第8話:帝都より“正義の討伐者”現る。ゆかり、指名手配される
──帝都、騎士団本部。
「諸君! これは重大な国難である!」
王直属の討伐騎士団長、カーレン・ストラウスが高らかに声をあげた。
緋色のマントに鋼の鎧を纏い、どこまでも真っ直ぐな目を持つ若き騎士。
彼は民衆のために剣を振るい、誰よりも“正しさ”に忠実な男だった。
「辺境にて反乱勢力が発生。王軍の部隊を退け、私兵を集め、
いまや軍事拠点と化しているとの情報が確認された!」
側近の一人が手元の書類を掲げる。
「香風の君──本名、ユカリ=カザミ。元侯爵家令嬢にして追放者。
現在、辺境で“軍団”を率い、独自の宗教的活動と軍備を進行中」
「なんてことだ……やはり、“あの事件”から歪んでしまったのか……」
カーレンは悲痛な顔をした。
「だが、私は信じたい。彼女に“悪意”などないと。
だからこそ、私が正しく導かねばならない!」
周囲は感嘆と拍手に包まれる。
彼の“誤解と正義”が、強大な力を持ち始めていた。
──その翌日、帝都の街角には新たな手配書が貼られた。
【王国告示】
名:ユカリ=カザミ
罪状:国家秩序の破壊、非公式武力結成、禁呪疑惑、精神支配疑惑
討伐騎士団による制圧命令が発布されました。
民衆の通報を義務とする。
──そして辺境。
「……へ、手配書……?」
手配書を手にしたゆかりは、力なく座り込んだ。
「なんでやねん……ほんまに、なんでやねん……! うち、なんもしてへんて……!」
ラフィーナがやって来て、紙を食い入るように見る。
「“禁呪疑惑”って書いてある! やっぱり“しんどい”は精霊呪詛だったのね……!」
「ちゃうわアホォ!!」
グレイも紙を手にしながら、難しい顔をしていた。
「我々の行動が、帝都に届いたのは間違いありません。
いずれ討伐隊がこちらに向かうでしょう」
「待ってや……戦うつもりなんて、あらへんのに……!」
だが、もはや周囲の人間たちは“戦姫”を信じ切っていた。
「戦姫様、恐れず進まれよ。我らが剣となり、盾となりましょう」
「討伐騎士団? かかってこいや! 戦姫の“ため息”一つで灰になるぞ!」
「ちゃうてぇぇぇええ!!」
──その夜。
屋敷の塔の上、ゆかりは星を見上げながら、ぼそりと呟いた。
「……せめて一人ぐらいでええから、“誤解せぇへん”人、現れてくれへんかな……」
だが運命は、まだ彼女に優しくはなかった。
翌日、カーレン・ストラウスが率いる討伐騎士団は、ついに辺境へと出発する。
その胸には、
「元令嬢を“正義の力”で更生させる」という、強烈な使命感を灯して──。