あまりにも戦力過多
相手は8人。
この階層は全体的に5人が並べば肩がぶつかるような狭い通路が主だが、所々に通路が広くなっている場所がある。
彼らはそんな少しだけ広くなった場所を決戦の地に選んだようで、万全の体制で俺が来るのを待ち構えていたようだ。
………
それにしても…冒険者っぽくない格好だな。
全員が白をベースとした装いに、お揃いの紀章を身に付けている。騎士団と言われた方がしっくりくるな。
相手の装備を見る限り…
剣士、盾持ち、大剣使い、斥候、弓使い、ヒーラー、残りの壮年の男と若い女は魔法使い…ってところだろうか?
こんなろくな物が何も出ないダンジョンに来るにはあまりにも戦力過多だろう。
こいつら…こんな大人数で弱っちいゴブリンなどの魔物達をボコボコにしてここまで来たんだろうか?
そして今度は、1人で彷徨っている俺をボコボコにしようとしているのか。
それってどうなんだ?
恥ずかしくないのか。
などと心の中で相手を罵倒していると、リーダーっぽい剣士の男が何か大きな声で話しかけてきた。
………
残念ながら知らない言葉だ。
正直に言うと、俺の心の声が相手には聞こえており、反論されたのかと物凄く焦った。
が、俺が相手の言葉を分からないのだから、もしも相手に俺の心の声が届いていたとしても意味は通じないだろう。
一安心だな。
いや、俺の身体よ。剣を構えなくていいんだよ?相手だってまだ構えてない…ああ、こっちを見て向こうも武器を構えちゃったじゃないか!
せっかく話し合いが通じる相手だったかもしれないのに…言葉はわからないけども…
武器を構え、お互いに相手の出方をみる。
睨み合いは数秒。
先に動いたのは相手の弓使いだった。
俺の左肩の関節を正確に狙った一撃を、右に1歩ズレることで躱す。
その1歩のうちに走り寄ってきた剣士と一度二度と切り結び、大きく弾き飛ばした。
しかしそれは相手の作戦だったようで、剣士とやり合っているうちに追いついてきた大剣使いと盾持ちが間髪入れずに迫ってくる。
大振りな大剣使いの攻撃を躱し、逆に一撃をお見舞いしようとしたところに盾持ちの邪魔が入り…
なるほど、連携が上手い。
盾持ちと大剣使いはお互いの間合いを知り尽くしているようだ。
大振りな大剣の動きを補佐するかのように、盾持ちが両手にグローブのように持った左右の盾で殴ったり、切りつけてくる。
だが…俺の身体も黙ってはいない。
このままでは埒が明かないと思ったのか、隙をついて大きく振りかぶり、バコン!!と大きな音を立てて先に盾持ちを弾き飛ばす。
アイツ、両腕の骨がいったんじゃないか??痛そう…
その勢いのまま大剣使いと剣を撃ち合い、相手の剣を弾く。
フィジカルは俺の方が上のようだ。
ガラ空きになった胴体に蹴りを入れ、更に横に蹴り飛ばす。
風魔法の補助付きの蹴りだ。暫くは起き上がって来れないだろう。
この調子なら圧勝できるんじゃないか?
そう思ってしまうほどに、俺の身体は強かったらしい。
しかし次の瞬間、とても嫌な感覚がした。
盾持ちを弾き飛ばし、大剣使いも蹴り飛ばしたことで前方がガラ空きになる。その時を狙っていたのだろう。
男の魔法使いから感じる魔力が一気に膨れ上がり、巨大な岩が恐ろしい程のスピードで飛んできた。
刹那、足元で風魔法を爆発させ避けようとするも完全には避けきれず、左腕を叩き付けて射線を逸らし、何とか直撃を間逃れることが出来た。
が…今の一撃で左腕が手首の上まで完全にへしゃげてしまう。
くそっ、大幅な戦力ダウンだ。
俺の鎧と剣には自動修復の機能が付いているとはいえ、直るまでには時間がかかる。少なくとも戦闘中は使い物にならないだろう。
だが、俺の身体は休むことなく、再び足元で風魔法を爆発させて高速での移動を開始する。
振り返ると今までいた所に氷の氷柱が数本突き刺さっており、敵は遠慮なく追撃してきている。こちらを待ってなどくれないのだ。
遠距離攻撃は本当に厄介だ。
飛んでくる氷柱を避けながら、魔法使い達に一気に距離を詰める。
先に倒さなければ…
!?!?
あと少しのところで、急に宙に持ち上げられてしまう。
どうやら足元にロープを使った罠がしかけてあったようで、まんまと絡め取られてしまったらしい。
斥候と弓使い、さっき弾き飛ばした盾持ちが3人がかりでロープを引っ張っているのが見える。
あの盾持ち、随分とタフな奴だな…と思ったら、そばに居るヒーラーが何か魔法を使っている。そのおかげのようだ。
俺が冷静に周囲を見渡している間も、身体は黙っているわけではない。
持ち上げられた瞬間に自分の周囲を炎で包んでロープを焼きつつ、風魔法でカマイタチを作り出して魔法使い達から飛んでくる氷柱や岩の礫を相殺する。
人間じゃ焼け死んでしまうような戦法でも、中身がない俺ならば無事だ。
決してダメージが無いわけでは無いので多用する事はできないけれど…よし、ロープが焼き切れた!!
このまま自由落下などしていられない。
再び足元で空気の塊を爆発させ、宙を蹴る。
見ざす先は、最初に相手が待ち構えていた方向、出口の方だ。
宙にいるお陰で遮るものもなにも無い。
俺の身体はこれ幸いにと、このままトンズラここうという魂胆らしい。
妥当な判断だろう。
そもそもこっちには戦う理由なんてないし…
なんて悠々と考えていた所、突如として巨大な岩の壁がせり上がり、通路を完全に塞いでしまった。
ドゴッと痛々しい音を立ててぶつかり、ドスンと地面に叩きつけられる。
ぐへぇっ…
彼等は何がなんでも俺を逃がさないつもりらしい。
なんでだ!?俺に何か恨みでもあるのか!?
本当に訳が分からない。
………
いや…何となく分かるかもしれない。
俺は本来、こんな階層にいる魔物では無いんだろう。
出てくるのはパンチ一発、キック一発で倒せてしまうようなザコばかり。
そんな所を徘徊している俺は、言わばユニークモンスターと言うやつだ。
朧気な記憶では、ユニークモンスターは倒すと経験値が多く手に入ったり、レアアイテムをドロップする…らしい。
………
倒す理由が大アリじゃないか!?!?
こちらが逃走しようとしている隙に相手のヒーラーが頑張ったのか、剣士も盾持ちも大剣使いもすっかり回復しきっているようだ。
最初のように戦闘態勢を整え、全員でこちらを睨みつけている。
対する俺は…
左腕はへしゃげて使い物にならず、身体のあちこちが焦げて汚れている状態だ。
………
やばいやばいやばい、アイツら完全にヤル気だ!!
あわあわしている俺を他所に、俺の身体は覚悟を決めたのか魔力を練り始める。
使い物にならない左手を岩で固めて盾状にし、その表面を氷で覆う。
両手で剣を扱えない以上、使えない腕を文字通り盾にする作戦のようだ。
今まで盾を使っている所は見た事がないが…構え自体は様になっているな。
さて…泡食っていても俺に出来ることは何も無い。出来ることといえば、せいぜい応援することくらいだ。
…俺もいい加減、覚悟を決めよう。
見ている事しかできないが、第2ラウンドといこうじゃないか!!




