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7話 VS盗賊団

商人の荷馬車に乗せてもらい、わたしはようやく辺境近くの村へとたどり着いた。


石積みの低い塀に囲まれた、小さな集落。

背の低い木造の家々が立ち並び、煙突から白い煙がゆるやかに立ちのぼっている。のどかで、素朴で、でもどこか、空気にぴりついた緊張が混じっていた。


『なんか、やけに静かだなー』


イグニがぼそりと呟く。


「……なにかあったのかな?」


商人に礼を言って、荷台から飛び降りる。

広場の井戸で水を汲んでいた村人に声をかけて、さりげなく最近の様子を聞き出した。


「……ああ。最近、盗賊団が出るんだ。もう何件も、家畜や食料を奪われてね……。夜になると皆、怯えて戸を閉めるんだよ」


そう言ってうなだれたその人の顔は、疲労と不安に覆われていた。

わたしは少しだけ空を仰ぐ、西の空には朱色が差し始めていて、太陽が地平に沈みかけていた。


『アメリア、どうするんだ?こいつらも助けるのか?』


イグニが控えめに問いかける。


「うーん、まあ……知っちゃったからには、このまま見なかったふりはできないよね」


急ぎの旅だし、ぶっちゃけ盗賊は怖いんだけど……。

でも、このまま放っておいて、もし誰かが傷ついたら――。そう考えると、足が勝手に止まってしまう。


――仕方ない。人肌、脱がせてもらおうかな。


「わたし、魔法使いなんです。もう少し、詳しく聞かせてもらえませんか?」


わたしの言葉に、村人は目を見開いた。

幼い外見に似合わない“魔法使い”という自己紹介が、信じられなかったのかもしれない。


「……魔法が使えるって、本当かい?」


「はい。盗賊のこと、少しでも力になれたらと思って」


「……そうかい。だったら、話すよ。盗賊どもは、村の北西にある廃坑をねぐらにしてるって話だ」


村人は半信半疑ながらも、盗賊のことを話してくれた。

村の北西にある廃坑――かつて鉱石を掘っていたというその場所は、今は使われておらず、盗賊たちにとっては格好の隠れ家だという。


「今もそこに潜んでるというのは、確かな情報ですか?」


「保証はできないが、村の若い者が夜な夜なそのあたりで焚き火の光を見たって話だ。たぶん……間違いないと思う」


村人の声には不安がにじむ。それだけ、盗賊たちは村にとって脅威だったのだ。


「ありがとうございます。様子を見てきます」


わたしが軽く頭を下げると、村人は心底驚いたような顔をした。


「……あんた、まさか一人で行く気か?」


「大丈夫。わたしには仲間がいるし、隠れて様子を見るだけですから」


イグニたちが小さく『おー!』と胸を張るように光った。村人には見えないのだけど、頼りになる仲間たちだ。


「気をつけるんだよ。あいつら、容赦ないから……」


「はい。暗くなる前に出発します」


わたしは村を出て、小道を北西へと進んだ。

西の空には赤みがさし、影が長く伸びていた。太陽が沈むまで、そう長くはない。


「そろそろ見えてくるはず……」


わたしは足音を抑えながら進んだ。妖精たちも気配を潜め、空気は張り詰めている。


森を抜け、視界が開けた先に、むき出しの岩肌が現れる。

そのふもとには、大きく開いた裂け目のような坑口。かつての鉱山の名残だ。


「あれが……廃坑だね」


岩陰に身を潜め、じっと様子を窺う。

坑口の手前には男が一人、槍を肩に掛けて退屈そうに突っ立っていた。腰には薄汚れた布をぞんざいに巻きつけ、油でべたついた髪を後ろでひとまとめにしている。口の端からのぞく黄ばんだ歯といい、いかにも盗賊といった風体だ。見張りのくせに手元の酒瓶をあおっている始末だった。


近くでは焚き火が赤々と燃え、火の粉がぱちぱちと弾けて宙を舞う。

坑口の奥からは、くぐもった声が幾つも重なって聞こえてきた。数は分からないが、一人や二人では済まない。おそらく、この奥に盗賊団の本体が潜んでいるのだろう。


『うお、けっこう人数いそうだなあ』


イグニが小声で呟く。わたしも無言で頷いた。

正面から突っ込むには少々無謀だが、こちらの存在にはまだ気づかれていない。つまり、先手を取るチャンスがあるってこと。


「見張りを最初に無力化すれば、なんとかなるかも」


そう呟いたわたしに、ティアがそっと寄り添うようにして囁いた。


『わたしが水音で気を引いて、その間にアメリアが背後から気絶させるのはどう?』


「……いい案だね。お願い」


わたしは深く息を吸い込み、意識を集中する。

仲間たちと目配せし、音もなく岩陰を離れた。


――闇が濃くなる前に、決着をつける。


ティアの魔力が静かに揺れた。

坑口近くの水たまりが、ぱしゃりと不自然な音を立てる。


「……?」


見張りの男が首を傾げ、焚き火から腰を上げた。槍を片手に、音のした方へと足を踏み出す。


よし、今だ……!


わたしは岩陰から飛び出し、静かに、しかし一気に距離を詰める。

男が立ち止まり、水たまりの前で警戒を強めたその刹那。


「――《アクアバレット》」


呪文を紡ぐ声はひそやかに、けれど確実に魔力を解き放った。

鋭い水球が闇を裂き、男の顔面へと一直線に叩きつけられる。


「っ――!?」


声にならないうめきと共に、男の体はぐらりとよろめき、そのまま地面に倒れ込んだ。焚き火の明かりがちらちらと揺れているが、音は抑えられた。


「……うし、成功っ」


『さっすがアメリア!』


わたしは小さくガッツポーズを取る。

すかさずユグルが手をかざすと、地中から伸びた蔓が見張りの男を拘束した。これで万が一目が覚めても、そう簡単には起き上がれないはず。


「さて……奥に何人いるかはわからない。でも、声の感じだと五、六人くらい……もしかしたらそれ以上かもしれないし」


『どうする?一気に突っ込むか?』


提案したのはイグニ。だが、わたしが返答を考えるより早く、ユグルがすっと口を挟んだ。


『突撃はリスキーすぎる。坑口という地形を利用して、僕が眠らせよう。アメリア、息を止めていて』


そう言って、彼は静かに廃坑の入り口へと腕を伸ばす。

《眠りの花》――空気に香るだけで意識を奪う、芳香系の幻惑魔法。


彼の掌に淡く光る花が咲き、目に見えぬ霧がふわりと流れ込んでいく。

わたしは息を止め、霧が奥へと広がるのを待った。


……やがて、話し声が止み、どさっ、と何かが倒れる音。


「……効いたみたい」


わたしが小声で言うと、イグニが嬉しそうに前のめりになった。


『よっしゃ!中、確認してみよう!』


わたしたちは細心の注意を払いながら、坑道に足を踏み入れた。


廃坑の内部は広くはなかった。

焚き火の残り火が灯る空間に、男たちが何人も眠っていた。全員ぐっすり、まるで子供のように。鎧や武器が散らばっているが、もう脅威にはならない。


「ふう……成功、かな」


『俺らの大勝利だな、アメリア!』


イグニが軽く親指を立てる。ティアは倒れた男たちを見回しながら口を開いた。


『目を覚ます前に、さっさと縛っちゃいましょ』


『早く、村にも知らせに行くべきだ』と、ユグルが冷静に告げた。


「うん。これで……村の人たちも、安心して眠れるはずだよね」


わたしは静かに頷き、盗賊どもを魔法でぐるぐる巻きにする。

あとは村人たちに知らせるだけだと洞窟を出ようとしたところで、ひとつの人影が立ち塞がった。


「よくもまぁ、俺がいない間に仲間を眠らせてくれたなぁ……お嬢ちゃん」


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