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憧れの女学校

「麻里子さん、今日はここ教えて下さい。」

あやかはテーブルの上に参考書を開くジョセフィーヌが麻里子の家に迷い込んだのがきっかけで麻里子の家を訪れるようになった。

 あの日は本当はお散歩の後図書館で勉強する予定だった。知らない人の家に上がるのは抵抗があった。しかし人見知りのジョセフィーヌに懐かれるのだから悪い人には思えなかった。着物姿はどこか品があり、時折見せる笑顔には惹かれる物がある。それに自分を友達と言ってくれたのが嬉しかった。

「どれどれ。」

麻里子は眼鏡をかけ参考書に目を通す。

「ここの問題はね」

麻里子の解説であやかは問題を解いていく。

「麻里子さんの説明分かりやすい。学校の先生に向いてますよ。」

「ありがとう。あやかちゃん。学校じゃ成績優秀でしょ?」

麻里子が尋ねるとあやかは下を向く。

「私学校行ってませんの。」

「あら、その制服は?学校帰りではなかったの?」 

「いえ、これは姉の形見です。」










 あやかが産まれたのは戦前の帝都。まだ戦争が酷くなる前。帝都の御屋敷で父、母、10才年上の姉えりか、そして使用人と暮らしていた。

 昭和11年。あやかが3才の時えりかが高等女学校に入学した。

「おはようございます。お父様、お母様。」

入学式の朝えりかは新しい制服に身を包んで家族の前に現れる。白い丸襟のブラウスに赤いリボンに紺色のジャンパースカート。髪を三つ編みにしている。

「ごきげんよう、あやか」

えりかはへその辺りで手の甲を重ねお辞儀する。それが女学校の挨拶だ。

「えりかお姉様、今の挨拶可愛い。」 

「ありがとう、女学校では皆こうやって挨拶するのよ。」

「ごきげんよう、こう?」

あやかは立ち上がってえりかの真似をする。

「そうよ、上手よ。」

「私も女学校に行ける?」

「ええ、大きくなったら行けるわよ。」

えりかと同じ制服を着て女学校に行く。それがあやかの夢だった。



「それでね、今度お姉様が遊びに来たいって言うの。いいかしら?」

ある日の夕食の時えりかが家族に提案する。

「お姉様は一番上でしょ?お姉様なんていないはずよ。」

「うふふ、あやかったら。」

えりかは教えてくれた。お姉様とは血の繋がった姉ではない。女学校では上級生と下級生が特別仲良くなることを英語のsisterの頭文字をとってエスというのだ。

「下級生は上級生の事をお姉様と呼ぶのよ。」

「お姉様のお姉様はどんな方ですの?」

「3年生で絵が上手な方よ。私をモデルに絵を描きたいそうよ。」

「いいな、」

「ならあやかの事も描いてもらえるように頼んでみるわ。」

「やったわ!!お姉様と一緒に描いてもらいたい!!」

あやかはえりかから聞く女学校の話に胸を躍らせてた。お姉様の事、ごきげんようの挨拶、それから礼拝堂でのお祈り。

 しかしえりかが女学校の最上級生になった時自体は急変した。




「お姉様、いつもの制服はどうされたのですか?」

丸襟のブラウスも赤いリボンも紺色のジャンパースカートもない。無地のブラウスにモンペを履いていた。








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