第24話:戦姫の軍、進軍す ― 国家分裂戦線
──帝都議会、臨時国政会議。
「本当に戦姫を“地方代表軍司令官”に据えるのか!?
もはや象徴ではない、軍事の実権だぞ!」
「だが現実に、地方は“戦姫ゆかり”に忠誠を誓っている!
あれはもはや、帝国から切り離せぬ“大義”だ!」
「ならば国家は──“戦姫派”と“王都派”に割れるぞ!」
──そして、それは現実となった。
南部の諸領主、東方の山岳教区、都市民兵団体《しんどい者の会》──
ゆかりの言葉に救われた者たちが自発的に軍を組織し、
“香風戦姫軍”として蜂起を始めた。
そして中央王政は、ついに布告を出す。
『香風ゆかりを、“地方独立軍司令官”に指定。
ただし、王都進軍・軍事行使の一切を禁ず。』
──これが、「国家分裂宣言」だった。
──香風屋敷・作戦室。
「……戦わんでもええんやったら、それに越したことないけどなぁ」
ゆかりは、軍服を着てそう呟いた。
腰にはまだ鞘入りのままの剣。
しかし、机上には全国地図、軍の編成表、そして、食料の分配表。
「我々の任務は“進軍”ではなく、“庶民の命”を守ることだ」
グレイが静かに補足する。
ラフィーナは小声で問う。
「ゆかり様……本当に、戦うおつもりはないのですか?」
「うち、剣は抜かん。けど、進むで。
誰かが“ここにおる”って見せなあかんからな」
──その日、“香風戦姫軍”は進軍を開始した。
目的地は、帝都南方・ヴァルト峡谷。
そこには、王都軍の元将軍ノワール=ヴァルトが籠る“正統派王政軍”が陣取っていた。
──その夜。
軍の野営地にて。
焚き火を囲んで、少女兵たちが小さな香を焚いていた。
「これ、ゆかり様の“演説録”を香にしたやつです。
“今日もしんどい”って書いてあって、嗅ぐとちょっとだけ前向きになるんです」
ゆかりは、その煙に目を細める。
「香にまでされるとは思わんかったわ……。
けど、ほんまに、しんどいもんはしんどいなぁ」
──そして翌日、ヴァルト峡谷。
ついに、対峙する二軍。
王都派軍は整然とした鎧騎士。
戦姫軍は、平服に剣、槍、鍬を握る百姓たち。
その差は歴然だった。
ノワール=ヴァルト将軍が現れる。
整った顔、白銀の鎧、威厳を纏った巨人のような男。
「お前が“神の代行者”か。失望したな。
この程度の軍で、国家を語るとは」
ゆかりは前に出る。
「うち、神でも代行者でもない。ただの“しんどい女”や。
せやけど、あんたに殺されかけた民が、こうして立ち上がったんやで」
ヴァルトは鼻で笑った。
「ならば見せろ。“しんどい”だけで国家を動かす力を」
「そんなもん、見せるつもりなんてあらへん。
けど──見たくないのに見てまうのが、“人の生き様”やろ?」
──号令がかかる。
双方の軍が、じりじりと前進を始める。
だがそのとき――
「砲撃、来ますッ!」
山上から、伏兵による攻撃が始まった。
しかも、その砲門の狙いは戦姫軍ではなく――王都派の後方支援車列。
「……な、なぜ!? 我が軍を撃っているのは、誰だ!?」
直後、山中から別部隊が現れる。
赤い旗。中央に《X》の紋章。
「革命派だ……っ!?」
事態は急転直下。
**第三勢力“革命軍”**が現れ、戦姫軍・王都軍双方を狙い始めた。
その瞬間、ゆかりは剣を引き抜いた。
「──あかん、もう“しんどい”言うてられへんわ。
……守らな、あかん人らが、ほんまに死んでまう」
香風ゆかり、初めて抜刀す。
その刃は、戦うためではない。
人を斬るためではない。
誤解と暴力と革命と権力の交差点で、
“自分の言葉”を取り戻すための剣だった。




