第12話:招待状と決断の宴。ゆかり、帝都に立つ
──朝、香風の屋敷。
一通の封書が、国章つきの使者により届けられた。
【帝都査問会より通達】
被通達者:ユカリ=カザミ
内容:王国評議会における事情聴取および、意志確認のため、
帝都本庁に出頭されたい。
出頭日:三日後
形式:公開評議会(傍聴含)
出頭を拒否した場合、敵対行為と見なす。
「…………」
ラフィーナは震える声で読んだ。
「こ、これって……要するに“裁判”ってことじゃないですか!? 完全に罠ですよ!!」
「せやな……まぁ、言うなれば“吊し上げ会”やろなぁ」
「それを、なんであんなに丁寧に“招待状”みたいに書くんですか!? 怖すぎる!」
「戦姫様、拒否されるべきかと。出向けば、待つのは処刑台です」
グレイの忠告にも、ゆかりは目を伏せて言った。
「……けど、行かへんかったら、ほんまに“敵”になる気ぃする」
「……それでも、なお行くと?」
「うちは“しんどい”って言うたら、みんなが動いて勝ってもうた。
ほんで、“怖い”って言うても、誰も止まってくれへんようになった」
「…………」
「せやから、せめて自分の口で言うたんねん。
“うちは、戦うつもりなんかない”って──ちゃんと」
ラフィーナが涙目で叫ぶ。
「それで、通じると思うんですか!? 帝都の連中に!?」
「通じへんかもしれん。
でも、逃げてもうたら、うち、自分のことほんまに嫌いになってまうから」
しばしの沈黙の後──
「……なら、護衛として我々も随行します。
行くなら、戦姫様一人にはさせません」
グレイが頭を下げ、ラフィーナも拳を握り締めた。
「うちも行きます! 魔導砲十門ぐらい担いで行きますからね!!」
「いやそれ、“交渉”ちゃうやん……」
──数日後。帝都・王城正門。
ゆかりは、薄い灰色のマントを羽織りながら、城門をくぐった。
その後ろには、グレイ・ラフィーナ・ミリアムらが小規模の随行団を組んでいた。
「見ろよ……あれが“香風の戦姫”だ……」
「言霊で軍を動かすって噂は本当か……?」
街道の両脇には、噂を聞いた市民たちが集まっていた。
彼らの視線は、恐れと敬意と噂と、複雑な感情が混ざっている。
「誤解ばっかやなぁ……」
ゆかりは、ほんの少しだけ笑ってみせた。
──そしてその夜。
王城内の客間にて、密かに一人の人物が現れる。
「これはこれは、噂の“戦姫”殿。
ようこそ、帝都へ──死地へようこそ」
月明かりの中に現れたその男は、仮面をつけた黒装束。
帝国内局の密偵──“影の使者”クロヴァスであった。
「残念ですが、あなたは明日、口を開いた瞬間に“国家への反逆者”として断罪されます。
……それが、“シナリオ”ですから」
「……はぁ?」
「だが、もし──今、我々の傘下に入ると誓うなら。
あなたの命、立場、軍団、すべて“保護”してさしあげますよ?」
クロヴァスは一枚の契約書を差し出した。
だが──ゆかりは、目を伏せてこう言った。
「……“そっち”の台本に乗るぐらいやったら……
うち、自分でコケた方がええわ」
そう言って、静かに契約書を突き返した。
クロヴァスの笑顔は、少しだけ引き攣った。
「……よろしい。ならば、明日の“劇場”でお会いしましょう。
あなたが、“戦姫”である証を、存分に見せていただきます──」
──夜は、深く静かに更けていった。
翌日、評議会の舞台で待つのは、
“英雄か災厄か”──ゆかり自身の最終弁明の時であった。




