第22話:そして神殺しは始まる
──帝都・香風の屋敷前。
朝も早くから、詣でる民の波。
花、言葉、祈り、そして──混じる違和感。
「戦姫様!“今日もしんどい”を唱えれば試験に合格しました!」
「戦姫様!“二度寝は尊い”の御言葉を朝礼で使いました!」
まるで、何かを“信仰”するような空気。
──そんな中、
警備の兵が、ひとりの少年を制止した。
「その袋の中、見せろ」
「……嫌や!」
叫んで、飛び出した。
その手には短剣。
目は、狂気ではなく“正義”の光で満ちていた。
「神を──偽りの神を、殺さなあかんねや!!」
その声は、遠くまで届いた。
ゆかりは、音に気づいて、扉を開いた。
──その瞬間。
刃が、風を切った。
「――ゆかり様ァァ!!」
駆け込んだのは、ラフィーナ。
彼女が盾になる形で、腕に傷を負った。
少年はすぐに取り押さえられた。
だが、その場に立ち尽くすゆかりの耳には──
誰かが呟いた一言が、はっきり届いていた。
「……やっぱり“神”には、血が似合うな」
──医療室。
ラフィーナの傷は浅く、命に別状はなかった。
けれど、ミリアムもグレイも、そして帝都中が凍りついていた。
「戦姫様暗殺未遂」──その言葉が、独り歩きを始めた。
民衆は憤った。
「神を刺した少年は悪魔だ」
「しんどい者の会を侮辱した者は、地獄へ落ちろ」
「戦姫様を讃えぬ者は、人に非ず」
誤解は、狂信を生んでいた。
──香風ゆかりは、一人で広間に立っていた。
椅子に座るでもなく、剣を握るでもなく、ただ黙って。
そこへ、あのエレナが現れる。
「……あなたが“神”でないことは、今や誰も信じません」
「せやなぁ……うち、もう誰にも“ただの人間や”って言えんのかもなぁ」
「信仰とは、恐ろしいものです。
時に、言葉すら持たぬ者に、世界を変えさせてしまう」
「けど、エレナさん。あんたは、それを“止められる”言葉を持っとるんやないの?」
エレナは、ほんの一瞬だけ目を伏せる。
「──そう。だから私は、“あなたを処す”ために来ました」
「処す? なんやそれ、うち、裁かれるん?」
「《聖女審問会》が明日、帝都教会で開かれます。
議題は、“香風ゆかりは神か、異端か”。
世界にあなたの在り方を、問う時です」
ゆかりは、しばらく黙っていた。
「──ほな、行こか。全部言うたる。うちのこと、ぜんぶ」
その声には、恐れも怒りもなく。
ただ、“本当に言いたいこと”がそこにあった。
──その夜。
帝都の路地裏、火が灯る。
《戦姫正教》なる名を掲げた新興組織が、
“次こそは成功させる”と刃を研いでいた。
対する《聖女派》は、「戦姫は神の座を盗んだ」と断罪を準備していた。
世界は、ゆかりという“ただの少女”を巡って、
神話と戦争の狭間へ向かっていた。




