第14話:“信じる者”たちの反旗と、反戦姫連合の成立
──帝都・第八区、古書店の地下。
蝋燭の灯る狭い地下室に、十数名の者たちが集っていた。
「……あの人の言葉に、救われた者は、私だけじゃないはずです」
そう語ったのは、
元帝都魔術学院・言霊術科の助教授ナリア=ミース。
彼女は評議会でのゆかりの発言に心を打たれ、ひそかに“記録魔法”で全文を保存していた。
「“しんどい”って、言っちゃいけないと思ってた。でも、言ってもええんやって……」
彼女の声に、周囲の者たちも深く頷く。
「戦姫様の言葉で、わしの娘が笑ったんじゃ。あんたが“災厄”なんて、絶対ウソじゃ」
「誤解だってええ……信じたいんや。あの人を」
こうして──密かに組織されたのが、
帝都地下活動団体《白百合の誓い》。
“言葉の力で世界を変える”と信じる者たちによる、ゆかり支持派の核となる組織である。
──その一方、王城の会議室では。
「ここまで来たら、もはや個人の問題ではない。
香風の戦姫は、“国家を狂わせる呪詛”であると認識すべきだ」
騎士団長の一人がそう断じた。
周囲には、評議会でゆかりの“発言”を危険と見なした者たちが揃っている。
「“言葉ひとつ”で軍を動かすなど、ありえぬ。あれは魔性の支配だ」
「何より、民の多くが彼女の発言を“自分のもの”と重ねてしまっている。
それが国を揺るがす炎になる前に、消さねばならぬ」
「ここに、“反戦姫連合”の発足を提案する。
王国、帝国、そして他国に呼びかけ、ゆかりを“思想災害”として共に討つのだ」
──名を《深紅の盾》。
こうして、ゆかりという“象徴”は、
善悪の区別なく、理想の投影先として世界に広がり始めていた。
──そして、香風の屋敷。
「ふぁぁ……なんか最近、やたら人増えてへん?」
「はい。帝都方面からの“保護希望者”が連日来ております」
「なにそれ……うち、なんか“解放軍の女神”みたいな立ち位置なってへん?」
グレイは静かに書状を手渡す。
「戦姫様宛に、帝都から届いた“支援表明書”です。
地下組織《白百合の誓い》より、忠誠と連携を求める旨が記されています」
「なにそれ……やっぱうち、なんかあかん方向に伝説なってへん?」
ラフィーナは頬を赤らめて、嬉しそうに叫んだ。
「ついに来ましたね! “語りかけるだけで革命を起こす戦姫”!!」
「ちがう、うちはただ静かに生きたいだけやって……!」
だが、それはもはや“許されない夢”になりつつあった。
世界は、彼女を通して希望を見ようとする者と、
彼女の存在を脅威とみなして消そうとする者に、
分かれ始めていた──。
──そして、夜。
香風の屋敷の裏手、誰にも気づかれぬ場所に、一人の影が立っていた。
「……ようやく、お前に辿り着いたわ──“ユカリ=カザミ”」
月光を背に、優雅に笑う金髪の少女。
その手にあるのは、刻印入りの“聖印の短剣”。
「次は、“本物の聖女”の登場や──“嘘の戦姫”には、そろそろ幕引きしてもらおか」
──その存在が、誤解の最終章を加速させていくことになる。




