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19話 冒険者ギルト

夜の森の浄化を終えたわたしたちは、無事に隣国・エルシオン帝国への入国を果たした。

簡単な審査を受け、門をくぐる。緊張は一瞬で、すぐに目に飛び込んできたのは、活気にあふれる街の風景だった。


「辺境の町だっていうのに、けっこー賑やかだなぁ」


石畳の通りには人々のざわめきが響き、商人たちの威勢のいい呼び声があちこちから飛び交う。

子どもたちが小走りで駆け抜け、屋台からは揚げ物や香辛料の香りが漂ってきた。


『あら、兵士の数がやけに多いわね?』


「……ほんとだね」


街中で、鎧に身を包んだ兵士たちはひと際目立っていた。

肩の徽章が朝日に反射し、規則正しい足音を響かせながら巡回する様子は、町全体に緊張感を与えている。

クローネンベルク国と夜の森に接する町という立地ゆえ、防衛が手厚くなっているのだろう。

それにしても、兵士の数がやけに多い気がするけど。まるで何かを警戒しているかのように、通りの隅々まで目を光らせている。


『なんだか物騒ね……』


ともあれ、まずは冒険者ギルトへ行く。

先の事を考えれば、冒険者登録を済ませておきたいし、夜の森で手に入れた素材や魔石を換金して軍資金にする必要もある。


「ここが冒険者ギルトか……」


『冒険ギルド』の看板を掲げた、年季の入った木造建物。ゆっくり扉を開ければ、真昼間からする酒盛りの臭いに酔っ払いたちの声。


建物のなかには、ざっと見20名ほどの男女がいた。そのうち半数近くがカウンター前に列を作り、残りは丸テーブルを囲んで談笑している。立ったまま談義に興じる者もいて、騒がしさは酒場と変わらない。


わたしのような年端もいかない少女が現れたことで、その視線のいくつかがこちらへと向いた。


「んあ?ここはお嬢ちゃんみたいなガキが来る場所じゃねーぞ、ぎゃはははは」


からかいの声を無視して、わたしは受付へと向かう。

カウンターには数人の受付嬢がいて、手際よく冒険者たちの対応をしていた。そのひとりが、わたしに気づいてにこやかに声をかける。


「こんにちは。今日はどうなさいましたか?」


「冒険者登録に来ました」


「分かりました。では、此方の紙に記入していただけますか」


「はい」


渡された用紙に名前や年齢、簡単な経歴などを記入し、丁寧に返す。

受付嬢はそれを確認すると、水晶のような球体を差し出してきた。


「最後に水晶に手を当てていただけますか」


促されるままに手をかざすと、ほんの少しだけ力が抜けると同時に水晶が光った。


「犯罪歴はないようですね。では……、こちらが冒険者カードになります」


さっきの水晶は、犯罪歴の有無を調べるためのものらしい。

受け取ったカードは、手のひらに収まるシンプルな板状。名前と冒険者ランクが刻まれ、これ一枚で冒険者としての身分が証明される。紛失した場合にはギルドにすぐに届け出を出すよう、受付嬢に念を押された。

名実ともに冒険者になったことで喜びが込み上げてくる。


「登録は以上となります。何かご質問がなければこれで終了となります」


「あっ、魔物を倒して手に入れた魔石と素材の換金をお願いしたいんですが……」


「買い取りでしたら、あちらのカウンターでお願いします」


わたしはその足で、ギルド内の買取窓口へと向かった。

無愛想そうなおじさんがカウンターの奥で帳面をめくっていたが、わたしが近づくと、ちらりと顔を上げた。


「ん、出してくれ」


促されるままに、わたしはアイテムボックスから魔物の素材を取り出していく。

まずはコカトリスの嘴と牙。それに、バジリスクの鱗。二匹ともの魔石も忘れずに。カウンターに並べるたび、おじさんの目が次第に見開かれていく。


「おお、アイテムボックス持ちか!しかも、コカトリスに、バジリスクだと!??あんた、見た目に似合わず、相当やるな……よっぽど腕の立つ魔法使いか何かか?」


驚きを隠せない様子で、わたしをまじまじと見つめてくる。

年端もいかない少女が、普通なら冒険者でも手こずるような高ランク魔物の素材を平然と持ち込んだのだから、無理もない。

おじさんが査定している間、わたしは世間話といった感じで質問した。


「そういえば、なんだか町に兵士が多いですね……なにかあったんですか?」


「ん?ああ、それか。普段はこんな物々しくねぇんだけどな。最近“夜の森”に異変があってな、国から調査隊が派遣されたらしい」


夜の森――その名が出た瞬間、心臓がどくりと跳ねた。

おじさんは、気にも留めず話を続ける。


「この百年、瘴気が濃くなるばかりだった夜の森なんだが、数週間前から少しずつ、霧が晴れるように澄んできてるって話でな。で、昨夜あたりから、ほぼ完全に瘴気が消えたって噂が流れたのさ」


「へ、へえ……」


「まあ、俺らからすりゃありがたい話さ。ここらは夜の森から出てくる魔物のせいで、いつだって気が抜けなかったからな」


そう言って、おじさんはカウンターの上の素材を眺めて目を細めた。


「それにしても、これらの素材……まさか、あんた、夜の森に入ったってんじゃ……?」


「まさか。隣国から来たんですが、その道中で出くわした個体を狩っただけです。……たぶん、森から流れてきたんでしょうね。あはは!」


流石に夜の森の瘴気を消した張本人がここにいるとは言えない。

夜の森の主の素材は査定に出すのはやめておこう……。いろいろと騒ぎになりそうだし、しばらくはアイテムボックスの中で眠っていてもらうことにしよう。


「そうかい……。ま、変に詮索はしねぇさ。こちとら品さえ良けりゃ文句はねぇ」


おじさんは慣れた手つきで帳面に数字を走らせると、奥から金貨を取り出してきた。

じゃらりと音を立てて、金貨を十枚ずつ、2つの束にしてカウンターに並べる。おじさんはそれらを布袋に詰め、手渡してくれた。


「金貨20枚。これが今回の買い取り額だ。なかなかの稼ぎだぞ、お嬢ちゃん」


「……ありがとうございます!」


わたしは満面の笑顔で受け取った。

日本で言うと、金貨1枚=10万円ぐらい。なかなかなんてものじゃない、孤児だったわたしには、目玉が飛び出るほど大金だった。

ずっしりとした重みを感じながら、それをアイテムボックスにしまう。今日は温かい食事と、ふかふかのベッドで眠れそうだ。にやけてしまいそうになるのを必死に我慢した。


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