借金
「待って。」
麻里子が呼び止める。
「いえ、家まで送るわ。あやかちゃんの両親にも挨拶してないし。」
「挨拶ってお姉様はお姉様で結婚とかは?!」
あやかは顔を赤く染めて手を横に振る。
「なんでそうなるのよ?」
麻里子は再び笑い出す。
「あやかちゃん、いつも私のところにはお母さんにはジョセフィーヌのお散歩のついでに図書館寄ってるって事にして来てるって言ってるでしょ?」
あやかはジョセフィーヌが誤って麻里子の家に入った時母親にその事を話した。久しぶりに友達ができて嬉しかったと。母親も良かったねと言ってくれると思った。しかし母親はムッとした表情で言った。
どこの誰だか知らないけど見ず知らずの人と仲良くするのはやめてほしい。変な事に巻き込まれたら私が迷惑だからと。そう言って仕事に行ってしまった。
「だったら尚更挨拶が必要だわ。私がどこの誰だか分かればお母さんも安心するでしょ?」
「はい。」
あやかが納得すると麻里子が家まで着いて行く事になった。しかしあやかはまだ浮かない顔をしている。
「おい、お前白川のところの娘だろ?!」
その時二人の男があやかの前に現れる。スーツ姿だが明らかに向こう側の人間だ。
「お母ちゃんに伝えてくれねえか?早く借金返せって。」
男の1人があやかの肩を掴む。
「やめて下さい!!」
あやかが男の手を払いのける。
「なんならお嬢ちゃんが払ってくれてもいいんだよ。いい店紹介するよ。」
もう1人の男があやかの腕を掴む。
ワンワン!!
ジョセフィーヌが2人に吠えている。
「なんだ?!この犬」
「邪魔だ!!」
男の1人がジョセフィーヌを蹴飛ばす。
「おい!!」
あやかの背後で麻里子が低い声で怒鳴りに簪を外し髪を振り乱す。
「なんだてめぇは?!」
男達の矛先が麻里子に向けられる。
「さっきから見てれば何だ?!女や仔犬に手あげやがって。お前ら男として恥ずかしくないのか?!」
「お姉様?」
普段のエレガントな麻里子から想像できない男言葉にあやかは口を開けてみている。
「関係ねえやつは引っ込んでろ!!」
2人懸りで麻里子に殴り掛かる。しかし麻里子は身軽にかわし男の1人の腕を掴みその場で投げ飛ばす。
「おい、行くぞ!!」
「覚えてろ!!」
男達は走り去っていく。
「おととい来やがれ!!」
麻里子は走り去る男達に向かって啖呵を切る。
「大丈夫?」
麻里子はジョセフィーヌを抱いて固まっているあやかにいつもの優しい口調で声をかける。しかしあやかは黙って何も言わない。
「ごめんなさい、怖がらせてしまったわね。でももう大丈夫よ。」




