戦争が消したもの
昭和23年
「アメリカとの戦争でキリスト教は敵、贅沢は敵と言われ、お姉様の女学校からは丸襟にリボンの制服もごきげんようの挨拶も女学校から消されたのです。」
えりかは戦争が終わればまた元に戻るから大丈夫と言って笑っていた。しかしえりかは竹槍訓練の最中に空襲で亡くなった。父は出征。あやかは母と使用人と母の実家に疎開した。
ワン ワン
その時ジョセフィーヌが麻里子の膝へとやってくる。ジョセフィーヌの首輪が落ちる。首輪には名前が書いてある。
「あやかちゃん、この娘違う娘の首輪してるわ。」
首輪に書いてあるのはおきみという別の名前だ。
「この首輪疎開先の婦人会の人が持って来たのです。」
ジョセフィーヌは敵国の名前だからと言われ無理矢理日本の名前に変えさせられたのだ。
戦争が終わってから帰って来た時に目にしたのは全焼した我が家だった。
「ですがなくなったのはお姉様や我が家だけではありませんでした。」
昭和21年4月。
あやかは家族と共に東京からここ長野にやって来た。入学したのは女学校ではなく公立の中学だった。姉の形見の制服を着て登校しようとしたが母親に止められ仕方なく指定のセーラー服で登校する。
「ごきげんよう。」
入学式の日各クラスに振分られ1人ずつ前に出て自己紹介をする。あやかはかつてえりかが自分の前でした挨拶をする。しかしクラスメイト達はポカンと口を開けてあやかを見つめている。
休み時間になるとクラスメイト達は席の違い者同士で集まる。
「白川さん」
隣の席の女の子があやかに声をかけてくる。
「白川さんって面白い人だね。」
「ちょっと!!それどういう意味?!」
あやかは恥ずかしくなり大声をあげる。
「ごめん。貶してるんじゃないの。さっきの挨拶自分をしっかり持ってて。私好きよ。」
彼女はあやかに敵意はなさそうだ。
「ありがとう。お名前聞いても宜しい?」
「北山」
彼女が名乗ろうとした時
「まさみ!!」
男子生徒の1人が北山と名乗った少女に声をかける。
「何してるの?」
「白川さんてて話してたの。白川さん面白くていい娘だよ。」
まさみは男子と親しげに話している。
「宜しくね。白川さん」
男子生徒があやかに挨拶をするがあやかは何も言わない。
「白川さん、彼は将太。私の幼馴染なの。悪い人じゃないわよ。」
「そうじゃなくて彼男じゃなくって?」
「当たり前じゃない。」
まさみは吹き出す。
「白川さん、面白いでしょ?」
まさみが将太に尋ねる。
「まさみさん、そういう事じゃなくて、どうして同じ学校に男の子がいるのよ?!」
「白川さん、本当に面白いわね!!」
まさみはお腹を抱えて笑っている。
「当たり前じゃない。」
「お姉様が通っていた女学校には男の子なんていなかった。」
「ここは女学校じゃなくて中学校よ。」
「男の子が中学校、女の子が女学校でしょ?」
「白川さん、戦争が終わってから女学校はなくなったのよ。これからは男の子も女の子も一緒に勉強するのよ。」




