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『荒滝という力士、荒滝とは言わない速記シャープ』

作者: 成城速記部

 青笹村というところに、荒滝という力士があった。子供のころから力が強く、村の祭事では、常に大将を務めていた。荒滝は、もっと強くなりたいと思って、六角牛山に願をかけて、雪山を裸足でお百度踏みをしたところ、山の神様が特別に願いを聞き届けてくれたという。

 荒滝は、どんな強い相手でも、六角牛山のほうを向いて四股を踏むと、必ず勝てたというが、あるとき、江戸相撲の横綱秀ノ山という力士がやってきて、急に対戦することになったので、六角牛山に向かって四股を踏む間がなく、あっさり負けてしまったという。それどころか、肋骨が三本も折れて、肺炎になって死んでしまった。それ以来、青笹村では、荒滝というしこ名を禁じ、誰も名乗ってはいけないこととなったという。

 荒滝がなくなってから七十年ほど後、この村の発明家が、速記シャープを開発し、荒滝と名づけようとしたところ、肋骨が折れたことがもとで死んだ力士の名前をつけると、いかにも芯が折れそうだという声が上がり、別の名前になったという。



教訓:実際につけられた速記シャープの名前は伝わっていない。ここでは仮に、速記すらすら、ということにしておく。

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