表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このダンジョン、全員サボってます ~魔物も罠もやる気ゼロでした~  作者: 叶詩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/2

スライムが働いていない件について

ダンジョンといえば、

魔物がいて、罠があって、命がけで挑む場所――

そう思われがちですが、

必ずしも、いつもそうとは限りません。


ときには魔物にも、

「今日は働かない日」があるのです。


これは、

そんな日に出会ってしまった冒険者たちの、

少し困った記録です。

 ダンジョンに入って、十分が経過した。


 にもかかわらず、まだ何も起きていない。


「……なあ、これ本当にダンジョンか?」


 アルトは松明を掲げながら、左右を見回した。

 石造りの通路、湿った空気、壁に描かれた意味深な紋様。

 外見だけは、どう見ても一人前のダンジョンである。


 だが。


「魔物、いないよね」

「罠も、ないですね」


 後ろを歩く仲間たちも、困惑した声を出す。


 そのときだった。


 通路の中央に、ぷるん、と何かが落ちているのが見えた。


「スライムだ!」


 アルトは反射的に剣を構えた。

 ダンジョンの基本中の基本。

 初心者殺しの代名詞。

 それがスライムだ。


 だが、そのスライムは――


 動いていなかった。


 いや、正確には「だらけていた」。


 床にべちゃっと広がり、時々ぷくっと気泡を出すだけ。

 こちらに襲いかかる気配は、一切ない。


「……寝てる?」

「溶けてません?」


 近づいても反応しない。

 アルトは恐る恐る、剣の先でつついてみた。


 ぷにっ。


 スライムはゆっくりと形を変え、文字通り「顔」を向けた。


『……あ、冒険者さんっすか』


 喋った。


「喋った!?」

「喋りましたね」


『今日は非戦闘日なんで……』


 スライムは申し訳なさそうに、体を縮めた。


『今週、討伐多くて。ちょっと有給消化中っす』


「有給!?」


 アルトの叫びが、虚しくダンジョンに響く。


「お前、魔物だろ!?」

『魔物にも労働基準法あるんで……』


 そんな会話をしていると、奥から別のスライムがずるずると現れた。

 こちらは帽子をかぶっている。


『あー、そっち新人?』

『いや、冒険者っす』

『ああ……また来ちゃったか』


 帽子スライムはアルトたちを一瞥すると、ため息をついた。


『今日は当たり日じゃないっすよ』

「当たり日って何だよ」


『当たり日はちゃんと襲います』

『罠も落ちます』

『悲鳴も上がります』


「今日は?」

『今日は点検日です』


 アルトは頭を抱えた。


「なんで俺が点検日に来てるんだ……」


 通路の先を見ると、

 落とし穴には「使用禁止」の札、

 矢の罠には「調整中」の紙。

 明らかに働く気がない。


「ギルド……」

「受付嬢……」


 アルトの脳裏に、あの穏やかな笑顔が浮かぶ。


 ――クロエ。


「……まさか」


『あ、クロエさんなら』

『今日は軽めで、って言ってましたよ』

『新人慣らしだそうで』


 スライムたちは口々に言う。


「完全に罠じゃねえか!」


 叫ぶアルトをよそに、

 スライムたちは床に戻り、再びだらけ始めた。


『気をつけて帰ってくださいね』

『出口はそのまま真っ直ぐっす』


 戦闘も、経験値も、達成感もない。


 あるのは、

 妙に親切な魔物と、

 やる気のないダンジョンと、

 嫌な予感だけだった。


 アルトは、確信する。


 ――この仕事、絶対おかしい。


 ダンジョンは、今日も平和だった。


 働いていないだけで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ