後日談
「お姉ちゃんごきげんよう、また来るね。」
「ごきげんよう。」
チャイナドレス姿のあやかは母親と娘の客を見送る。
昭和24年。
あやかはミッション系の女子校には進学せず麻里子と2人で女性限定の中華料理店を始めた。麻里子の自宅を改装して。「ごきげんよう」の挨拶先ほどのよぅに親子での来店も多く子供は無料で食事を提供している。
「あやかちゃん」
奥から麻里子が出てきた。
「少し早いけどお店しめようか。」
「はい」
「それにしても良かった。あやかちゃんにぴったりのがあって。」
あやかの着てるチャイナドレスは麻里子からもらったものだ。店内の壁に飾られた姿見に淡いピンク色のチャイナドレスの自身が写っている。
「あやかちゃん」
麻里子が傍に来て取れかかった髪飾り直してくれる。
「こっちのが可愛いよ。」
再び姿見を見ると顔を真っ赤にした自分が写っている。
「からかわないで下さい。」
あやかが店の前の看板をしまおうと入り口へと向かう。
「ごきげんよう」
あやかが扉を開けようとすると身なりのいい女性が立っていた。
「空いてます?」
「はい、どうぞ。」
女性が店に入る。
「千鶴子ちゃん?!」
麻里子は女性を見るなり名前を呼ぶ。
「お兄様?!生きていたのですか?!」
女性は麻里子と面識があるようだ。
「お兄様、こちらの方は?」
あやかが小声で尋ねる。
「あやかちゃん、洗い物お願いしていいか?」
麻里子はあやかを厨房へと行かせる。店内には麻里子と千鶴子ちゃんと呼ばれた女性が残された。
「千鶴ちゃん、座って。」
麻里子は千鶴子のテーブルに水を出す。
「またお店始めたのね。」
千鶴子は店内を見渡す。
「ああ、女性限定の中華料理店を。」
「女性限定って。男嫌いなお兄様らしいわ。シャンデリアに、店内の内装まで東興楼と一緒だわ。日本軍の将校が来た時にはお兄様が水かけて追い出した事もあったわね。」
東興楼と麻里子がまだ芳子であった時天津で経営していた中華料理店だ。千鶴子は秘書、そして芳子の妻として一緒に店で働いていた。
「東興楼か、懐かしいな。千鶴子ちゃん、あの時本当にごめん。」
麻里子が千鶴子に頭を下げる。
「僕も本当は千鶴ちゃんといたかったんだ。だけど堕落した生活を送った僕なんかより千鶴ちゃんに相応しい人はいると思って半ば強引に結婚を勧めたんだ。」
「お兄様、顔をあげて下さい。私も生涯をお兄様と共にしたかった。でも今は後悔してません。夫は独立して会社を立ち上げ一番上の子は今年私立の小学校に入りました。」
「そうか、良かった。」
「私もお兄様が元気そうで良かったわ。」
千鶴子は立ち上がる。
「入り口まで送って行くよ。」
麻里子は千鶴子に羽織ってきたトレンチコートをかける。
「構わないわ、あの娘。新しい女の子でしょ?」
店内にはいつの間にか洗い物を終えたあやかが立っていた。
「あやかちゃんはただの従業員だ。」
「隠さなくていいのよ。だってお兄様って。あやかちゃんだっけ?」
千鶴子はあやかの方を向く。
「この人はね、気に入った女の子にお兄様とかお兄ちゃんって呼ばせるのが趣味なの。お兄様の事好きなら離しちゃ駄目よ。」
千鶴子は店を出ていく。
「看板下げてきますね。」
あやかは俯いて外に出ようとする。
「待って!!あやかちゃん。」
麻里子が腕を掴む。
「あやかちゃんは僕の事好きか?」
「なんですか?!いきなり。」
「答えてほしい。僕の事好きか?」
あやかは顔を赤く染めたままゆっくりと頷く。
FIN
今回は友情がテーマだったので友達からエス、そして恋人になる過程を書いてみました。
芳子様が東興楼で日本軍に悪態ついたのは舞台の設定から取りました。




