第18話:《誤解》と《真実》の狭間で揺れる世界
──帝都・王都中央広場、臨時演説台。
「これより《戦姫に関する国際立場会合》を開始します」
重厚な声が会場に響く。
並ぶのは、帝国、王国、東方連邦、南部自由都市同盟──
計八ヶ国の代表者たちと宗教指導者、外交官。
彼らの議題は一つ。
『香風の戦姫 ユカリ=カザミ を“世界的信仰象”としてどう扱うか』
各国で“しんどい”がスローガンとなり、
外交官が“ゆかり語録”を学ぶ始末──
「信仰か、思想か、それとも新たな災厄か──」
“誤解”は、いまや国家戦略の一部に変貌していた。
──香風の屋敷。
書状の山、面会要請、貢ぎ物──
ラフィーナが嘆く。
「戦姫様、ついに外交儀礼に“しんどい枕”が正式採用されたようです……」
「なんやそれ、うちは座布団かなんかか!?」
ゆかりは頭を抱える。
「もうあかん、ほんまに“自分の言葉”がどっか行ってもうてる気ぃする……」
だがそこへ、グレイが一通の書簡を差し出す。
「これは、帝都南部の孤児院から。内容は──
“戦姫様の言葉で生き方を変えた。もう誰にも否定させない”」
「誰にも──否定させない……」
ゆかりは、そっと胸に手を当てた。
「せやな……うちの“しんどい”は、うちが一番大事にせなあかんのやな……」
──その夜。屋敷の外に、あの金髪の少女が再び現れる。
“本物の聖女”──エレナ。
「ご無沙汰しております、“戦姫”様」
「……今度は何しに来たん? うちの“信仰”でも否定しに?」
「いえ。今日は、“幕引き”の通達を持ってきました」
「幕引き……?」
「あなたの“神格”は、もはや制御不能です。
これ以上の拡大は、宗教戦争に発展しかねません」
「──だから、あなたには“退場”していただくしかない」
ゆかりは、しばらく黙っていた。
やがて、言った。
「ほな、うちに訊かせて。
“神格”って、誰が作ったん?」
「民です。あなたに救いを見出した者たちが、勝手に……」
「ちゃう。ほな、“民が作った神格”を、なんであんたらが勝手に終わらせようとすんの?」
エレナがわずかに目を見開く。
「……あなたは、“自分が神ではない”と知っていて、なお話すのですか?」
ゆかりは、ゆっくり頷いた。
「うちは神やない。けど、誰かにとっては“話すだけで救われた人間”やったんやろ?
それ、うちが勝手に否定したら──その人ら、どうしたらええん?」
「うちはな、“信じてくれた人”のために、これからも喋る。
“うちの言葉”で、“うちの声”でな」
──エレナは、しばらく無言のまま立ち尽くした。
そして小さく、微笑んだ。
「……やはり、あなたは“戦姫”ですわね」
「ならば、“最後の審判”を開きましょう。
聖女と戦姫、どちらの言葉が“本物の希望”か──世界に問う時です」
──そして、翌朝。
王国評議会、帝都大劇場──
各国中継付きの《聖戦演説会》の開催が決定される。
世界中の耳が、二人の“希望の担い手”に注がれようとしていた。




