第16話:“希望の継承権”と、ゆかりの決断
──帝都、王都広場。
ある日を境に、広場では連日“討論集会”が開かれていた。
「ワイは“聖女エレナ”様に一票や! 本物の奇跡を見せてくれはった!」
「戦姫様の“しんどい”で生き方変わったんや! わしはユカリ派や!」
声なき者たちが、次々に旗を掲げていく。
そしてそれは──まるで“神の座”を決める選挙のように様相を変えていく。
『希望の継承権』──
誰が、未来の導き手となるべきかを民が決める、非公式の“信仰選別”が始まった。
──香風の屋敷。
窓の外に見える騒ぎを、ゆかりは静かに見つめていた。
「うち、なんでここまで来てもうたんやろな……」
ミリアムが穏やかに言う。
「あなたは、言いました。“うちはしんどい”って。
それが、誰かの希望になってしまっただけです。善悪ではありません」
「でも、“希望の代表”とか、そういうの……うちには重すぎるわ……」
ゆかりは、しばらく沈黙していた。
──と、その時。
「失礼します!」
少女の声が玄関から響いた。
現れたのは、十歳前後の小さな女の子。
袖口に王都の孤児院の印をつけている。
「わたし、“戦姫様”にお礼が言いたくて来ました!」
ゆかりは戸惑いながらも、少女を迎えた。
「お礼って……うち、なんかしたっけ?」
少女は、手にしわくちゃになった紙を差し出す。
そこには、ゆかりの“しんどい”発言が丸写しにされていた。
「この言葉、先生がくれて──
みんなで“しんどい”って言っていいって知って──泣いて、笑って、元気になったの」
「……だから、わたしは、“戦姫様”が好きです! 偽者でも、なんでも!」
ゆかりの手が、ゆっくりと震えた。
「……うちが、喋ったせいで──こんなことになったのに……」
「ううん! 喋ってくれたから、助かったんだよ!」
その言葉に、ゆかりはふっと目を細めた。
「……せやな。“しんどい”て言えたから、ここまで来たんやもんな」
そして立ち上がる。
「──うちは、もう黙らへん」
「たとえ、誤解されても、笑われても、
“希望になれ”言われても、なれんでも──
うちは、“うちの言葉”を、ちゃんと話していく」
ラフィーナが涙ぐみながら、背中に声をかけた。
「……それが、私たちの戦姫様です!」
──こうして、ゆかりは再び“語る者”として立ち上がった。
だが、その“言葉”を阻む者もまた、動き出していた。
“偽りの希望を許すな”──
《反戦姫連合》が、次なる手段として「暗殺者」を手配し始めたのである。
そしてその夜。
屋敷の上空に、一つの黒い影が舞い降りる──




