第13話:言葉の力、誤解を裂くか繋ぐか
──帝都、王城評議の間。
十二名の諸侯と王族、王直属の騎士団長たちが居並ぶ中、
「香風の戦姫」ユカリ=カザミが中央の席に立たされた。
周囲には重厚な石柱と観覧席、傍聴人は百名を超え、会場は緊張に包まれている。
「では、開始する──香風の君。ここに王国評議会、開廷とする」
司会役の老臣が開会を告げると、
中央の審問者席から次々と質問が浴びせられる。
「まず尋ねる。軍を持ち、帝国騎士団を打ち破ったのは、あなたの意思か?」
「え、いや、うちは……“しんどい”言うたら、勝手にみんなが──」
「“しんどい”が暗号かッ!」
「やはり呪言説は真実であったか!」
「いや違うて言うとるやろがぁぁ!!」
会場にどよめきが走る。
周囲は真顔で騒ぎ、傍聴席もざわつき始めた。
次に問う者が現れる。
「あなたは、王国に敵意があるのか?」
「そらあるわけないやろ! うちはただ、静かに暮らしたかっただけで──」
「“ある”と聞こえたが!?」
「言ったぞ今、“そらある”と!!」
「ちょ、前後の文脈無視しすぎやろぉぉぉ!!」
さらに議長席の王族、クラウディオ王子が口を開く。
「だが、それでも君は軍を動かし、帝国をも引き寄せた。
“ただの善意”でそこまでできるものか?」
ゆかりは、ぎゅっと手を握った。
「……せやかて、うちは……誰にも頼まれてへんのに、“戦姫”って呼ばれて、
勝手に信仰されて、勝手に期待されて……」
「けど、それでも誰かが“信じたかった”んやと思うねん。
この国が、“ほんまは変われるんちゃうか”って──」
その言葉に、一瞬だけ場が静まりかけた──
……だが。
「では、最後に尋ねよう」
立ち上がったのは、正義の騎士、カーレン・ストラウスだった。
「君の“しんどい”とは──すなわち、何を意味する?」
その問いに、ゆかりはゆっくりと息を吸って言った。
「しんどいもんは、しんどいんや」
──その瞬間。
観覧席の一部が立ち上がり、号泣した。
「やはり深い……!」
「“苦しみを受け止めた上で、それでも進む者”の覚悟……!」
一方、軍部席ではこう囁かれていた。
「“しんどい”=“覚悟を問う死闘宣言”か」
「こりゃ戦争の予告やな……!」
「ちがぁぁああああう!!!」
だが、ゆかりの声は騒然とした議場に掻き消された。
──そして、議会は混乱のまま終了。
後日「審議継続・保留扱い」とされ、
ゆかりは“帰還許可”を得る代わりに、“監視下での自宅謹慎”という新たな制限を受けることに。
その夜。客間にて。
「うちは……何ひとつ、ちゃんと伝えられへんかった気ぃするわ……」
落ち込むゆかりに、ラフィーナが紅茶を差し出す。
「でも、ちゃんと見てました。戦姫様は、“逃げずに立ってた”」
ミリアムも微笑む。
「あなたの“誤解力”は、もはや芸術の域に達してます。
ここまで来たら──世界の言葉が“あなたに追いつく”方が早いかもしれませんね」
「どんな世界やねん……!」
──そして翌朝。
ゆかりの屋敷前には、新たな手紙の束が届けられていた。
その一通に、こう記されていた。
『私は、あなたの“しんどい”に救われた者です。
どうか、そのまま進んでください。
たとえ、言葉が伝わらなくても──きっと心は、届きます』
「…………」
ゆかりは、それをそっと抱きしめ、呟いた。
「──あんがと」
彼女の“しんどい”は、まだ終わらない。
けれどその歩みは、確かに誰かの救いになり始めていた。




