年上の友達
昭和23年9月 長野。
「お待ちなさい!!ジョセフィーヌ!!」
あやかは全速力で走る自分の犬のリードを掴むが引きずられるように走っていく。
「もう、待ってったら!!あっ」
ジョセフィーヌに着いていけなくなったあやかはうっかりリードを離してしまう。
「待って!!ジョセフィーヌ!!」
ジョセフィーヌはリードを付けたまま走り去って行く。それを追いかけるあやか。
「ちょっと!!」
ジョセフィーヌは民家の敷地へと入っていく。
「大変だわ、人様の家なんて入ったら?」
あやかは敷地へと入り玄関のベルを鳴らす。
「すみません!!」
あやかが呼ぶが誰も出てくる気配はない。家主は留守なのだろうか?あやかが再びベルを鳴らしたがやはり返事がない。仕方なく帰ろうとした時
「ごめんなさい。お待たせしちゃって。」
中庭の方から淡い黄色い着物に髪を結った中年の女性が現れた。年の功は40代前半ぐらい。あやかの母より少し若いくらいだ。彼女はジョセフィーヌのリードを掴んでる。
「あの私の犬がご迷惑おかけしました。」
あやかは女性に取材してジョセフィーヌを連れて帰ろうとする。
「この娘貴女の犬?」
「はい。」
あやかが女性からジョセフィーヌを預かろうとするがジョセフィーヌは女性の着物を掴んで離さない。
「ジョセフィーヌ、おやめなさい。」
ジョセフィーヌは尻尾を振って女性の頰を滑る。
「構わないわ。私も昔犬を飼っていたから。」
女性はジョセフィーヌの頭を撫でる。
「ジョセフィーヌが家族以外の人に懐くなんて。」
ジョセフィーヌは人見知りで家に来客が来た時ですらすぐ吠える。初めてあやかの家に来た時もあやかに大声で吠えて泣かされた。初対面の人に好意的な態度を示すのは初めてだ。
「ジョセフィーヌちゃんって言うのね。お友達になれて嬉しいわ。」
ジョセフィーヌは尻尾をまだ振っている。
「良かったら家上がっていかない?」
女性があやかに提案する。
「でもご迷惑ではないでしょうか?」
あやかが誘いを断ろうとするがジョセフィーヌが首を横に振る。断らないでと言うように。
「分かったわ。少しだけよ。」
「じゃあ決まりね。」
あやかはジョセフィーヌと共に玄関から上がらせてもらう。リビングに案内され女性がお茶を入れてくれる。
「そう言えばまだ聞いてなかったわね。名前。」
「ジョセフィーヌです。私が付けたんです。」
「ふふふ、」
女性が突然吹き出す。
「貴女の名前よ。せっかくお友達になれたのだもの。名前も知らないなんて呼べばいいのよ?」
「あやか、白川あやかです。」
「あやかちゃんね、貴女面白いわね。私は麻里子。梶原麻里子よ。宜しくね。」
「はい。」
あやかは麻里子が差し出した手を取ると満面の笑みを見せる。