第2話:テンガマンとの邂逅
翌日、麻呂は再び街へ出た。
昨日見た光景が頭から離れない。
メガネをかけて街を歩くと、案の定、巨大な蚊がそこかしこで人間に取り憑いている。
空にはUFO、細いマッチ棒男も健在だ。
麻呂の心臓はバクバクと高鳴る。
「これ、俺にしか見えてねえよな…? どうすりゃいいんだ!」
その時、聞き覚えのある鈍い音が響いた。
見ると、昨日と同じぶよぶよした巨漢が、蚊を叩き潰している。
だが、今回は蚊の数が尋常じゃない。
巨漢は徐々に押され始め、動きが鈍っている。
「おいおい、マジかよ! あのデブ、ピンチじゃねえか!」
麻呂は咄嗟に叫んだ。
「おい、デブ! 上だ! UFOのマッチ棒が蚊を操ってんだよ!」
巨漢が振り返り、麻呂を一瞥する。
その目には驚きと、わずかな希望が宿っていた。
「お前…見えてんのか?」
巨漢の声は意外に落ち着いている。
麻呂は頷き、メガネを指差した。
「このメガネで、全部見える! UFOの奴が蚊を操ってる!」
巨漢はニヤリと笑い、こう名乗った。
「俺は筋川世之介、仲間からはテンガマンって呼ばれてる。
あの蚊、俺のテンガパワーでぶっ潰してきたが、ボスが見えねえから苦戦してた。助かるぜ、メガネ!」
「テンガ…マン? 何それ、キモいんだけど!」
「細けえことは気にするな! お前、名前は?」
「遊佐麻呂…、ゆさまろって呼べ! で、お前、なんで蚊と戦ってんだよ?」
世之介は拳を握りしめ、語り始めた。
「この蚊、ただの虫じゃねえ。人間の欲望を吸って、少子化を加速させてるんだ。
俺のテンガが教えてくれた。この20年、俺が愛用し続けたテンガに魂が宿っちまってな。
そいつが言うには、この蚊は異星人の手先だ!」
「は!? テンガに魂!? お前、頭大丈夫か?」
だが、世之介の目は本気だった。
麻呂はゴクリと唾を飲み込み、メガネ越しに空を見上げる。
UFOのマッチ棒男が新たな蚊の大群を放ってくる。
「ゆさまろ、お前のメガネでボスを捕捉しろ! 俺がぶっ潰す!」
「マジかよ…巻き込まれたくねえんだけど…!」
それでも、麻呂の血が騒いだ。
30年間、エロ動画で鍛えた集中力と視力。
今こそ、その力を試す時だ。
「よし、テンガマン! 右斜め45度、UFOがいる! 蚊はそこから飛んでくるぞ!」
世之介は吼え、テンガを握りしめると、まるで武器のように振り回し、蚊を次々と撃墜。
麻呂の指示でUFOの位置を絞り、ついに世之介の拳がUFOに直撃!
爆音と共にUFOが墜落し、マッチ棒男は逃亡した。
「やったぜ、ゆさまろ! お前のメガネ、すげえな!」
「いや…俺も何やってんのか分かんねえよ…」
二人は息を切らしながら見つめ合う。
この出会いが、少子化を仕掛ける異星人との戦いの始まりだった。
一方、遠くからその様子をこっそり見つめる影があった。
嘉門なでこ、25歳。
彼女の手に握られた母の形見のバイブが、微かに震えていた。