甘みで溶かし、格差を食感で破壊する。

 「甘美なる偽装」が世界を欺く瞬間を、どうぞ一文字残さずご堪能ください!

「おい、急げ! 水車小屋と田んぼにノエの認識阻害魔法を重ねるんだ!」


ルカの叫び声が、夜の静寂を切り裂いた。


さっきまでのふかふかご飯の感動はどこへやら、ルカの家の中は大慌てだ。ジャックとバルカスが血相を変えて飛び出していく。


窓の外からは、何頭もの馬の蹄の音が、地響きとなって確実に近づいてきていた。


「ノエ、お願い! 田んぼと水車を隠して!」


「私を誰だと思っている。帝都を揺るがした大魔導師だぞ。……だが、あの広大な水田と巨大な水車を完全に隠すとなれば、私の魔力でも数分が限界だ」


ノエが額に汗を浮かべながら杖を構える。彼の紫の瞳が妖しく発光し、村全体を包み込むように、ねっとりとした闇の障壁――『幻惑の霧』が展開されていく。


外から見れば、黄金の水田は「底なしの不気味な泥沼」に、最新鋭の水車小屋は「今にも崩れそうなボロ小屋」にしか見えないはずだ。


でも、一番のモンダイが残っていた。


「……匂いだ!」


ルカはハッとして土間を見回した。部屋中に広がる、炊きたての白米のあまーい匂い。これは魔法の霧でも消せない。鼻のいい人がいれば、「何か美味しいものを隠してる!」って一発でバレちゃう。


「ニーナ、平鍋を熱して! 一番強い火で!」


「は、はいっ!」


ルカは即座に、出来上がったばかりの『米粉マイプン』の山から一掴みの粉を取り、カイル草の琥珀シロップ、そしてわずかな水を加えて猛烈な勢いで練り始めた。


(ご飯の匂いを誤魔化すには、もっと強くて、もっといい匂いでお部屋をいっぱいにしなきゃ!)


バァン!!!


ルカが平鍋に生地を流し込んだのと同時に、家の薄い木の扉が、乱暴な蹴りによって吹き飛んだ。


「ひぃっ……!」


ニーナが短い悲鳴を上げて縮こまる。


「おいおいおい、随分と静かな夜だなァ、泥の群れども!」


松明の赤い炎に照らされて入ってきたのは、ギラギラとした金の指輪をいくつもはめた、あの太った徴税官だった。後ろには、剣を持った兵士たちが怖い顔で控えている。


「抜き打ち監査だ。最近、この村の連中の顔ツヤが良くなっているという噂を聞いてな。……おい、何か隠して――」


徴税官が偉そうに言いかけた、その瞬間だった。


ジュゥゥゥゥゥウウウッ!!!


平鍋の上で、米粉の生地が弾けるような音を立てた。


直後、部屋中に爆発的な『香りの爆弾』が撒き散らされる。米粉が焦げる圧倒的に香ばしい匂いと、熱された琥珀シロップがキャラメルみたいに焦げていく、すっごく甘くて少しだけほろ苦い匂いが、白米の匂いを完全に叩き潰して土間を埋め尽くした。


「……っ!? な、なんだ、この匂いは……!?」


徴税官の動きがピタリと止まった。その豚のような鼻が、ピクピクと動く。兵士たちも思わずゴクリと唾を呑み、剣を握る手が下がる。


「……あ、役人様。こんな汚いところでお出迎えして、ごめんなさい」


ルカはわざと顔の泥をこすり、怯えた子供のフリをして平鍋の前にしゃがみ込んだ。


「何をしている、それは何だ! 小麦の匂いではない……だが、私の知るどんな高級菓子よりも、強烈にいい匂いがするぞ!」


徴税官はよだれを垂らしそうな顔で、ルカへにじり寄る。


「これは……この泥沼の奥に、ほんの少しだけ生えてる『干からびた草の根っこ』をすり潰したものです。そのままじゃ苦くて食べられないから、せめて甘い木の汁をかけて、焦がして食べていたんです……」


「嘘を言うな! そんなわけがあるか、今すぐそれを私に出せ!」


徴税官はルカの手からお皿をひったくり、焼き上がったばかりの薄い生地――『焦がし琥珀の米粉ガレット』を、熱いのも気にせず口へ放り込んだ。


サクッ……。


静かな土間に、信じられないほど軽やかな、いい音が響く。


「――――ッ!?」


徴税官の目が、こぼれ落ちそうなほどに丸くなった。


表面は限界まで薄く焼かれて、パリパリと香ばしく砕ける。でも次の瞬間、小麦粉のお菓子では絶対にあり得ない、歯をむぎゅっと押し返すような**『もっちり感』**がお口の中を支配した。


噛み締めるたびに、米粉のすっきりとした優しい甘みが広がり、そこにキャラメルみたいになった琥珀シロップのほろ苦さが混ざり合って、最高の味を作り出している。


「な、なんだこれは……! サクサクしているのに、モチモチしている……! こんな食感、お城の最高級のお菓子にもないぞ……っ!!」


徴税官は夢中になって、泥まみれのガレットをバクバクと食べた。指についたシロップまで舐め回し、はぁはぁと荒い息を吐きながらルカの肩を掴む。


「おいガキ! これをもっと出せ! これを大量に作れば、私はお城の誰よりも大金持ちに――」


(よし、お菓子作戦、大成功!)


ルカは心の中でガッツポーズをした。この人がお菓子に夢中になっている今なら、いける。


「役人様、しーっ。声が大きいですよ。兵隊さんたちに聞かれちゃいます」


ルカは小さな声で、内緒話をするように囁いた。


「……何だと?」


「この粉は、この村のすっごく危ない毒沼でしか採れないんです。もし、これをたくさん作ってるって領主様にバレたら……この村はお城の人たちに取り上げられちゃって、役人様の分は、一口もなくなっちゃいますよ?」


徴税官の顔が、ハッとして青ざめる。


「でも……もし役人様が『この村は相変わらず泥だらけで何もない』って上に報告して、僕たちをこっそり守ってくれるなら。……この『とっておきの秘密のお菓子』を、毎月、役人様だけに内緒でプレゼントします! ……どうですか?」


「私だけに、秘密の菓子……」


徴税官の喉が、ゴクリと鳴った。


自分だけが独り占めできる、未知の美味しいお菓子。ルカの提案した「甘いお約束」が、いじわるな役人の頭をすっかりいっぱいにした。


「……フハ、フハハハハ! お前、なかなか賢いガキだな!」


徴税官はルカを放し、満足げにお腹を叩いた。


「おい、兵ども! 剣を収めろ! 見ての通り、ここはただの哀れな貧村だ! 報告書には『今年も凶作、徴税価値なし』と書いておく!」


兵士たちが首を傾げながらも剣を引く。徴税官はルカをニヤリと見下ろして笑った。


「毎月だぞ。もし少しでも遅れたら、ただじゃおかないからな」


ガチャガチャと音を立てて、嵐のように去っていく徴税官たち。


彼らの姿が見えなくなった瞬間、ルカの家の中に、へたり込む村人たちの「ほっ」としたため息が満ち溢れた。


「……ふぅ、魔力切れで死ぬかと思ったぞ」


壁の影から現れたノエが、その場に座り込む。


ルカは顔の泥を袖でゴシゴシと拭い、にっこりと元気な笑顔を浮かべた。


「みんな、お疲れ様! ……やったね、これであの怖い役人さんは、俺たちの秘密を守ってくれる味方になったよ!」


ルカは平鍋に残った米粉のいい匂いを嗅ぎながら、目をキラキラと輝かせた。


「さあ、お腹いっぱいのご飯の次は――この魔法の『米粉』を使って、もっともっと美味しい、世界を驚かせるスイーツを作ろう!」


絶体絶命のピンチを、機転と美味しいお菓子で切り抜けたルカ。


美味しいものを守るため、泥の村は最強の「美食の要塞」への第一歩を踏み出したのだった。


『甘露の革命 ―泥に堕ちた聖パティシエは、光の結晶で世界を溶かす―』第15話までお読みいただき、誠にありがとうございます!


物語はついに、泥の沼地で見つけた「黄金の原石(野生の稲)」が、魔法と技術の融合によって**『純白の米粉マイプン』**へと姿を変え、新たなスイーツの伝説が刻まれる段階に到達しました。


第15話の主役は、米粉ならではの食感を活かした「米粉のミルクレープ」でした。

小麦粉では出せない、あの「吸い付くようなもっちり感」と、何十層にも重なる繊細なレイヤー。

前世の記憶にあるフランス菓子の技法を、この不衛生で過酷な異世界で再現したルカの執念が、再び一人の女商人の人生を狂わせてしまいました。


ヴィクトリアが感じた「恐怖」は、読者の皆様にとっても本作の醍醐味ではないでしょうか。

ただ美味しいお菓子を作るだけでなく、それが「帝都の権力者の胃袋を掌握する武器」になり、泥の村を誰にも侵せない「美食の要塞」へと変えていく。

ルカの無邪気な笑顔の裏にある、パティシエとしての狂気と計算高さが、ついに世界を裏から動かし始めています。


そして、次なるルカの狙いは「生きた牝牛」です。これまではシロップ(糖)と粉(炭水化物)の戦いでしたが、ここに「乳製品(脂質・生クリーム・バター)」という、パティシエにとっての最強のピースが加わろうとしています。

バターが手に入れば、ルカのレパートリーは爆発的に広がり、村の食生活も、そして帝都への攻勢もさらなる次元へと突入するでしょう。


泥にまみれた七歳の少年が、甘美な革命で世界をドロドロに溶かしていく姿を、引き続き見守っていただければ幸いです。


もし「続きが気になる!」「ミルクレープが食べたくなった!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想などをいただけますと、執筆の大きな活力エネルギーになります!


次回、第16話「闇夜を駆ける牝牛と、禁断のバター作り」(仮)にて、皆様とまたお会いできるのを楽しみにしております。

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