新しいお姉様
「麻里子さんもですか?」
彼女も家族や兄弟をなくしてるのだろうか?
「そうね。家族といえば家族ね。でも私の場合は家族との暮らしと言った方がいいかしら?」
麻里子が話したのは戦争が原因で家族と離れ離れになった事だ。
「養子に出されてこの家で暮らしてたわ。この家の娘として。私が6才の時よ。」
「なぜ養女に?本当のお父様やお母様は何も言わなかったのですか?」
「私達家族が生き延びるためにはそうせざるを得なかったの。だけどね、この家に私の居場所なんてなかったわ。」
17才の時本当の両親は他界。戻れる場所を失ったのだ。
「私が生きる意味はお父様の遺書に書かれていた事だけだったわ。お父様の悲願を達成するためならとどんな汚れ仕事もやったわ。だけどそれも戦争に利用されるだけに終わったわ。」
汚れ仕事、その言葉を聞いてあやかは思った。麻里子も自分と同じいや、自分以上のものを失っていたのだと。
「もしあやかちゃんが嫌でないなら、お姉様になるわ。駄目かしら?」
あやかは姉がお姉様と呼ぶ人を連れときた事を思い出す。公家の血を引く方で和服が似合う美しくも柔らかい物腰の方だった。まるで今目の前にいる麻里子のように。
「私で宜しければ。」
「良かったわ、私の可愛い妹。」
「そうだわ」
あやかは胸元に付けた赤いリボンを解く。
「えりかお姉様がおっしゃってましたの。エスになったらお姉様と制服のリボンを交換し合うと。」
あやかが麻里子の髪にかけようとする。
「待って」
麻里子はリボンを解いてしまう。
「髪飾りにしてはあまり派手だから」
代わりに麻里子は帯の紐にリボンを結ぶ。
「これでどうかしら?」
麻里子の濃い紫の生地の着物に赤いリボンは華やかに映える。
「お似合いです。麻里子さん、じゃなかった。お姉様。」
「宜しいのですか?」
「勿論よ。外は暗いのだから可愛い妹に何かあったら大変だわ。」
あやかは家まで麻里子に送ってもらう事になった。
ジョセフィーヌのリードを手に持ちながら帰路へと歩いていく。リードを持ってないもう片方の手で麻里子の手を握る。
「あやかちゃん?!」
麻里子は突然手を握られ驚いて声をあげる。
「えりかお姉様はお姉様と帰る時はいつもこうして手を繫いで帰るって言ってましたよ。」
「お姉様のお姉様って何人姉妹なのよ?」
突然麻里子が吹き出す。
麻里子は普段はポーカーフェイスで眉一つ動かさないが時折ふとした瞬間に吹き出し、暫くは1人大声で笑っている。あやかは麻里子のそんなところも好きなのだ。
「そうね、麻里子お姉様も入れると4姉妹になるわね。」
「貴女本当に面白いわね。私、貴女の母親ぐらいの年よ。」
「麻里子お姉様が言い出したんじゃないですか、お姉様になってくれるって。」
「そうだったわね。」
二人が笑いながら歩いてると木造の一軒家が立ち並ぶ通りに差し掛かる。
「この辺で大丈夫です。」
あやかは麻里子の手を離しジョセフィーヌのリードを引いて歩こうとする。




