第21話:神を継がぬ者へ ― 戦姫の父の手紙
──帝都・香風の屋敷、深夜。
ゆかりの手には、分厚い封筒。
差出人の名はただ一行──
『カザミ・キョウスケ(父より)』
ミリアムも、ラフィーナも息を飲んで見守る中、
ゆかりはその封を静かに開いた。
中には、古びた羊皮紙の手紙と──ひとつの“記録水晶”。
まずは手紙を。
『ゆかりへ。元気でおるか。
こんな形でしかお前に真実を伝えられんこと、父としてすまん。
けれどこれは、お前がこの先、“誰かの神”にされるより前に知っておいてほしい話だ。』
──“父”からの語りは、こう始まった。
──回想。十六年前。東方辺境・カザミ村。
戦乱で焼かれた村の廃墟の中、
ひとりの赤子が泣いていた。
神官でもない、聖職者でもない。
ただの元・戦場医だったカザミ・キョウスケは、その子を拾った。
それが、香風ゆかり。
『お前は、聖女でも神の器でもない。
ただ、戦場の中で──“奇跡的に助かった”赤ん坊だった。』
戦乱の最中、母も父も名も分からぬその子は、
屍の山の中で、ただ一人生きていた。
『あのとき、わしは思ったんだ。
“生きとるだけで奇跡”って、こういうことかと。』
そして彼は、ゆかりに“香風”の姓を与え、
“京都”から持ってきた言葉を教え、
丁寧に育て上げた。
『せやから、お前が“誰かに信仰される”ような器やって言われても、
わしはよう信じられへん。あの時泣いとっただけの、お前やったからなぁ』
『でも、今のあんたが“誰かを救ってる”のなら──
それはもう、“神やないただの人”でもええんとちゃうか。』
──手紙は、そこで終わっていた。
ゆかりは、しばらく黙っていた。
ラフィーナも、ミリアムも、声をかけられない。
「……うち、やっぱりただの拾われっ子やったんやな」
けれど、その言葉には、涙も怒りもなかった。
「せやけど──」
そっと水晶を起動する。
そこに映ったのは、幼いゆかりを笑顔で抱く父の姿だった。
『“お前が生きてるだけで、もう十分や”──
あのときのお前に、そう言うたんや。今でも、ほんまにそう思うてるで。』
ゆかりは、少しだけ笑った。
「うち、やっぱり誰かに“しんどいって言うてええ”って教えてもろてたんやな」
──翌朝。
屋敷の前には、再び人の波。
けれど、その中に──“ゆかりを神として国家に据える”という過激派の姿が見え始めていた。
そして、その混乱の中──
ある少年が、ナイフを持って屋敷に忍び込もうとしていた。
その背中には、“正義”の二文字。
──それは、「偶像を神とするなかれ」と教え込まれた、ある村の少年だった。
物語は次なる局面──
“神にされそうになった少女”が、“信仰に殺されかける”という皮肉へと進んでいく。




