表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/25

第23話:聖女審問会と沈黙の十字架

──帝都大聖堂、聖審問の間。


重く閉ざされた石造りの空間。

天井からはステンドグラスを透かした神光が差し込み、

中央には、ひとつの椅子が据えられていた。


 


「異端か、神か」


 


審問官が口にしたのは、ただそれだけ。

ゆかりは、その椅子に一人で座る。


 


列席するのは、聖女エレナ、帝都枢機卿団、各国代表。

傍聴席には、王家、民間代表、そして全国中継の魔術映像。


 


“世界が見ている”。


 


──審問の第一問。


 


「貴女は、自身が“神格”であると認識していましたか?」


 


「してへん。うちは“しんどい”ゆうただけや」


 


「では、その“言葉”によって人々を導いたことを、否定しますか?」


 


「否定はせぇへん。けど──“導いた”やなんて、そんな立派なもんやない」


 


「貴女の言葉が国境を越え、民族を癒し、宗教を揺るがした。

 それでも、ただの“しんどい”と?」


 


「そうや。“生きるのがつらい”って言うのに、肩書きも奇跡も要らんやろ?」


 


──審問官は眉をひそめる。


エレナが静かに前へ出た。


 


「ならば、問います。

 もし“貴女の言葉”で戦争が起きたら、どう責任を取るのですか?」


 


ゆかりは、少し目を伏せて答えた。


 


「責任は取られへん。うちは人や。

 けど、その言葉を止めたら、救われへん人もおるやろ?」


 


「“神の言葉”は万能であれ。“人の言葉”は責任を負え」

エレナの声が、厳かに響いた。


 


「その矛盾こそが、“神格の危険”なのです!」


 


「ほな、あんたが望む“安全な言葉”ってなんや?

 “誰も傷つかへん言葉”なんか、ほんまに存在すんのか?」


 


「──存在しません」


 


その答えは、エレナの口から出た。


 


会場がざわめく。


エレナはゆっくりと語った。


 


「存在しない。だから私は、神の器として“無”で在ろうとした。

 けれどあなたは、“誰かの痛み”をそのまま語る。

 その違いが、あなたを“危うい神”にしたのです」


 


ゆかりは小さく笑った。


 


「せやろな。でもな、エレナさん。

 それでもうちは、あんたより──ちょびっと“人間の味方”やったんかもしれへんで」


 


──その言葉に、エレナは初めて、返す言葉を失った。


 


──そのとき、後ろの席から声が飛んだ。


 


「戦姫様は神やない!

 けど、うちらに“しんどいって言ってええ”って教えてくれた、初めての大人や!」


 


「俺の弟は、戦姫様の言葉で自殺やめたんや! 誰がなんと言おうと、うちの神や!」


 


「そんなん、神やなくて“希望の言葉”やろ!」


 


 


──聖堂中に、ざわめきと涙の声があふれた。


審問官が叩く。


「静粛に!」


 


しかし、止まらない。


“誰かの声”ではなく、“みんなの声”が、

ゆかりの存在を“正解でも否定でもない場所”に押し上げていく。


 


エレナがふっと笑った。


 


「……やはり、貴女は“神”にはなれないのですね」


 


「そらそや。うちは“ただのしんどい女”や」


 


「──でも、その言葉で、どれだけの人が救われたか」


 


 


──判決は、下された。


 


「香風ゆかり、神格・異端いずれにも非ず。

 すなわち、“人の言葉を語る、ただの者”なり」


 


 


──その夜、ゆかりは屋敷の縁側で、一人風を感じていた。


そこへ、ミリアムが小さな菓子を持ってくる。


 


「お疲れ様でした。これ、落雁らくがん。“神様にあげるやつ”ですけど、

 ……今日は、あなたに食べてほしくなって」


 


ゆかりは少し笑って言った。


 


「うち、もう神ちゃうからなぁ。……けど、食うわ。甘いのは、ええなぁ」


 


 


──そして、その夜。


帝都を離れたとある男が、深い森でつぶやいた。


 


「“人の言葉”が神を超えたか──

 さあ、次は“人の兵”が、国を超える番やな」


 


その男の名は、“将軍ノワール=ヴァルト”。


次にゆかりの軍団が直面するのは──国家分裂と、

“戦姫の軍”による内戦だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ