第15話:“聖女”と“戦姫”──世界の希望はどちらか
──夜明け前。香風の屋敷。
その庭に、ひとりの少女が佇んでいた。
淡く輝く金髪、透き通るような肌、そして手には“聖印の短剣”。
「……おはようございます、“戦姫”様。はじめまして。わたくし、“聖女エレナ”と申します」
静かに微笑むその少女に、ゆかりは眉をひそめた。
「なんや朝からテンション高い子が来たな……て、ん? 聖女?」
「ええ。王国正教本山より派遣されました。
“混乱を導く偽りの導き手”──あなたの処遇を定めに来たのです」
「え、処遇? うち、まだなんもしてへんやろ……?」
「いえ、してます。あなたは“言葉ひとつ”で、百の魂を揺らしました。
その力は“奇跡”ではなく、“錯覚”。ゆえに、わたくしが正すのです」
──そのやり取りに、軍団の者たちも集まり始めた。
グレイ、ラフィーナ、ミリアム──誰もが警戒の視線を聖女に向ける。
「戦姫様を否定する権利など、誰にもありません」
「あなたが“聖女”だと名乗るなら、証を見せてもらいましょうか」
エレナは静かに手をかざすと、指先から淡い光を放った。
それは見る者の心を浄化する“癒しの奇跡”。
──そしてその瞬間、傍らの兵士が涙を流して膝をついた。
「……この感覚……幼い頃、教会で感じた“光”と同じ……」
騒然とする一同の中、ゆかりはただ、ぼんやりと呟いた。
「……なんか、あかん方向にすごい子きてもうたなぁ……」
だが、エレナは続ける。
「わたくしは、あなたを傷つけには参りません。
ただ、“退場”を願いにきたのです。“真の救い”のために」
「そない綺麗な言葉で、だいぶえげつないこと言うてるなぁ……」
「あなたは、“希望を演じること”に疲れている。
だからこそ、わたくしが引き受けます。もう、あなたは喋らなくていいのです」
その言葉に、ラフィーナが怒りを爆発させた。
「違います! 戦姫様は“演じてる”んじゃない!!
本当に悩んで、しんどくて、それでも人の前に立ってるんです!!」
エレナは微笑を絶やさぬまま、少しだけ目を伏せた。
「それが、余計に罪深いのです。あなたは“罪なき者”として、無垢を盾に希望を壊す」
──その後、エレナは一言も告げず立ち去った。
「また、正式な場にて──“希望の座”をかけてお会いしましょう」
ゆかりは、誰にも背を向けずに立ち尽くしたまま、小さく呟いた。
「……なんか知らんけど、“希望の総選挙”はじまってもうた気ぃするわ……」
グレイが静かに言った。
「この国の“信じたいもの”が、試される時が来たのかもしれません」
──そして帝都では、その日の夜──
「“聖女”が、香風の戦姫を否定したらしい」
「……どちらを信じるべきか、“国民投票”でも始まるんか?」
「いや、戦争やろ──信仰と誤解の、ほんまもんの戦争が」
静かに、確実に、世界はふたつに割れ始めていた。




